プレゼンテーター:大山 正

1982年東京都生まれ。成蹊大学卒業後、各種広告関係営業、外食企業のプロモーション・広報を経て、2014年1月、31歳で外食メディア「フードスタジアム」フードスタジアム株式会社 代表取締役就任。飲食店若手経営者の会「外食5G(現JFRX)」初代サポーター企業リーダー。2020年3月、株式会社ミライーツを設立。飲食業界における幅広い人脈、情報を持ち、飲食企業のサポートに従事する一方、本連載では独自に記事の取材・執筆・文責を手掛ける。
キャッチで月収50万、27歳で年収1000万。それでも「先が見えない」と思ったワケ
——遡っていきますが、もともとは純粋な飲食人というより、大崎くんは前職で飲食店のサポーター側だったわけじゃないですか。そこからどういうふうに、飲食店経営に入ってくるんですか。
大崎さん:いや、元々僕、飲食のナンバー2だったんですよ。学生入ってすぐいわゆる「キャッチ居酒屋」でアルバイトして、19歳で月収50万円とかありましたね。金を稼ぐって簡単じゃんみたいな。違う意味で勘違いヤローになっちゃいます(笑)。稼いだお金は、全部使っちゃう。大学生で月50万あれば、結構、色々できますからね。大学4年生の時に中退して、それからTune upっていう神奈川の会社を岩城さんという社長と一緒に創業から立ち上げて。それが21歳とかの時ですね。

——ああ、そうだ、岩城さん。その話、聞いたことありましたね。
大崎さん:そこがスタートで、キャッチの会社から飲食店を始めて、8店舗ぐらいまで一緒にやりました。でも、5、6年やってみて、マジで先が見えなくなっちゃって。自分だけ27歳で年収1000万円超え、現場の社員は300〜400万。労働環境も「ホワイト」とは言えない。どうやって従業員の給料を上げるのか、どうやってPLを改善するのか、まったく分からなかった。「これ、このままじゃ俺終わるな」って思って、いったん勉強しようと。それで飲食特化の人事コンサル会社に入ったんです。
——なるほど。そうでした、そこで前職の人事コンサル会社に出会うってわけですね。Tune upを辞める時は、岩城さんになんて伝えたんですか?
大崎さん:もう、「先が見えないです」ってストレートに言いました。当時、会社がうまくいってない時期で、ゼロからイチを作る岩城さんと、人事を担当する僕とで、だんだん人の方が強くなっちゃうじゃないですか。もう、「人を大事にできないなら、やってる意味ないな」って。転職をして給料も半分以下になりましたけど、一度現場を離れることにしたんです。
——その頃はキャッチ居酒屋全盛期ですが、かなりハードな環境だったとか?
大崎さん:新横浜でやってたんですけど、2回くらい拉致られましたね(笑)。社長じゃなくて、現場のトップだった僕が。まあ、そういうのは別に良かったんですけど、とにかくやり方が分からなかった・・・(汗)。
——それで、前職の人事コンサル会社に入り学びがあったというわけですね?
大崎さん:10ヶ月くらいしかいなかったんですけど、めちゃくちゃありました。一番良かったのは、僕が抱えてた悩みって、どんなに優秀な(飲食)企業でも、みんな同じ悩みなんだなって気づけたこと。業界として、まだ誰も答えを見つけられてないんだな、と。答えは外にはないんだって分かったんです。
コロナ禍の独立。「ここでやらなきゃ一生やらない」
——それが2019年頃ですよね。その後、コロナがやってくるわけですね。
大崎さん:そうです。みんなが撤退、撤退、撤退ってなってるのを見て、「ここでやらなかったら、多分、もう一生(飲食店)やらないな」って思って独立しました。2021年の11月ですね。
——その時、例えば岩城さんのところに戻るという選択肢はなかったんですか?
大崎さん:なかったですね。プライド的にもダサいし(笑)。今は家族ぐるみで仲良いですよ、岩城さんとは。ってか僕が辞めた後、凄まじく伸びていますよ(笑)。もう1社くらいどこかで働こうかなとも思ったんですけど、「これ、どこ行っても一生一緒だな」って。チャレンジできるタイミングをずっと探してたんで、割とスムーズに独立しか選択肢がなかった感じです。
——素晴らしい!でも、コロナ禍で創業の飲食店に融資なんて、普通は簡単には下りないですよね。
大崎さん:そうなんですよ。だから、どうやったら1億円借りられるかなってマジで考えて、10何人にプレゼンして回ったんです。「こうやって利回り出すんで返せます」みたいな。そしたら1人が「じゃあ3000万ぐらいだったらいいよ」って言ってくれて。それでまず1店舗目を出しました。
——出資型ってことですね。新しい。それが本厚木の『ときわ亭』ですね。『0秒レモンサワー』で大ブレイクの時じゃないですか。
大崎さん:そうです。FCで言うと1店舗目か2店舗目くらいの、本当にすごいタイミングでした。絶対にコケられないプレッシャーの中で、初月に20数坪で1000何万売れて。「あ、これいけるな」って思ってもらえて、追加で投資してもらえたのがリアルなところですね。

