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コラム

「ソウル飲食マーケット」視察レポート(2)

ソウルの夜は東京を超える活気を呈していた。アジアの他の都市と違い、ソウルの若者は大いに酒を飲み、ハシゴ酒をして朝まで楽しむ。驚いたのは、赤提灯や暖簾をかかげた「日本式居酒屋」が非常に多いこと。しかし、そのほとんどは韓国人経営の店だ。日本人経営の店は数えるほどしかないのだ。ソウル出店のメリット、デメリットを探る...。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


ソウル初日の夜は江南駅、駅三駅周辺をリサーチ。この二駅の間には、路地に沿って飲食店が密集する。この日は異例の寒気団に襲われ、気温が零下だった。人通りはまばら。
「寒くなると、飲みに出る人がやはり少なくなります」と元さん。時間が早いこともあった。ソウルのオフィスワーカーは18:00過ぎまで仕事。飲みに出るのは19:00以降らしい。
彼らは一晩だいたい3軒ぐらい飲み歩く。一軒300元(3000円)まで、やはり3000円超えるとハードルが高くなるそうだ。このあたりは東京のサラリーマンと変わらない。客単価が3000円を超える日本式居酒屋は敷居が高い。「和民」でさえ、普段使いできないのだ。やはり、上海と同じように、大衆酒場価格の業態がいま求められている、と私は感じた。

日本からまともにハイクオリティカジュアル業態を仕掛けたら勝てる可能性を私は感じた。なぜ、出てこないのだ?
それは、いま「アジア進出といえば、親日国の多いアセアン諸国」というムードが強く、「チャイナ」「コリアン」は「反日だから出にくい…」との思い込みが強いからではないだろうか?しかし、食に関しては反日どころか「好日」、いや「質の高い店」としてリスペクトさえされているだ。
そういった「イメージの壁」に加え、「物件取得の壁」がある。いいエリアのいい立地の物件はなかなか日本人には入ってこない。
「表に出る前に韓国人の間で決まっちゃいますからね…」と元さん。元さんのような韓国人ネットワークに入っていないと、好物件は回って来ないと言っていいだろう。それに、ソウル特有の「プレミアム(権利金)」がある。居抜きであろうが、スケルトンに戻してやろうが、その物件には「営業権みたいなもの」が付いていて、30坪なら1000万円ぐらい積まないと手に入らない。保証金とは別に、だ。プレミアムの相場はだいたい2年間の営業利益分ぐらい。売る側からすれば月100万円上げている優良店なら2400万円ぐらいで売れるということ。
アテンドしてくれた元さん、
「要はカネさえ積めば、いい物件はいつでも取れますよ」と。日本の不動産取引の常識にこだわっていたら、いつまでもいい物件は取れないのだ。ただし、モール新築物件は別で、プレミアムはない。

ソウル二日目は、明洞の代表的なローカルデパート「ロッテ百貨店」、ビジネス街のフィナンシャルセンター内の「SFCモール」、新しくオープンしたモール「GRAN SEOUL」を視察。いずれもスケール感があり、スタイリッシュな内装の飲食街。「GRAN SEOUL」には「清進商店街(食客村)」という横丁を模したモール街がある。ソウルでも“ネオ横丁”ブームが来ているようだ。明洞を北に歩くと、浅草のような街「仁寺洞」へ出る。古い店と並んで新しいカフェやレストランも多い。さらに北に歩くと「三清洞」。ここはソウルで最も新しい街歩きスポットだ。イチョウ並木、坂道に沿って、ブランドショップやデザイナーズレストラン、古民家を改装したレトロモダンな店が建ち並ぶ。ハイセンスな通りで、欧米人観光客も多い。
「仁寺洞、三清洞は観光地です。このエリアに店を出すのはハードルが高いと思います」
と元さん。新しい物件も出ないし、プレミアムも家賃もバカ高いそうだ。しかし、この二つのスポットを歩くと、ソウルにおけるデザインセンスの高度化やライフスタイルの進化を感じることができる。店づくりのインスパイアをされるに違いない。

