スペシャル企画

【噂の繁盛店】30歳未経験、毎日泣いて帰った下積みから西新宿の繁盛店へ成長。『黒毛和牛焼肉 白か黒』兒玉氏が貫く「父親の背中」と覚悟の肉道

西新宿に独特な店名で存在感を放つ焼肉店、『黒毛和牛焼肉 白か黒』。その料理のクオリティもさることながら、多くのファンを惹きつけてやまないこのお店は、一体どのような経緯で生まれたのでしょうか。

今回はオーナーの兒玉さんに、波乱万丈すぎるこれまでの道のりをインタビューしました。30歳で未経験から飲食業界に飛び込み、有名店での過酷な修行を経て独立。オープン当初の苦悩からSNSでの大ブレイク、そして組織崩壊の危機まで、その全てを赤裸々に語っていただきます。この記事を読めば、白か黒の焼肉がもっと美味しく感じられるかもしれません。
(取材・執筆・文責:大山 正)


お話を聞いた株式会社SOAR 代表取締役で「黒毛和牛焼肉 白か黒」店主の兒玉 宇則さん。

【黒毛和牛焼肉 白か黒】

プレゼンテーター:大山 正

1982年東京都生まれ。成蹊大学卒業後、各種広告関係営業、外食企業のプロモーション・広報を経て、2014年1月、31歳で外食メディア「フードスタジアム」フードスタジアム株式会社 代表取締役就任。飲食店若手経営者の会「外食5G(現JFRX)」初代サポーター企業リーダー。2020年3月、株式会社ミライーツを設立。飲食業界における幅広い人脈、情報を持ち、飲食企業のサポートに従事する一方、本連載「噂の繁盛店」では独自に記事の取材・執筆・文責を手掛ける。

「俺の生きる人生はここじゃない」車屋から焼肉屋への意外すぎる転身

——もともと飲食とは違う業界にいらっしゃったのですよね?どのような経歴で、この業界に入られたのですか?

兒玉さん:僕が飲食業界に入ったのは、30歳を超えてからなんです。それまではバーテンダーをやったり、水商売をしたり、まあフラフラと(笑)。

——それは意外!確かにイケメンですものね(笑)。

兒玉さん:いやいや(笑)。でも29歳の終わりに子どもができたのを機に、人生の覚悟を決めようと。それで最初は知り合いの車屋さんで働き始めたんです。

 

——ちゃんとしたお勤めをしよう、と。

兒玉さん:はい。でも、入社して2週間くらいで「あ、俺が生きる人生はここじゃないな」って感じちゃったんですよ。もちろん職場の環境は良くて、先輩も優しかったんですけど、これから父親として子どもに背中を見せる仕事を考えたときに、この仕事じゃないなって。

 

——それで、どうされたんですか?

兒玉さん:じゃあ何をするかって考えたとき、自分が一番好きなことを仕事にするのが、子どもにかっこいい背中を見せられるんじゃないかと思ったんです。僕、学歴も何もないですけど、何が一番好きかなって考えたら、行き着いたのが『黒毛和牛』だったんですよ。なんでかって、小さい頃にじいちゃんが何かあるたびに片道1時間かけて三越デパートまで黒毛和牛のすき焼き肉を買ってきて食べさせてくれていたんです。超贅沢でしたがそれが黒毛和牛を1番好きになった理由なんですよね。

 

——お肉!車屋さんから、すごいジャンプですね!そして、シンプル動機が素晴らしい(笑)。

兒玉さん:もう、これ以上うまいものは世の中にないって昔も今も思ってるんで。その気持ちが固まったら、もう「焼肉店を出そう」と。自分が世界で一番うまいと思う黒毛和牛を使って店を出したいんだって奥さんに打ち明けて、仕事を辞めて修業に出ることにしたんです。そしたら奥さんが「ほんとにやりたいんだったら、やってみたら」って背中を押してくれて。それが最初のスタートですね。

 

泣きながら帰った毎日。超有名店での過酷な修行時代

——すごい決断ですね。そして素晴らしい奥様ですね。修業はどちらで?

兒玉さん:修業するなら一番おいしいと思う焼肉屋で、と思って、僕が大好きだった『焼肉ジャンボ』の白金店にお願いしました。共通の知り合いが社長さんを紹介してくれて、面接で「未経験ですけど、頑張るので勉強させてください」って伝えたら、採用してもらえたんです。

 

——超有名店じゃないですか!修業は大変だったでしょう?

