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【新・外食ウォーズ】2017年に「かつや」500店舗へ――海外も含め年間60~80店出店 アークランドサービス 社長 臼井健一郎


140916_gaisyoku_wars_02.jpg"トンカツ・カツ丼専門店「かつや」を展開する「アークランドサービス」(東京都千代田区)は、牛丼業界のもたつきを尻目に絶好調である。店舗数は2013年12月期で合計258店舖(かつや国内直営店103、国内FC店141、海外FC店3、その他直営店11)。売上高は149億8600万円、経常利益は23億5900万円であった。売上高経常利益率はじつに15・74%。「レストランひらまつ」の25・1%に続き第2位であった。ちなみに第3位がステーキ・ハンバーグレストラン「ブロンコビリー」(名古屋市)の同13・1%、第5位が「ハイデイ日高」の同11・6%である。10%を超せばトップクラスといわれる中で、アークランドサービスの経常利益率の高さは際立っている。そこに着目し、多くのFC加盟希望者が殺到する。この好循環こそが「かつや」急成長の秘密なのである。
「かつや」を運営するアークランドサービスは、今期(14年12月期)の売上高を170億円(前年比113・4%)、経常利益を25・5億円(同108・1%)と予想しているが、これも達成しそうだ。
社長の臼井健一郎(41)は「今期から来期にかけて300店舗を突破する」という。
「2年ほど前、15年12月期で300店舗達成と予測していましたが、ビルイン型出店も再開、積極的なリプレイス(置換)の実施なども行ない、年間60~80店出店できる体制が整ってきました。今期の第2四半期(4-6月)で店舗数は276店舗となり、今期から来期にかけて前倒しで300店舗を実現できると思います。このペースで行けば17年には500店舗体制が達成できます。その時点では直営店1に対しFC店2~3の構成になると考えています」
トンカツ業界はこれまで市場規模がケタ違いに大きい牛丼業界の陰に隠れて、スポットライトを浴びることが少なかった。だが、「かつや」の快進撃が様相を変えようとしている。
牛丼大手3社は今年4月消費税が5%から8%に上がったのを機に、業界首位のゼンショーは牛丼並盛税込価格280円を同270円に値下げし、ライバル潰しに動き出した。しかし業界2位の吉野家は牛丼並盛税込価格280円を300円に値上げ、また、業界3位の松屋フーズは「牛めし」並盛税込280円を290円に値上げし、ゼンショーとの全面対決を避けた。
そして今年7月、松屋フーズは主力商品の「牛めし」の代わりに、新主力商品の「プレミアム牛めし」(並盛税込380円)を投入した。熟成牛肉を使用、保存方法を冷凍から低温(チルド)に変え、「究極の牛めし」づくりを目指したという。「価格」より「質」を重視した商品だ。牛丼戦争での松屋フーズの歴史的な戦略転換によって、デフレの象徴とされた牛丼の低価格戦争は一段落し、牛丼大手3社は独自路線を模索し始めたのである。
じつは「かつや」を運営するアークランドサービスは、子会社で「新橋 岡むら屋」を開業、「肉めし」(490円)を展開している。明治時代の牛鍋にヒントを得て角切り牛肉、こんにゃくなどを煮込んだ丼で、30、40代のサラリーマンに大人気だ。2店舗だが将来的にはチェーン展開し、牛丼業界に新風を吹き込もうとしている。
アークランドサービスの「かつや」は、「カツ丼(梅)80gロース 490円(税込529円)」、「カツカレー同590円(税込637円)」、「ロースカツ定食120g 690円(税込745円)」などの人気メニューを柱に、
快進撃を続けている。牛丼よりは高価格であるが、トンカツ・カツ丼の圧倒的なボリューム感が受けて、牛丼の顧客を奪う勢いだ。