二日目の夜は、いよいよソウル最大の夜の街「梨泰院」(イーテウォン)エリアへ。ストリート系個店から半端ないスケールの繁盛店まで、ワクワクさせてくれる店が密集。新しいトレンドとして、コリアンメキシカンやンクラフトビールの店が増えていた。東京と同時進行のような最新トレンドの動きを体感できる街だ。米軍キャンプの跡地が近く、やはり欧米人の客が多い。各国の料理はほとんどある。しかも、店舗デザインのクオリティーが高い。欧米ライフスタイルを取り込んでいる店が多い。ある意味、東京より進んでいる業態もある。それは、欧米帰りの帰国子女たちが飲食のオーナーになり、コンセプトやデザイン、ストーリーを打ち立てているからだ。しかし、バル文化はまだ波が来ていない。ワインの店は多いが、イタリアンやピッツエリアだったりする。
偶然、東京の繁盛店「アガリコ」オーナーの大林芳彰さんに会った。彼は、韓国企業からの依頼で、「バル出店の可能性」をリサーチしに来ていた。大林さんあたりが仕掛ければ、ソウルにもワインバルブームが来るかもしれない。

大林さんにも声をかけ、梨泰院の繁華街のど真ん中で営業している日本人経営の焼き鳥店「焼き鳥 ごう」に現地で活躍している韓国人、日本人に集まってもらった。アテンドお願いした元さん、商業施設リーシングをやっている申さん、「てっぺん」韓国3店舗展開している徳田さん、13年前から韓国マクロビを啓蒙している岩崎由佳さん。
「焼き鳥 ごう」は本格的な炭火焼の店。大繁盛していた。客層はカップルやハイセンスなファッションの女性客が多い。店を出るとき、カウンターはほとんど女性客で埋まっていたほどだ。日本人経営は、やはり安くないが、「本物だから…」とどんどん客が入ってくる。客層もいい。
「てっぺん」の徳田さん曰く、
「ソウルで安い店をやると失敗しますよ!」。
徳田さんによると、客単価を下げるとロウワーな客層になってしまい、質のいい客層が逃げてしまうとのこと。「てっぺん」も安くない店。しかし、日本のビールを一杯飲みながら、1~2品をゆっくり食べる客が多いそうだ。そのため客単価は上がらない。回転数が勝負なのだろう。日本人客が来ると、客単価は一気に跳ね上がるそうだ。
梨泰院は、終電が過ぎる午前零時あたりから盛り上がる。人種的にも坩堝。六本木、西麻布、恵比寿を一緒にしたようなエリアかな、と私は感じた。ソウルの飲食が集まるエリアのチャーミングなところは、坂のある街の高揚感。坂を登ると路地裏に小さな店もたくさんある。やはり「歩ける街」は魅力だ。

ソウル三日目の夜は、再び「江南」アリアへ。商業施設リーシングをやっている申さんが勤めていた「焼肉トラジ」(江南で大ブレイク、2店舗展開)近くに最近オープンした巨大横丁「CODATYAYA」へ。恵比寿横丁と変わらない広さ。バイキング形式だが、横丁的な猥雑感が好まれているようだ。夜10時を過ぎていたが、行列ができていた。
最後の夜、ソウル〆のリサーチは、江南エリアで最もトレンドのスポット「カロスキル」。カロスキルは街路樹という意味。その名の通り、街路樹が整備され、洗練されたカフェやショップが充実。バーやレストランも多い。そんな店の一つ、シングルモルトバーに入った。オーナーの女性は、ニューヨーク帰り。幼少の頃はイタリア、フランスにいたという。この店の他にもカフェ、デリ、ワインビストロ、を展開、やり手のオーナーだ。
モルトのグラスを傾けていたら、「ソウルクオリテ」という言葉が浮かんできた。
ソウル飲食マーケットは奥が深い。
「イメージの壁」「物件取得の壁」さえクリアすれば、進出先として非常に魅力のある都市だと私には思えた。もう一度、ゆっくりと来たい…。
(取材アテンド協力;株式会社オーアイビー/元英成社長、yswon76@hotmail.com)

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