飲食店・レストランの“トレンド”を配信するフードビジネスニュースサイト「フードスタジアム」

特集

【新・外食ウォーズ】東京オリンピック前に1000店舗展開へ――国産国消への挑戦 鳥貴族 社長 大倉忠司


全品280円均一じゃんぼ焼鳥「鳥貴族」(本社・大阪)は今年7月10日、ジャスダック(東京証券取引所)に上場した。公開価格は「全品280円均一」の10倍の2800円だった。市場では「目新しさのない低価格居酒屋チェーンのIPO(新規株式公開)」などと評価は低かったが、社長の大倉忠司(54)はブログやフェイスブックなどを通じ情報発信を続けてきた。また、飲食業関係の専門誌やマスコミにもたびたび登場、知名度は高い。何よりも低価格、高品質の焼鳥専門店として若者からシニア層にまで知られ、個人投資家などからも注140824_gaisyoku_wars04.jpg"目されていた。
初値は公開価格2800円の2・2倍の6180円までハネ上がった。その後ストップ高の7180円で初日の取引を終了、翌11日もストップ高の8680円に達し、市場関係者やプロの投資家を驚かせた。8月中旬過ぎでは株価は初値の6100円台に落ち着きつつある。
市場関係者は「鳥貴族」でジャンボ焼鳥や「金麦」樽生の700mlを280円均一で飲食し、感動したこともないのが大多数である。彼らは鳥貴族の本業の儲けを表す営業利益率が基準よりかなり低かったので、評価を下げ、人気化しないと見ていた。
ちなみに鳥貴族の13年7月期は売上高128億6400万円、営業利益は3億9200万円で営業利益率はたったの3・1%に過ぎない。ビール会社の協賛金など営業外収益がカウントされる経常利益が4億9200万円(経常利益率3・8%)あり、営業利益の低さを補った。
付け加えれば14年7月期の通期予想は売上高144億2200万円(対前年比12・1%増)、営業利益6億4400万円(同64・3%増、営業利益率4・5%)、経常利益7億8600万円(同59・7%増、経常利益率5・5%)となっており、上場を機に収益力も改善されようとしている。
鳥貴族の上場時の店舗数は直営190店舗、
カムレード(同志)チェーン(TCC )173店舗、合計363店舗であった。
大倉は筆者のインタビューにこう答える。
「8月1日からスタートした今期は関東中心に直営で40店舗程度開店する見込みです。来々期中には当面の目標である500店舗展開が実現すると思います。現在首都圏の一都三県に出店していますが、これを群馬県や茨城県にも広げてゆきます。中長期的に1000店舗を目指していますが、それは関東圏、関西圏、東海圏の3つの地域で実現させる計画です。それから九州、東北、北海道など地方都市にも進出、長期的には全国2000店舗を実現したいと思っています。営業利益率は中期的に7%、長期的に10%を目標にしています」
大倉は鳥貴族の上場に向けて組織を強化してきた。店舗数1000店を実現するためには実際に1000店舗以上を展開するチェーン店から、優秀な人材を採用する必要があると、これまでに日本マクドナルドから店舗営業のプロ、建築部のリーダー、またTCC(カムレード事業部)のリーダーなど、キーマンとなる人材をスカウトしてきた。
「当社は12年度に2000億円市場と言われる焼鳥店市場でトップに立ちました。上場によって組織は格段に強化され、焼鳥店市場では圧倒的な首位に立ちました。私は焼鳥専門業態で1000店舗、2000店舗展開し世界一の焼鳥店チェーンを築くつもりです。日本マクドナルドはハンバーガーの単一業態で3000店舗以上展開していますが、当社は“焼鳥チェーンのマクドナルド”を目指しています」
大倉の大きな戦略は店舗数を1000店舗、2000店舗展開することで、国産鶏肉やその他の食材、ドリンクの扱う量を増やし、将来的に現在32~33%を占める食材原価率を30%くらいに下げて、営業利益率を7~10%に上げてゆこうとしている。
大倉が「全品280円均一の感動」を提供する薄利多売方式の鳥貴族のビジネスモデルを構築する原点は、ダイエー創業者の中内㓛の流通革命論、価格破壊論に共感したことが始まりだ。

