新・編集長コラム

いま広がる「居酒屋以上割烹未満」とは?

昨今の飲食トレンドのひとつに「居酒屋以上割烹未満」がある。その名の通り、居酒屋よりもアッパーだけど割烹ほどかしこまらずにカジュアルに楽しめる、スキマを狙った業態だ。ここ2~3年でこれに準ずる店が増加したように思う。

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


活気あるカウンター、料理の個々盛り、単価は1万円超えないライン

ざっと「居酒屋以上割烹未満」の特徴をまとめると以下。

スタッフの接客力が生きるカウンターで居酒屋らしい活気を演出しつつ、料理は割烹レベルに近づけたものを用意。盛り付けは大皿ではなく、お客一人につき一皿の個々盛りで提供する。コロナ禍の感染予防で広がった個々盛りは現在も「とりわけの手間がなくていい」と好評。単価は6000~1万円弱。3000~4000円の居酒屋よりは高いが、1万円いかないギリギリのラインを狙い、若い人に手が届く特別、もしくは富裕層のカジュアル使いを狙う。

もともとこのスタイルの代表格と言えるのが2011年オープンの「高太郎」や2018年オープンの「酒井商会」など、中村悌二氏卒業生によるいわゆる「なかむら一門」の店だ。特に2020年に「酒井商会」の新店舗として恵比寿にオープンした「創和堂」の店づくりは多くの飲食関係者に感銘を与えた。隠れ家的な佇まいにもかかわらず、多くの業界関係者が訪れたため知人に遭遇するケースが続出し「隠れられない」と評判になったほど。

トレンドの波は都心から郊外にも

2022年、恵比寿にオープンした「福味み」は、楽コーポレーション卒業生、福留達成氏の独立店舗だ。「創和堂」にインスピレーションを受け、割烹と居酒屋、両方で経験を積んだ同氏だからこそできた両方のいいとこどりの「居酒屋以上割烹未満」になっている。このように、居酒屋経験が長い店主が「居酒屋以上割烹未満」を続々と出店している。三軒茶屋の繁盛グループ「マルコ」出身店主の神泉「神泉たつ」(近々移転予定とのこと)、「魚真」や「魚まみれ眞吉」出身店主の渋谷「うゆう」、“20~30代が初めて行く小料理屋”をコンセプトにした新宿「めしやヒロキ倶楽部」、「なかめのてっぺん」などのMUGEN社長・内山氏が現場に立つことで話題の麻布台ヒルズ「居酒屋うちやま」なども「居酒屋以上割烹未満」と表現して差支えないのではないだろうか。

その流れは都心から郊外にも広がり始めている。久米川「炉端ましかく」、船橋「炉端のしん歩」、千葉「食堂こじゃれ」、日吉「飯酒トモエ」など。わざわざ都心に行かなくても近所でいいものが嗜めると、郊外に潜む高級志向な人々のニーズを満たしている。

アパレルの世界的トレンド「クワイエットラグジュアリー」

背景にあるのは飲食店の二極化だ。こうしたアッパー居酒屋が増える一方で、単価1000~2000円の激安居酒屋も勢いを増している。とにかく安さ・コスパを重視する層がいる一方で、適正価格でいいものを楽しみたいというニーズも顕在化した。いま後者のようなお客の本物志向がより強まっている。現在、アパレル業界では「クワイエットラグジュアリー」が世界的なトレンドだ。“控えめな・静かなラグジュアリー”として、タイムレスで主張の少ない、ミニマムで上質なデザインを指す。ひと昔前はハイブランドのロゴがこれ見よがしに印刷されたものや、華美な装飾のスタイルが流行っていた。そうした主張する必要がない本物の富裕層から「クワイエットラグジュアリー」が好まれているということだ。居酒屋も同じで、写真映えする盛り付け、パフォーマンス、トレンドの表面的なトレースばかりに走って中身のないものは見透かされるようになっている。本物志向のお客が求めるのは、一見すると地味だけど、骨太な料理・サービス。それらを勇気をもって適正価格で提供することが一番の勝ち筋なのかもしれない。

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