兒玉さん:もう、過酷でしたね…。理不尽なことはない良い店だったんですけど、とにかく忙しすぎて。未経験だから要領もわからないし、作っても作ってもオーダーが止まらない。先輩からは「遅い」って言われるし、最初の半年間は毎日泣きながら帰ってました。「俺、ほんとにできんのかな」って。31歳の誕生日に、号泣しながら帰ったのは今でも忘れられないです(笑)。週末は夜だけで4回転とかしてましたからね。すごかったです。

 

——壮絶ですね…。そして涙…。エモすぎますね…。

兒玉さん:でも本当にいい経験をさせてもらって。『焼肉ジャンボ』には1年半いさせてもらって、その後はホルモンを学ぶために『亀戸ホルモン』、それから『KINTAN』でも1年ほど働かせてもらいました。社長面接では、履歴書の志望動機を書いてなくて『お前なめてんな』ってめちゃくちゃ怒られましたけど(笑)、バイトで雇ってもらえて。それで『KINTAN』では、恵比寿店の料理長が一からお肉のさばき方や原価計算をしっかり教えてくれて。その方との出会いも大きかったですね。

 

「ビビッと来た」運命の物件との出会いと、ついに独立へ

——修業をしながら、お店の場所も探されていたんですよね?

兒玉さん:はい、2年以上ずっと探してました。休みの日は不動産屋巡りです。でも全然見つからなくて。そんなある日、西新宿駅の前を通りかかったときに、なんかビビッと来る不動産屋さんを見つけたんです。

 

——おーそれは!呼ばれるような感じですか?

兒玉さん:そうなんです!なんか刺さって。吸い込まれるように入ったら、出てきたおじいちゃんが「3日後にまた来てくれ」って。それで3日後に行ったら、今の社長さん(おじいちゃんの息子さん)がいて、すごく若者を応援してくれる方だったんです。「いいね!物件あるよ、見に行くか!」ってすぐに連れて行ってくれたのが、今のこの場所です。

——そんなことありますーーー(笑)!?ドラマチックな展開!

兒玉さん:当時はオーナーさんのお姉さんが住んでいた家で、お風呂もトイレもある、普通の2Kみたいな間取りだったんです。どうやってこれを店舗にするんだ?って感じでしたけど、ポテンシャルはあるし、駅から近い裏通りで家賃も安い。「ここでやらなかったらチャンスは巡ってこないかも」って思って、その日のうちに「ここでやらせてください」って決めました。

 

「白か黒」はっきりした焼肉屋を

――そして2017年10月19日にオープンされるわけですが、『白か黒』という店名もかなりインパクトがありますよね。

兒玉さん:これ、いろんな意味合いがあるんですけど、一つは僕自身が結構悩む性格なので、自分の意思決定として『白黒はっきり付けたい』っていう願望があったんです。もう一つは、当時から焼肉店って世の中に溢れてたんで、何か一つ突き抜けたものがないと生き残れないだろうと。だったらもう、いい意味で『白か黒かはっきりした焼肉屋』にしようって。

 

――なるほど。コンセプトも「はっきり」してると。

兒玉さん:そうです。『うちの焼肉食べたらしばらく焼肉食わなくてもいいや』って思ってもらえるくらい、がっつりずっしりの焼肉屋を作ろうと。にんにく、しょうがをガツンと効かせた甘めのタレで、王道の焼肉で勝負したかった。ネオじゃなくて、王道で。でも、周りにはすごい大反対されましたよ。『そんな名前だめだ!』って(笑)。今となっては、つけて良かったと思ってますけどね!

焼く前から驚かされた『和牛炙りユッケ』。薄くスライスした和牛の赤身に特製のタレが絶妙に絡み、とろけるような食感がたまらない一皿。兒玉さんが修業で培った技術が、随所に感じられるメニュー。

 

閑古鳥から一転、SNSで大ブレイク

――その焼肉が自分も一番好きです。気になってきたなぁ(笑)。それでオープン当初、お客さんの反応はどうでしたか?

兒玉さん:いやー、もうめちゃくちゃ暇でしたね。最初の3日くらいは近所の方とか関係者が来てくれたんですけど、1週間も経たないうちにパタッとお客さんが来なくなって。『あれ、やべえなこれ』って。数ヶ月間、チラシ作って自分でポスティングしてました。不安でドキドキしながら。しばらく寝れませんでしたね。

 

――そこからどうやってブレイクしたんですか?

兒玉さん:創業メンバーから『SNSで、PR広告を出したらどうか』って提案があって、メガインフルエンサーさんにDMを送ったんです。『お願いします!』って。そしたら『いいですよ』って引き受けてくれて。

 

――効果は絶大でした?

兒玉さん:もう、投稿が上がった瞬間に電話が鳴り止まなくなって。ネット予約も一気に50件、60件ってドーン!と入ってきて、『うわー、やばいやばい!』って。すぐに求人出して人を増やして、そこから一気にフル回転になりましたね。ほんと、あの時はすごかったです。

 

「焼肉屋、できません」2号店計画で訪れた最大のピンチと、奇跡の業態開発

――そして2号店の出店につながるんですね。

兒玉さん:そうですね。ずっと一緒に頑張ってくれてる仲間のために、キャリアアップできる環境を作りたいっていう思いが強くて。1号店と同じ不動産屋さんに「いい物件ないですか?」ってずっと相談してたんです。

 

――また運命的な出会いが?

