コラム

地方を元気にする虎”と三頭の”駿馬””

東京と地方の外食格差"が問題視されているが、「食ビジネス」が地方活性化の起爆剤になる可能性は高い。東京と地方には時間と空間、温度のズレ、蜃気楼のような屈折現象があるが、それこそがビジネスチャンスではないか。"

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


“47都道府県47ブランド”の飲食店を銀座中心に出店するという地方活性化路線をひた走る“マネーの虎”安田久エイチワイシステム社長の“食材探しの旅”にまた随行取材してきた。9月の札幌に続く2回目で、今回は愛媛県松山市。安田さんが12月上旬に銀座5丁目にオープンを予定している150坪の大箱で出す蟹料理の試食、視察が目的だった。松山市内の目抜き通りで4層300坪250席の「かに料理 蟹翔」(株式会社蟹王、代表取締役・白石雄三氏)から蟹料理に関するノウハウを得るのが安田さんの狙い。白石さんは地元出身、札幌大学でロシア語を学んだ縁から蟹に目覚め、根室の光洋水産で卸業のノウハウを得て帰郷、自宅のガレージ4坪から会社を起こした人物だ。 安田さんは白石さんの懐に飛び込み蟹の知識をどんどん吸収していく。白石さんは惜しげもなく安田さんにあらゆるノウハウを教える。蟹料理はそう簡単 ではない。活蟹の仕入れルートは限定されているし、相場変動も激しい。安田さんの新店は甲殻類に特化した北海道料理だが、その中で活蟹を売りにするために どうすべきか、それが課題。仕込みや調理オペレーションもイチから組み立てなければならない。さらに、安田さんは松山の地場の名店、食材、ご当地料理につ いても情報収集を怠らない。 「愛媛料理店は東京で成り立つか」「四国4県の料理をワンフロアで出すのはどうか」など仮説やアイデアが次から次に出てくる。郷土料理と言っても、 安田さんは地方の名店をそのまま持ってくること、食材をメニューに落とし込むことだけには満足しない。「地方の素材、コンテンツに東京の温度をプラスし、 とりわけ銀座のマーケット、ワンクラス上のリピート客を取り込まなければヒットはない」と言い切る。そのためには、地方に何度も足を運んで、その土地の人 脈を駆使して文化・風俗、空気感まで東京にもってくる。それが“安田マジック”なのだろう。東京と地方の温度差を埋める作業、それが彼のビジネスの本質か もしれない。その地方を直接見て周り、彼の目指す地方活性化でその地方を盛り上げ、日本全体を元気にしていく仕掛け人として今後の“虎”の活躍に期待した い。 先週末には首都圏ローカルのロードサイド店を猛烈なスピードで展開するエムグランドフードサービス・井戸実社長プロデュースの「ステーキハンバーグ&窯焼ピッツァますもと 町田店」を取材した。出迎えてくれたのは井戸さんはじめ、この店の経営者・株式会社サンクスプラス代表取締役の桝本幸典さん、それにこの店のピッツァ料理を担当した株式会社TOP VLAZZ代表取締役の附田国造さん。 この三人は井戸さんを中心に集まったまだ30歳前後の若手トリオ。この店も三人の共同出資である。ビジネスモデルは井戸さんが開発した手法で、既存の チェーン店が退店した店をサブリース、出店資金サポートを利用することによって超低投資でリニューアル、業態転換によって再生するというもの。井戸さんは 「ステーキ・ハンバーグ&サラダバー けん」などをその手法で急展開した。「最初の数店舗の回収の目処が立った時点で直営展開に切り替え、直営でノウハウが固まればFCで一気に展開する」のが 井戸流。 ファミリーレストラン、焼肉チェーン、回転寿司チェーンなど、ロードサイドのチェーン店はいま整理淘汰が進んでいる。「これまでのチェーンストア理 論はもう役割を終えました。これからは低投資、高原価率で顧客満足を目指す我々ニューチェーンの時代です」と井戸さん。すかいらーくなどの外食第一世代、 ベンチャーリンクが展開してきた外食第二世代、それに続く“外食第三世代”の到来というわけである。確かにチェーンストア理論に支えられていたパッケージ の大量出店型のプロダクトアウト型手法はもう通用しない。マーケットインのベンチャーリンク型手法も強引なFC押し付け販売によって破綻した。今後はそれ を“止揚”したプロダクトイン型(供給側が商品の有利性を武器に独自のマーケットを創っていく)のビジネスモデルが台頭してくることは事実だろう。その波 に“三人の駿馬”が乗れるかどうか。これもロードサイドの蜃気楼にあえてビジネスを挑むチャレンジである。

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