創業店となった、FCのときわ亭 本厚木店(写真:仙台 酒場放浪記 投稿ブログより引用)
30店舗以上出して9店舗潰した。「撤退ラインは従業員満足度」
——そこから一気に、出店を加速させていくわけですね。
大崎さん:1年目に4店舗、2年目に5店舗とか、すごい勢いで出しました。でも、同じくらい潰してます(汗)。合計で9店舗ぐらい。撤退も業態変更も譲渡も含めてですけど。多分、同世代で一番潰してるんじゃないかな(汗)。
——9店舗も!そんなに撤退してきた理由ってなんなのでしょう?
大崎さん:いろんな業態をやってきたんですが、僕の中で「これ、従業員満足度上がってないじゃん」てなった瞬間に、その店は潰すって決めてるんですよ。それ以上やっても意味がないんで。
——なるほど、撤退の基準が「従業員満足度」なんですね。面白い。コロナ禍は、大崎さんたち若い世代にとっては追い風だったのでしょうか!?
大崎さん:めちゃくちゃ追い風でしたね。僕がやってる平成生まれの経営者の会(平成会)で、「コロナ後に出店した人」って聞いたら、7割がそうでした。物件も出てくるし、戦い方も地上戦(キャッチ)から空中戦(WEBマーケ)に変わった。僕らの世代からすると、あれは相当なチャンスだったと思います。

大崎さんが仲間と立ち上げた自身と同世代の飲食経営者の会「平成会」(大崎さんInstagramより)
「普通は取れない」S級立地を可能にした店舗流通ネットとの出会い
——そんな出店攻勢の中で、店舗流通ネットさんとのお付き合いが始まったのはいつ頃ですか?
大崎さん:横浜の、あの角地の物件(前出のラーメン屋でスタートした物件)ですね。誰も手を挙げなかったのか分かんないですけど、話をいただいて。マジで横浜で言うと『S級立地』って言われるようなスーパー立地だったんですよ。

