新・編集長コラム

いま改めて「学大」――一躍、酒場のトレンドエリアとなった街の現在は?

「フードスタジアムから見て、いま注目すべき酒場エリアはどこですか?ひと昔の学大みたいな…」という質問をもらいました。学芸大学がひと昔という認識になっているのか~と思いつつ、確かに“最新トレンドを追いかける”という視点で見ている場合は、実際にそういう実感もなくはないと思いました。しかし、本当に学大は“ひと昔”のものになってしまったのでしょうか?今回は学芸大学の“今まで”と“現在”の酒場シーンについて考えたいと思います。

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


学大を盛り上げてきた“第一世代”から“第三世代”

東急東横線で渋谷から4駅の「学芸大学」。2010年代ごろから「リ・カーリカ」や「レインカラー」、「アオギリ」など気鋭のグループを中心に酒場シーンが盛り上がり始めました。赤提灯の大衆酒場のみならず小ぎれいなワインバルのような店も多く、オシャレ酒場タウンのイメージが定着していきました。住民にはきっちりした会社員ではなく自由に仕事をするフリーランスやアーティスト系の仕事をする人も少なくないことから、そういった感度の高い人たちと親和性の高い店が人気を得ていきました。

2010年代半ばから2019年頃までには「茶割」「鳩乃湯」「浮雲」「Tsukinowaguma」といった繁盛店が登場。先述のグループが“学大第一世代”だとしたら、これらは“第二世代”として学大の勢いに弾みをつけたのではないでしょうか。

2020年にはコロナ禍となり、酒場の勢いが衰えるか……と思いつつ、学芸大学ではリモートワークにより渋谷などの都心部に出ていた人が地元で飲むようになったことで、かえって酒場シーンは盛り上がっていったように思います。2021年頃のコロナ禍でオープンしたのが「ホドケバ」「韓国スタンド@」「警視鳥」「びゃく」「Another8 Corner」など。これらの店はコロナ禍にも関わらず多くの人を集客した、というより、コロナ禍だからこそ人を集めたのかもしれません。これらが“学大第三世代”でしょう。

なお、学芸大学にはまだまだ魅力的な店はあり、街の情報については、学芸大学情報を発信している「肝臓公司」さんの方がよっぽど詳しく、いつも参考にしています。

「学大で独立!」はもう難しい?

さて、飲食店のオーナー目線で考察してみましょう。ひと昔前の学芸大学は、長年の修業を終えた「お金はないけど熱意とセンスはある」ような料理人がこぢんまりとしたワインバルなどで独立しようとする際に候補に挙がる街でした。しかし、先述の通りエリア人気が高まり、それに伴い家賃も急騰。個人の独立店を出すには厳しい市況となっています。実際に2023年頃からは、そうした学芸大学で独立を考えていた人は諦めざるを得ず、結果、もう少し郊外の私鉄駅周辺や、もしくは東京イーストエリアに独立の舞台を移すようになっていきました。実際に「学芸大学で探したが、希望に叶う物件が見つからなかった」という声は取材でよく聞ききました。

一方で、大手などの資本力のある企業が学芸大学に目を向けるようにもなりました。大手がその資本力を生かし物件を取得し、個人店のような空気感を再現した新業態を学芸大学に出店するケースもちらほら。独立者の挑戦的な店が減り、大手が進出してくるようになったあたりが”ひと昔前”と言われるゆえんなのかもしれません。しかし、最近は高架下の再開発も本格的に始まっており、学芸大学の街の様子は変化しています。現在の学大はどのようになっているのでしょうか?

「世界で最もクールな街」にランクイン、再開発も進みますます魅力的なエリアに

2024年9月には、TimeOutの「世界で最もクールな街」のひとつに学芸大学が15位にランクインし、話題になりました。コロナ禍も落ち着き始めた2023年頃からは「焼鳥やおやHANARE」「lulu」「目黒 三谷」「干支屋」といった気鋭の酒場が登場。

高架下の新店も見逃せません。高架下の商業ゾーン「GAKUDAI PARK STREET」では学芸大学らしい新スタイルの書店「COUNTER BOOKS」をはじめ、飲食店に限らず様々なテナントがオープンしています。

ここで最新の注目店を2つご紹介します。「GAKUDAI PARK STREET」内にオープンした「有縁(うえん)」は、WATやフェアグランドで修業した店主による、純米酒と小料理のカウンター酒場。わずか9席の小体な店ですが、店主の丁寧な接客を発揮するにはむしろちょうどいい空間でした。もう一つ、駅西口方面にオープンした「gastronomia(ガストロノミア)」にも唸りました。松見坂のイタリアン「チニャーレ エノテカ」の系列で、もともと倉庫として使っていたわずか3坪ほどの空間に5席を配置して2024年7月より営業を始めたそうです。料理人一人しか入れないコックピットのような厨房から繰り出されるのは本格派のイタリアン。雑誌「料理通信」の人気企画だった「小さくて強い店」のお手本のような店づくりで、雑誌「料理通信」が今もあれば間違いなく取材が来ていたでしょう…。

これらの店が“学大第四世代”として、学芸大学のこれからをかたちづくっていくのでしょう。ますます魅力的な街へと変化している学芸大学は、まだまだ“ひと昔前”ではありませんでした。酒場の最新トレンド視察をしたい場合は、ぜひ学芸大学に出かけてみてはどうでしょうか。

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