140916_gaisyoku_wars_01.jpg アークランドサービスの親会社は巨大な「ホームセンタームサシ」などを各地に展開するアークランドサカモト(新潟県三条市)だ。現在アークランドサカモトとアークランドサービスの会長を兼務する坂本勝司は、アークランドサカモトの新規事業として外食事業をスタートさせた。経営ノウハウを蓄積するためにファミリーレストラン「CASA」のFCに加盟、その後もサンマルクカフェやドトールコーヒーのFCに加盟し、経営ノウハウを学んだ。93年3月外食事業部を分社・独立させるために新しく子会社「アークランドサービス」を設立。オリジナルブランドの天ぷら・天丼専門店の「てんぷ亭」の展開に踏み切った。
天ぷらは揚げ物で一連の作業は複雑で、単純化・標準化・マニュアル化できず、多店舗展開は無理だとされてきた。だが、アークランドサービスはオペレーションの簡素化、上質の味を安定的に供給するためにオートフライヤーの導入に踏み切った。
ところが、その業態やシステムは丸紅のグループ企業であった天丼・天ぷら専門店のファストフードチェーン「てんや」(テンコーポレーション)に酷似していて、多店舗展開のネックになっていた。テンコーポレーションは05年にファミリーレストランのロイヤルホールディングスグループ傘下に入るが、アークランドサービスは「てんぷ亭」の展開を中断。当時まだ全国的なチェーンがなかったトンカツ・カツ丼業界に注目した。天ぷらの業界と同じで老舗が多く、世襲制、師弟制度の残る古い業界で、「のれん分け」による独立が一般的だった。そんな中で和幸商事の「和幸」、リンガーハットの「浜勝」、グリーンハウスフーズの「新宿さぼてん」などがチェーン展開を進めていて、ある程度市場が形成されていたことがチャレンジ精神に火を点けた。
「当時先行するトンカツ屋の主力商品は大体1000円以上の値段。当社は最後発でトンカツ業界に参入するのでメインのカツ丼の価格を半値の490円(税込529円)とし、価格破壊戦略で臨みました」(臼井)
こうしてアークランドサービスは1998年8月、神奈川県相模原市に「かつや」第1号店の「相模大野店」を開店した。翌99年7月からFC(フランチャィズチェーン)事業を展開するのだ。
臼井は73年生まれ。東京都出身。96年に大学卒業後、渋谷区の小さな広告代理店に勤務。98年にアークランドサカモトなどグループ企業を率いる現会長の坂本勝司の長女と結婚、2000年にアークランドサービスに入社した。当時坂本は「カツ丼業界の吉野家になる」と、中小企業支援事業などを行なうベンチャー・リンク(12年3月倒産)と業務提携し、経営指導を受けて「かつや」のFC事業を急拡大させた。04年には100店舗以上に急成長させたが、短期間での無理な拡大で行き詰まり、経営危機に陥った。
「私は00年に入社してから全く何もわからないので、店舗でアルバイトの高校生から皿洗いの仕方から教えてもらいました」(臼井)
140916_gaisyoku_wars_03.jpg 臼井は一通り店舗業務を学んだ後、店長、店舗開発業務などを体験した。04年にアークランドサービスが行き詰まると、当時社長の坂本は、経営陣の総入れ替えに踏み切った。そして「かつや」再建の切り札に臼井を抜擢、営業部統括マネジャーに就けた。坂本は臼井を中心に若手の生きのよいメンバーを集め、プロジェクトチームを作った。そして坂本は週4回朝から夜遅くまで臼井に付きっ切りで、「経営とは何か」「経営の細部をどうすべきか」といったことを、すなわち帝王学を授けたのである。
「よく大きな声で怒鳴られましたね。容赦なかった……(笑)。低迷する既存店対策が急務でした。赤字店の閉鎖、一時期42%もあった原価率や人件費(FLコスト)の見直し、流通費の削減などあらゆる無駄を徹底的に排除し、収益構造の立て直しに全力を傾けました」(臼井)
ちなみに現在、同社の豚肉はアメリカ・カナダから毎日チルドの船便で1日1トン、月300トンのペースで輸入されている。大まかに1店舗で月1トンを使うという。物流システムは徹底的に効率化されている。
臼井は05年に常務取締役、06年に社長に就任した。
「あらゆる無駄を徹底的に排除、利益が出ると780円のカツカレーを590円で販売するフェアメニューを投入、また、一定期間人気メニューを値下げするキャンペーンなども実施、お客様の創造、掘り起こしに努めました」
臼井が社長に就いた翌07年の1店舗の平均月商は670万円に上がった。臼井は既存店対策として店舗にデリバリーできる「かつ弁」(弁当持ち帰り。女性客向け弁当・総菜コーナー)を設けたり、宅配も受け付けるようにした。最近では「朝かつや」(朝7時~11時)を導入した。臼井はここ2年くらいで、「かつ弁」(実施率50%へ)、「かつや宅配」(実施率70%へ)、「朝かつや」(実施率70%へ)の実施率をそれぞれ高めることで、16年には1店舗の平均月商を800万円に上げようとしている。
「かつや」の快進撃に対して、最近、松屋フーズがトンカツ・カツ丼事業に本腰を入れて来た。松屋フーズは04年から「チキン亭」でトンカツを販売、現在では「松乃家」で590円で販売、店舗数も両業態で60店舗近くまで増やして来た。「かつやVS松屋」の「カツ丼戦争勃発か」といった報道も出てきた。そんな中で臼井は「17年500店舗体制」の確立を急いでいる。
「現在問題なのは豚肉が2~3割値上がりしていることです。10月以降にはまた値下がりすると見ていますが、豚肉の輸入量が増えると、同品質の豚肉を集めるのが難しくなり、デメリットも出て来ます。ただし当社では10月にはマルハニチロと合弁会社を設立、食肉加工事業に参入します。将来的に飲食店・量販店向けに食肉加工品の製造・販売を手掛け、自立できるような会社に育てたいと思っています」(臼井)
「かつや」は08年頃から来店した顧客に100円割引のチケットを配っている。当初チケットの活用者は5人に1人であったが、最近は2・5人に1人が活用するようになり、リピート客、ヘビーユーザーが増えているという。それだけ「かつや」のカツ丼の顧客満足度が高いということである。
海外進出は12年3月、香港に合弁会社を設立。香港に「かつや」海外1号店となる「かつやアモイプラザ店」を開店した。現在香港で5店舗展開している。またタイではFCで3店舗展開、韓国には独資参入、2店舗目を出店しようとしている。
臼井は「お客様に出来るだけ良い商品を出来るだけ安く提供する」という「かつや」の理念を誠実に実行している。臼井が3年後の「17年に500店舗」を達成する頃には、「牛丼よりはカツ丼が好き」という食文化がより広まっているはずである。

〈新・外食ウォーズ〉
外食ジャーナリスト 中村芳平

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