超S級の好立地を誇る「TREND MALL 横浜」。その路面には、同社が展開する「横浜ホルモン会館 エース 横浜西口店」が店を構え、街の賑わいを創出している。
——そのビルはもともとヤマハさんが入っていて、店舗仕様のビルじゃなかったんですよね。
大崎さん:そうなんです。だから借り手がつかなかったところを店舗流通ネットさんがコンバージョンして、店舗仕様に設備投資してくれた。僕らのお店の中の設備投資までやってもらって、本当に助かりました。横浜であんな好立地、普通は取れないですから。
——転貸借(てんたい)という契約形態でしたが、抵抗はなかったですか?飲食店経営者って、結構嫌がる人も多いイメージですが。
大崎さん:僕、あんまりそういうのないんですよ。転貸でもなんでも、計算が合えばいいじゃんって。むしろ、出店スピードを上げるならポジティブに捉えてます。特に創業期って、自己資金も借り入れも限界があるじゃないですか。そういう時に、設備投資をサポートしてもらえたり、転貸で初期投資を抑えられたりする仕組みはめちゃくちゃありがたい。当時のエーピーカンパニーさんもそうだったって聞きますけど、最初はそういうスキームをうまく使って、会社が成長して普通に借り入れできるようになったら卒業するっていうのが、ベストな流れだと思いますよ。
——まさに、そういう使い方はアリですよね。
大崎さん:銀行の融資枠がロックされちゃって、いい人材が育ってるのに出店できない、なんて機会損失が一番もったいないですからね。そういう後輩たちがいたら、ぜひ紹介しますよ(笑)。
週休3日の大失敗。「働きやすさ」だけでは誰も幸せになれなかった
——創業当初から「従業員満足度」を掲げていますが、最初からうまくいったわけではないんですよね。
大崎さん:全然です。独立して最初にやったのが、「働きやすさに全振り」することでした。飲食業界って休みが少なくて、労働時間が長くて、給料も高くないのが当たり前だった。それをぶっ壊したくて、1店舗目から週休3日制を導入したんです。
——いきなり週休3日!すごいですね。
大崎さん:はい。確かに人は集まったんですけど、結果は最悪でした。働きやすさだけを求めた結果、やる気のない社員ばかりが集まって、売上は下がるし、なぜかみんな辛そうだし。「これ、何のためにやってんだっけ?」って。働きやすさ“だけ”を整えても、働きがいは生まれないんだって痛感しましたね。
——そこからどうピボットしたんですか?
大崎さん:アルバイト中心の組織に振り切りました。飲食店の現場って6〜7割がアルバイトじゃないですか。彼らを「指示待ち人間」にしてたら店は強くならない。だから、アルバイトからリーダーを選抜して、社員の8割はそこから登用する形にしたんです。採用費をかける代わりに、今いるメンバーの成長と挑戦にお金と時間を突っ込む。その方が強い会社になるって確信したからです。
——大崎さんが定義する「従業員満足度 日本一」とは?
大崎さん:すごくシンプルで、『その会社で働く全員が、お金以外の理由で、自分のために働いていると言える状態』です。自分の人生で何を叶えたいか、という自己理念があって、そのためにうちの会社を“使っている”。そういう人たちの集団にしたい。具体的には、100店舗になった時に、店長の月収が70万円で、年間休日は126日、労働時間は180時間を切る。そんな世界線を本気で目指してます。
M&Aは仲間集め。木々家との合流は「理念が繋いでくれた」
——事業を拡大する一方で、カンテラという人事コンサルの会社も立ち上げていますよね。
大崎さん:1店舗目の時から、マジで「良い会社」になりたかったんです。どうすればいいか考えてた時に、「アルバイトだけで30店舗までいった会社がある」って噂を聞いて。それが神田さん(株式会社カンテラ 代表・大地グループ 顧問他)がやっていた仕組みだったんです(カンテラ採用)。1年目の時にFacebookでDMして、「話を聞かせてください」ってお願いしたのが始まりですね。
——そして最近では、木々家(はやしや)さんとのM&Aも大きな話題になりました。
大崎さん:あれも面白い出会いで。もともとは、木々家さんが僕の(カンテラ採用の)コンサルのクライアントだったんです。入ってみたら、プロダクトは強いし、めちゃくちゃ良い場所も持ってる。でも、この先どうしようか、みたいな話があって。「買う」っていうより、「一緒にやりませんか?」って話をしたんです。
——世代的に、一緒に力を合わせることに抵抗がないということですかね?
大崎さん:僕らの世代はワンピース世代なんで(笑)。一人で最強になっても勝てないから、力を合わせるっていうのが特有かもしれないですね。僕も最初から、いろんな先輩たちにお願いしながらやってきましたし。できないことは、できる人にお願いする。それがM&Aっていう形になっただけなんです。
100店舗、そして教育へ。飲食業界の未来を本気で変える
——今後の目標について聞かせてください。2030年に100店舗というミッションを掲げていますね。
大崎さん:はい。でも、出店自体が目的じゃないんです。僕、飲食業界の課題って『大手』だと思ってて。一般の社会ってユニクロとかトヨタみたいに、大手が人気じゃないですか。飲食もそうなりたい。でも、20店舗くらいの会社が「従業員満足度日本一です」って言っても、ちょっと寒いというか、影響力がない。だから、ちゃんと100店舗までやって影響力を持って、業界全体に「こうしたほうがいいよね」って思ってもらえるような会社になりたいんです。
——その先、個人としてやりたいことはありますか?
大崎さん:最終的には教育事業をやると思います。学校にBETする。今、アルバイト採用をしてて思うんですけど、もう大学生の時点では手遅れなことが多いんです。「頑張ることを諦めちゃってる」というか。だから、もっと下の世代、小学校高学年とか中学生にアプローチしないと、従業員満足度の本質は変わらないなって、この5年でよく分かりました。
——最後に、この記事を読んでいる業界の仲間たちにメッセージをお願いします。
大崎さん:飲食起業が一番おもしろいですよ。仲間も多いし。僕が最近、木々家の有史くんと一緒にやるって決めたのも、ビジョンに生きることがめちゃくちゃ重要だと思ってるから。本当に業界を良くしたいなら、エゴは捨てて、ビジョンが同じ仲間とくっつけばいい。そういう仲間集めが、もっともっと増えたらいいなって思います。僕らがその最初の事例になれたら嬉しいですね。何か一緒に面白いことやりたいって人がいたら、いつでもDMください。
編集後記
新世代のリーダー企業として、凄まじいスピードで成長を続ける同社。大崎さんは自ら旗振り役となり、同世代の飲食経営者たちと「平成会」を立ち上げ、さらに3月には一般社団法人TOKYO DINING COLLECTIVE(TDC)の副代表理事にも選出されるなど、飲食業界全体の底上げに向けて精力的に活動しています。今回、大崎さんと話していて強く感じたのは、その活動が決して世代間の対立を生むためのものではないということ。むしろ、世代や企業の垣根を越えて飲食業界が一つになり、本当の意味で世界一を目指していく。そのために自らが先頭に立ち、責任を担おうとする強い意志の表れなのだと感じました。まさに、そこにこそリーダーとしての本質があり、人を巻き込み、業界を動かしていく推進力が生まれるのではないでしょうか。決して美辞麗句を並べ立てるタイプではない大崎さん。その率直な物言いや合理的な経営姿勢は、時に違った受け止められ方をすることもあるかもしれません。しかし、その根底にある飲食業界への熱い想いと覚悟が、私にはしっかりと伝わってきた取材となりました。従業員満足度日本一を目指す同社の挑戦、そして業界全体の未来を見据えて走り続ける大崎さんのこれからを、引き続き応援していきたいと思います。
(聞き手・文責:大山 正)
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