飲食店・レストランの“トレンド”を配信するフードビジネスニュースサイト「フードスタジアム」

ヘッドライン

ファーム・トゥ・テーブルの旗手、無農薬・無化学肥料の野菜を自社農場で栽培するALL FARM。注目の3店舗目「STAND BY FARM(スタンド・バイ・ファーム)」が、東銀座に1月6日オープン

トタンの扉にはスコップの取っ手。同社の個性を表現したファサードが印象的だ
「農家の小屋」をイメージしたデザイン。端材や農具などをセンスよく組み合わせ、同店らしいファームっぽさを演出している。テーブルや椅子、ワインシェルフにいたるまですべて古森氏をはじめスタッフの手作りだ
同社の名物メニュー「ケールのワイルドシーザーサラダ」(480円)はボリューム&栄養満点。2〜3人でシェアするのがおすすめ
ビーツとその葉を使った「サラダ ビーツフルーツドレッシング」(480円)。あまり見かけないが、〝食べる輸血〟といわれるほど栄養豊富な野菜だ
株式会社ALL FARM 代表取締役 古森啓介氏

(取材=望月 みかこ)


無農薬・無化学肥料・固定種・露地栽培で野菜を育て、その日の朝に収穫したものを店で提供する。もっともハードルの高い農業に挑みながら、都内で飲食店を営む企業のALL FARM(東京都渋谷区、代表取締役 古森啓介氏)。同社は野菜料理メインの人気レストラン「WE ARE THE FARM」を代々木上原と恵比寿で2店舗を運営する。1月6日、同社3店舗目となる野菜バル「STAND BY FARM(スタンド・バイ・ファーム)」がオープンした。自社で育てた野菜を使い、極力シンプルに素材をいかした調理法で提供するというスタイルは変えずに、単価を2000円も下げた挑戦店だ。場所は、東銀座駅から徒歩3分ほど、歌舞伎座の裏手、老舗も多く軒を連ねるエリアだ。「“オーガニック野菜は高い”というイメージがあります。価格を抑えることで、誰もがもっと気軽に楽しめる店にしたかったんです」と代表の古森氏。同社の動きに業界内外から注目が高まる。

午前4時、夜明け前——。肌を刺すような冷たく新鮮な空気があたりを包む。収穫を待つ畑がずっと遠くまで続く。ここは同社が運営する「在来農場」だ。この1万2000坪におよぶ広大な農地で、無農薬・無化学肥料・固定種・露地栽培の野菜のみ、約150種類を育てている。収穫した野菜を都内の店に届けるために、毎朝5名のスタッフが総出で収穫にむかう。「農業は労働集約型の産業です。農地を広げれば、それに比例してコストもかかってきます。だから、飲食店と両輪でまわしていく必要があるんです」(古森氏)。無農薬・無化学肥料にこだわる分、一段と作業も増える。野菜に虫がつきやすく、ひとつひとつ手作業で取り除く。寒さが厳しい朝、手が凍り付きそうになるのを耐えて作業をこなす。しかし、しんどいばかりが農業ではない。「店側のスタッフもしょっちゅう農業を手伝いにいきたがるんですよ」(古森氏)。自らの手で育てた食材には愛情が湧く。育て、作ることに喜びを覚えると、自然と農場へ足が向くようだ。スタッフが体験を通して思いを共有することで、店に一体感を生み出しているのも同社の魅力の一つだ。

昼前、在来農場で収穫した新鮮な野菜が店に届く。「畑で穫ってすぐ食べる野菜が実は一番美味しいんです。この味を知らない人がとても多い。野菜の本当の美味しさをうちで知ってもらえれば」(古森氏)。鮮度が味に大きな影響を与える野菜をメインに据えているため、朝採れにこだわる。今回の3店舗目は、これまでの客単価5000円から3000円へと大幅に抑えた。「自然の力で育った固定種の野菜を、より多くの人に届けたいから」というのが理由だ。「オーガニックやマクロビオティックなどの食事法をストイックにがんばるよりも、基本的には好きな物、美味しい物を楽しく食べて、結果的にそれが体にいいものだった。そんな感覚でいいと思うんです。いつもコンビニ食で食事をすましている人が、うちみたいな店に来てくれる回数が少しずつ増えたらうれしいですね」と古森氏は話す。

