飲食店・レストランの“トレンド”を配信するフードビジネスニュースサイト「フードスタジアム」

コラム

平成恐慌と「人間力」の時代

このコラムで連続して、未曾有の経済危機の時代に入り、実体経済の悪化の先頭に「外食大不況」が到来しつつあると書いてきた。しかし、この急激な下り坂の中で逆に伸びる企業もある。いま「強い会社」はどこが違うのか?

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


10月19日、宮崎県日南市のさびれた駅前商店街の外れに築40年という古民家を改装した飲食店がオープンした。宮崎地鶏「地頭鶏(じとっこ)」業態で急成長しているAPカンパニー(米山久社長)の「日南館 本館」で ある。この店のコンセプトは“日南素材地産地消”。米山氏は「弊社のキー食材の地頭鶏の産地、生産者の皆さんへの恩返しです。それと同時に我々でしかでき ない東京スタイルの料理を提供し、地元の方々に“日南素材の素晴らしさ”を再発見して欲しい」と今回の店創りに込めた想いを語る。果たしてその試みが地元 で受け入れられるかどうか?しかも外食不毛地帯といってもいい立地で。それが蓋を開けてみたら、10月中の金、土、日は45席の店が予約で満席という。現 地で取材しながら「日南館」は心配ないと感じた。米山社長に対する地元関係者の信頼と期待の熱さが本物だったからだ。それは一緒に酒を交わし、遊ばなけれ ば見えてこない。日南においては、米山久という男の「人間力」がブランドになっていた。
APカンパニーはいま飲食業界で最も注目されている企業と言っていいだろう。先日も“サードG”で米山社長が次世代注目経営者№1に選ばれた。AP カンパニーの強さの理由は、「産直ブランド」時代を先取り、比内地鶏や名古屋コーチンなどの本格地鶏よりもワンランク下だが個性の強い良質のブランド地鶏 「地頭鶏」に目を付け、自らも自社ファームをつくり、生産者たちと一体になって供給力とブランド力を上げ、結果として自店にも「自社生産=本物素材」「展 開による仕入れスケールメリット=原価率低減」という形で還元できる仕組みをつくり上げたことだ。ただ、それは際限のない生産規模追求ではなく、「希少価 値が担保できるぐらいの規模」(米山氏)にとどめる。ここが、これまでの大手チェーンや形だけの産直ブランドを掲げた店と違う。米山氏は「日南の地頭鶏で 50店舗いけば限界でしょう。その次は、魚で同じようなことをやりたい」と言う。
米山氏のキャッチフレーズは「ありきたりじゃつまらない」。その店舗展開の発想においても、これまでのチェーン店発想にはないストイックさを感じ る。「システム」を作るが、それを乱用しない。かつてベンチャーリンク及びベンチャーリンク系企業が暴走、破綻したのは、「システム」の乱用によるもので はなかったか。そして、「外食大不況」の入り口に入ったいま、生産者の現実や消費者の本音を見誤って現状を変えられない「システム」信奉者であるチェーン 店や既存企業はますます窮地に陥るだろう。そして、これから必要になるのは、“寸止め”できる「ストイックさ」と「人間力」ではないだろうか。日本には 「足るを知る」「腹八分目」といういい言葉がある。「腹八分目で腹(胆)を括る」。日南を取材して得た結論がこれだ。

コラム一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集
Copyright © 2014 FOOD STADIUM INC. All Rights Reserved.