高円寺の住宅街に潜む「上質なカジュアル」ニーズをとらえた店が続々
2023年8月にオープンした「動悸」。「トキメキ」と読むこのお店は「食べると勝手にととのう居酒屋」をコンセプトとした単価5000~6000円の落ち着いた居酒屋です。運営はフードクルーズファクトリー、自社業態「串あん」から、「土間土間」「Di PUNTO」といったFCブランドまで運営している飲食グループです。代表の澤邉真一さんは、「Di PUNTO 高円寺店」のFCを運営する中で、「高円寺は実は高所得者も多く、上質なものをカジュアルに楽しめる店も求められているのでは」と考え、同店を出店。実際に、メインストリートを外すと住宅街が広がっています。そこに住む感度の高い人たちがカジュアルに利用できる店づくりを意識したそう。実際に「動悸」は近所に住む家族連れも多く訪れ、狙い通りだったようです。
それに追随するかのように「上質なカジュアル」をテーマにした店が高円寺に登場しています。
9月、高円寺駅近くの雑居ビル2階にオープンした「酒坐愛次郎(さけぐらあいじろう)」は、いわゆる「居酒屋以上割烹未満」なお店です。店主の谷村愛弘さんはベイシックスはじめ様々な居酒屋で勤務した一方で、「並木橋なかむら」「田中田」といったアッパー居酒屋でも経験を積み、双方のいいとこどりをした店づくりを実践しています。谷村さんはもともと高円寺で働いていた時期も長く、その地域性を熟知しており「単にアッパーな店をやっては高円寺に受け入れられない」と、価格設定では高円寺の地域性を意識。グラスワインは600円から設定する一方で、しっかりいいものを楽しみたい層がいることも睨み、今後はやや上のラインのワインも用意していきたいとのこと。まだオープンしたばかりで、しかも視認性が良いとは言えない立地ですが、今後、高円寺の「上質なカジュアル」を求める層に広がっていきそうな一軒です。
5月、高円寺パル商店街沿いにオープンした「en」は、日本ワインと和食の店。「高円寺アッカ」や、西荻窪「たべごと屋 のらぼう」で修業した齊藤 剣さんの独立店で、自身が好きな日本ワインと和食をやりたいという思いを持ちつつ、やはり価格設定をするにあたり高円寺の地域性が意識されています。常時10種類ほどを揃える日本ワインはすべてグラス990円。銘柄により分量を変えることで調整をしている。「1杯1000円を切る」ことが、価格に厳しい高円寺で受け入れられるポイントだと考えたそう。料理も、クオリティの高いものを提供していますが使用する素材などを吟味し、手の届きやすい価格にされていて、例えば土鍋ごはんは1000円台後半ほどで、2000円を超えないくらいです。最近、多くの居酒屋が土鍋ごはんを提供していますが、より都心の方だとイクラやウニ、和牛など豪華食材を使って3000円や4000円する土鍋ごはんも珍しくなくなりました……。「en」は、あくまで、地域の人がカジュアルに楽しめる域を出ない範囲で上質なものを提供しているお店でした。
以前、「居酒屋以上割烹未満」に関するコラムを書きました。手ごろな価格の居酒屋が盛り上がる一方、上質なものを楽しみたいニーズも顕在化し、「居酒屋以上割烹未満」は後者のニーズにうってつけです。今回紹介したお店は後者に当てはまるでしょう。高円寺にもこの流れが広がっていることを実感しました。