1985年鳥貴族創業時、ダイエー中内㓛の流通革命論に心酔

 大倉は1960年大阪府東大阪生まれ。高校時代ビアガーデンのアルバイトで飲食業の面白さに開眼した。辻調理師専門学校卒業、某ホテルに就職。2年間ウェイターを務めた。この時代に非常に厳しいサービス精神をたたき込まれたことが、85年に25歳で独立した時に役立った。大倉は近鉄大阪線の乗降客の最も少ない俊徳道駅前に第1号店「鳥貴族 俊徳店」を開業した。1年間全く客が来ず、いつ店を閉めてもおかしくない状況の中で「全品250円均一」(89年の消費税導入時に現行の280円均一へ)を採用、こんにちの鳥貴族へと発展させてきた。大倉は赤提灯、焼鳥を焼く煙、カウンターだけの小さな店にたむろするおじさんたちという従来の焼鳥屋ではなく、若い男女が気軽に立ち寄れる日常使いのできる、明るい焼鳥店を作って来た。
大倉は82~83年頃ダイエー創業者の中内㓛の流通革命の本を読んで震えるほど感激した。「商品価格の決定権を製造メーカーから消費者に取り返す」「よい品をどんどん安くより豊かな社会を」――大倉は中内㓛の著作に影響を受け、焼鳥屋の価格破壊業態の開発を志した。
大倉は経営理念に、〈たかが焼鳥屋で世の中を変えたいのです 心込めて焼いた焼鳥 その焼鳥をまごころ込めた笑顔で提供していきたい〉と書いた。大倉は「品質・ボリュームのある国産鶏肉の高級な焼鳥をどんどん安く提供」する価格破壊戦略を進めた。
大倉が構築した鳥貴族のビジネスモデルは薄利多売、顧客第一主義の商売だ。要するに鳥貴族のビジネスモデルは1000店舗、2000店舗と大量に出店し、規模の利益を追求するところに、ビジネスの本質がある。
140824_gaisyoku_wars01.jpg 大倉が鳥貴族で大成功したのは、最後のひと手間を惜しまなかったことだ。具体的にはパートを使って店内で焼鳥の串打ちを行なっている。大倉は「店内での串打ちは鳥貴族の根幹で、焼鳥のおいしさはこの非効率性にある」という。仮串打ちは全店でパートを使って行っているが、工場などで機械で行えば営業利益率は直ぐ10%に届くといわれる。目先の収益を考えれば飛びつきたいが、大倉は店内での串打ちを絶対にやめない。最後のひと手間が鳥貴族のおいしい焼鳥になることを確信しているからだ。大倉はその非効率性を「チェーン店の脱チェーン店理論」と呼んでいる。
大倉は一方では店舗運営を徹底的に効率化している。料理メニューを65種類、飲料メニューを80種類ほどに絞り込んでいる。オーダーエントリーシステムを採用し、注文と厨房の対応を効率化している。ビール類はボタンを押すだけでピッタリ注げる優れたサーバーを導入している。焼台は厨房機器のマルゼンと共同開発。遠赤外線を使って芯までじっくり焼いている。最新の焼台は焼け焦げもほとんどなく、安定した焼き具合、統一された味を誇っている。
「厨房ありき、で店舗開発しているので居抜き物件はあり得ない。トータルブランディングしてゆく上でスケルトンから立ち上げる。標準店舗は40坪、投資額は4000万円です」
厨房機器の開発では居酒屋業界では鳥貴族が最先端を走っている。厨房をマクドナルド並みに効率化する取り組みをずっと続けている。
鳥貴族は上場したことによって企業コンプライアンス、企業ガバナンスが周知徹底され、組織力がつき、会社は強くなった。
大倉はこういう。
「上場したことで創業者としての私の存在は薄くなりました。けれども、会社が永続してゆくという思いも生まれ、よかったなぁというのが実感です。私の仕事は経営戦略を構想、経営理念を浸透させることにあります。社長が私利私欲に走っていては社員は社長について来ないでしょう。私はトップとして常に正しい行いをすることに努めていますが、社員にも『正しくあれ!』ということを常に伝えています」
鳥貴族は大衆的な焼鳥屋業態としては日本のスタンダードとして定着しつつある。それはイタリアンレストランの「サイゼリヤ」、「餃子の王将」(王将フードサービス)などの強い業態と同じような方向を歩んでいる。鳥貴族は客単価約2000円で満足できるボリューム、内容を備えている。鳥貴族が出店した場所では新業態が進出したり、それによって顧客の流れが変わったりしている。それだけ鳥貴族に顧客求心力があるからだ。もちろん大手チェーンの総合型居酒屋が退店に追い込まれるケースも増えている。
これからも鳥貴族は「無人荒野をゆくごとし」といった勢いで店舗数を増やし、従来の日本の総合型居酒屋業態を破壊し、より競争力のある新業態を誕生させる起爆剤になってゆくのではないだろうか。鳥貴族の居酒屋革命が本格化するのはこれからのことである。

〈新・外食ウォーズ〉
外食ジャーナリスト 中村芳平

特集一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集
Copyright © 2014 FOOD STADIUM INC. All Rights Reserved.