兒玉さん:1年越しでようやく「出るぞ!」って教えてもらった物件があったんですけど、ここで問題が発生したんです。なんと「設備の問題で焼肉屋はできない」って言われちゃって。

 

――ええー! 焼肉屋なのに!?

兒玉さん:もう頭真っ白ですよね。でも、ずっと「やるぞやるぞ!」ってみんなで盛り上がってた手前、今さら「焼肉できないからやっぱやーめた」なんて言ったら、スタッフの期待を裏切ることになる。僕自身も店舗展開したかったし。それで、発想を転換したんです。「この箱でできることはなんだろう?」って。

 

――焼肉以外の道を探ったと。

兒玉さん:ヒントになったのが、1号店の人気メニューだったんです。「幸せのサーロイン」とか「厚切りのタン」とか、スタッフがお客さんの席で焼いて提供してたんですけど、満席になると焼き加減にムラが出ちゃうのが悩みで。だったら、コンベクションオーブンを使って完璧に調理した肉料理を提供できる店を作ればいいんじゃないか!ってひらめいたんです。

 

――それはすごい。焼肉しかできない人には考え及ばないアイディアですね。

兒玉さん:でも。焼肉屋がコンベクションオーブンなんて普通は使わないから、完全に独学です。メーカーのテストキッチンに肉を持ち込んで、何度も試作して。そうやって生まれたのが、今の二号店のスタイルなんです。焼肉ができないっていう制約があったからこそ、奇跡的に生まれた業態なんですよね。

新宿牛タンローストビーフ 白か黒

V字回復と未来への展望

――ただ順風満帆に見えますが、2号店を出されたタイミングで、創業メンバーが全員辞めてしまうという大きな危機があったそうですね。

兒玉さん:はい…。そこはもう、僕の未熟さですね。スタッフのステップアップの場所も作りたかったし、僕自身も店を出したかった。でも、何も固まってないし、成長もしてない、準備ができてないまま2店舗目を出してしまった。コミュニケーションが全然足りてなかったんです。それで、創業メンバー含め社員がみんな辞めるってことになって。当時いたアルバイト25人くらいと、一人一人面談しました。

 

――1人で2店舗は無理だと、お店を閉めることも考えましたか?

兒玉さん:正直、『あー、しよっかなあ』って思いました。でも、面談したらアルバイトの半分以上が残ってくれたんですよ。『頑張りましょう、やってみましょうよ』って言ってくれて。

 

――そこから、どうやって立て直したんですか?

兒玉さん:そんな大変な時に、取引先の肉屋の社長が電話をくれて、『社長大変でしょう。右腕になるやつがいるよ』って、今のうちの社員を紹介してくれたんです。彼がジョインしてくれて、『こっち(焼肉屋)は、ランチやめましょう!』って提案してくれたり、いろんな判断をしてくれて。本当に救われました。

 

――素晴らしい出会いですね。今後の展開はどのように考えていますか?

兒玉さん:まずは会社の土台をしっかり固めたいですね。『白か黒か』はどんな肉屋なんだっていうのをちゃんとお客さんに認めてもらってからが次だと思ってるので。働くスタッフが誇りを持って働けるお店作り、それが一番です。その上で、もう1店舗、西新宿で次は絶対に焼肉屋をやりたいと思っています。僕自身、まだ店長だと思ってるんで。ちゃんと経営者として仕事ができるようになってから、次のステップに進みたいですね。

 

——職人さんらしい、素晴らしいお答え(笑)。着実に一店舗一店舗、ですね!ありがとうございました!

 

編集後記

久しぶりの焼肉店取材でした。こちらのお店は、開業当初からその特徴的な店名もあって、ずっと気になっていた存在。先日、二号店にお邪魔した際に兒玉さんとお会いすることができ、その場で取材をお願いしたという経緯です。とにかく、料理が美味しい。「肉を扱わせたら間違いない」。そんな印象の兒玉さんです。ますます気になって、帰り際に焼肉店取材では“あるある”の「どちらで修業されたんですか?」と聞いてみると、出てきたのは誰もが知る有名店の名前。「なるほど、そりゃ美味しいよね」と納得したのですが、まさかそこに至るまで、まったくの異業種から飲食の世界に飛び込んでいたとは思いもしませんでした(笑)。

お話を聞いて感じたのは、兒玉さんはまさに「覚悟と努力の人」だということ。取材を終える頃には料理が気になりすぎて、そのままお店で食事をさせていただきましたが、本当にいい焼肉を提供されています。食べ終わった後、思わず店主と握手したくなる——この感覚、わかる人にはわかると思います(笑)。それくらい、素直に「美味しかった!」と伝えたくなる焼肉です。

これからも自分自身とスタッフを大切にしながら、兒玉さんらしい繁盛店をつくり続けてほしいと思います。これからの展開も楽しみに、応援しています!(聞き手:大山 正)

 

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