同社の食に対する理念は「身土不二」と「一物全体食」。聞き慣れない言葉だが、もとは仏教用語として生まれ、近年ではマクロビオティックの文脈で使われてきた。前者は「人の身体とその土地の土は切り離せない」という考え。後者は、食材を、そのもの全体で一つの命ととらえ、まるごと食べることで身体が整う、と説く。同社では「その土地・季節・気候で育った野菜を、できるだけまるごと食べることが一番身近な健康への第一歩」と解釈し、実践している。

メニューは「本日の朝摘み野菜」として、480円均一で野菜料理約30種類を提供する。内容はその日に収穫した野菜に合わせて考案。「ケールのワイルドシーザーサラダ」や「里芋 鉄板焼き −自家製醤油麹−」、「蕪 丸蒸 −完全無農薬甘味噌−」など、素材の味を存分にいかした体に優しいメニューが揃う。一品メニューも充実する。「餃子」(4個、650円)、「豚のグリル瞬間燻製」(250g、1380円)、「黒田五寸人参 −フォアグラソテ−」(1280円)など、肉がバランスよく配され、物足りなさを感じさせない。ドリンクメニューにも、同社の理念が貫かれているのが見てとれる。名物の「ケールビール」(680円)や「オーガニックビール」(720円)など、環境と体に配慮したものが多くならぶ。「焼酎」(芋・麦、720円)や「日本酒」(750円)は、無農薬の原料でつくったものを中心にセレクトしている。

代表の古森氏は、実はもともとジャンクフード好きだった。ある加工品の生産現場で大量の化学調味料や化学薬品を使っているのを目の当たりにし、衝撃を受けたことがきっかけとなり、食の背景について問題意識を持ち、知見を広めていったそうだ。突き詰めると「完全に安心できる食は自分たちで作る以外にない」と思い、相互に補完する農業と飲食店の事業構想を描くに至る。和食や鉄板焼き店などで、料理人として腕を磨き、思い描いていたプランを実行に移していく。共同創業者で、現在は「在来農場」の農場長・寺尾卓也氏とともに千葉県佐倉市で土作りを開始。同地を選んだのは、都内までの流通が1時間半以内であることと、土壌がよかったからだ。そして、本格的に農業を開始。続いて2014年、代々木上原に1号店「WE ARE THE FARM」をオープンさせ、飲食事業を開始した。「最初の一年は本当にきつかったですね。貯金が尽きかけたこともありましたが、口コミでお客さんがお客さんを連れてきてくれるようになり、徐々に軌道にのりはじめました」と当時を振り返る。2015年11月、2号店を恵比寿に出店。いずれも連日満席の繁盛店だ。

一次産業全体の底上げ。これが同氏の目的だ。そのための手段として、はじめに選択したのが「農業」と「飲食店」だった。3月には、西武池袋本店にケール専門店を出店する。自社のケールをジュース等に加工して販売する予定だ。今後は、売り先がなく廃棄されてしまう野菜の買い取りや、八百屋の出店なども計画中だ。「課題はまだまだたくさんありますが、物流は当面の大きな課題です。トラックや出荷場を整備して流通体制を強化中です」と、生産、流通、加工、販売までを一貫して手がけるために精力的に動く。だからこそ「安心」できる食を届けられる。今、日本の食をめぐる産業は変革を迫られている。彼らはそれに対して一つの“答え”を提示する。飲食店の枠を超えて、真正面から「食」に取り組む彼らは、よりたくさんの共感を集め、さらに大きな流れを生み出していくことだろう。

店舗データ

店名 STAND BY FARM(スタンド・バイ・ファーム)
住所 東京都中央区銀座3-12-7 原町ビル1F

 >> GoogleMapで見る

アクセス 東京メトロ日比谷線、都営浅草線「東銀座駅」から徒歩3分
電話 03-6264-7460
営業時間 ランチ11:30〜15:00、ディナー17:00〜24:00
定休日 なし
坪数客数 21坪 49席
客単価 3000円
運営会社 株式会社ALL FARM
関連リンク ALL FARM(HP)
関連ページ WE ARE THE FARM 恵比寿店(記事)
※店舗情報は取材当時の情報です。最新の情報は店舗にご確認ください。

ヘッドライン一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集
Copyright © 2014 FOOD STADIUM INC. All Rights Reserved.