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【特別特集企画】「乙ハイ」最前線レポート。アルコール市場を席巻する次なる主役を3つの取り組みから読み解く

2003年頃から始まった焼酎ブームからハイボールブームを経て、現在、日本酒やクラフトビールがマーケットを席巻している。目まぐるしく主役が交代していくアルコール市場。そして水面下では、次の覇権を巡る戦いが繰り広げられている。その最右翼が本格焼酎を炭酸水で割る、通称「乙ハイ」だ。メディアから仕掛ける者、人との縁を武器にする者、飲食人としての知見を結集した者。それぞれの「乙ハイ」に掛ける挑戦をレポートする。


―そば焼酎「雲海」が仕掛ける「そばソーダ」―

「そりゃソーダ」のフレーズとともに、4月1日から放送を開始した雲海酒造(宮崎県宮崎市、代表取締役 中島美幸氏)のテレビCMが話題を集めている。なぜ今、そば焼酎のソーダ割りで、関東圏を中心にした展開なのだろうか。「今回のCMでは、これまで焼酎をあまり飲んでこなかった若者をターゲットにしました」と同社の東京支店・支店長の清水氏は語ると、次のように話を続けた。

「テレビCMの放送エリアを関東にしたのは、一大マーケットであるだけでなく、その文化性も関係しています。関東は、そば文化が根付いているため、そば焼酎との親和性が高い土壌です。そのため、そば焼酎の新しい飲み方である『そばソーダ』も受け入れられやすいと考えています。テレビCMを活用して一気に知名度を広げて、飲食店と量販店で販路を広げていくつもりです」

 

そもそも、そば焼酎「雲海」が誕生したのは、昭和48年にまでさかのぼる。当時、世間では「ロクヨンのお湯割り」を謳うテレビCMが話題となり、芋焼酎のブームが全国に広がっていった。その盛り上がりを見て、「次に世間で受け入れられる焼酎は何か」と考えた時、同社が目を付けたのが「そば」である。実は昔から、同社が本社を置く宮崎県北部は蕎麦の栽培が盛んな地域であったのだ。そばを使って、ほのかな香り、まろやかな深みを持つ焼酎が作れないだろうか。こうして試作を重ねた結果、日本初となるそば焼酎は誕生した。

「そば焼酎の特徴は、甘味とフルーティーな風味にあります。そばの健康的なイメージもあり、女性ファンを獲得することもできて、そば焼酎『雲海』の人気は全国区に広がりました。現在でも、そば焼酎のマーケットの70%近くは、当社が占めています」

 

焼酎の飲み方は、ロック・水割り・お湯割りが広く知られている。しかし、焼酎に親しんでこなかった方には、いずれも抵抗がある飲み方だ。そこで同社では、本格焼酎の旨みを生かした飲み方が他にもないか検討した結果、ソーダ割に辿りついたという。

「当社では、そば・麦・芋・米と4つの主原料の本格焼酎を製造しています。それぞれの本格焼酎をソーダで割って調べていくと、炭酸とそばの風味の相性が抜群にいいことが分かりました。そば焼酎には、フルーティーな香り成分が、他原料の焼酎より多く含まれているからです。そのため、そば焼酎を炭酸で割ることで、そのフルーティーな香りを何倍も楽しむことができます」

現在、多くの飲食店で「そばソーダ」がライアンアップされて、それぞれの店舗で独自の改良も行われているという。メディアも活用した同社のプロモーション展開は、現在、現場レベルに根付いて、新しい広がりを見せようとしている。

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雲海酒造が製造するそば焼酎「雲海」のラインアップ

 

―SNSを活用して人気に火が付いた感謝の焼酎「泥亀」―

 「僕の人生を捧げた焼酎。それが泥亀なんだよ」

そのように話すのは、泥亀(東京都港区、代表取締役 野村勇氏)の代表を務める野村氏である。同氏は泥亀のプロデューサーであるのと同時に、その風貌から「仙人」と呼ばれ、泥亀のマスコット的なキャラクターとしてSNSを中心に人気を集めている人物だ。

「泥亀は、とにかく飲みやすい焼酎。何杯飲んでも明日が楽とか、二日酔いしにくいとか、よく言われるね」と同氏が語る「感謝ノ焼 酎亀」は、麦と芋の2種類あり、どちらもアルコール度数は20度。中でも麦焼酎は、原料に国内産の大麦を100%使用しており、低温減圧蒸留方式で醸造した原酒とコニャックの古樽に貯蔵した焼酎の原酒をブレンドした樽熟成本格焼酎である。フルーティーな香りのため、若者や女性からも支持を集めているが、特に人気な飲み方が炭酸水で泥亀を割る「泥ボール」だ。その誕生までには、多くの紆余曲折があった。

同氏が、泥亀のルーツとなる焼酎と巡り合ったのは、地元・愛媛で小料理屋や焼酎バーをやっていた頃までさかのぼる。当時、焼酎ブームを仕掛けた酒蔵と取引をしており、トータルで400銘柄くらいの焼酎を取り扱っていたそうだ。その中に、たまたま店に入荷された25度の麦焼酎があった。それが泥亀の原点となる。

 

「その焼酎が、お客さんに大評判。僕も度数が高いのに飲みやすい焼酎に魅了されたんよ。調べてみると、大島酒造(長崎県西海市、代表取締役 長岡祐一氏)が製造する焼酎で、その会社が造船をしていた時は、船の進水式とかのおめでたい行事で配っていたらしいね」

同氏はあまりの美味しさに、地元の飲食店に自主的に紹介を行い、たちまちその焼酎は愛媛の多くの店に置かれるようになる。そしてある時、噂を聞きつけた大島酒造から同氏に提案があった。「オリジナルの焼酎を作りませんか」と。こうして、いくつかのサンプルから新しい焼酎作りが始まり、泥亀は誕生した。

「泥亀の名前を付けてくれたのは、知り合いのお坊さん。誰にでも飲みやすい焼酎を目指していたから、仏教用語で底辺を意味する、一番親しみを持てる生き物の名前を付けてくれたんよ。ラベルを書いてくれたのは、宮内庁御用達の画伯。僕が『日本一の焼酎にするつもりです』と話したら、『世界に通用するラベルを描いてあげよう』と言って引き受けてくれたわけ」

 

野村氏の熱意で生まれた泥亀。その情熱は、ある人物との出会いも演出する。それが現在、泥亀社中(高知県高知市 代表取締役 小池武氏)の代表を務める小池氏だ。タッグを組んだ二人は、愛媛で泥亀を広げた後、全国に魅力を伝えるため、小池氏は関西へ、野村氏は関東へと、それぞれ旅立つ。2012年の頃であった。しかし当時は、まだ炭酸水で泥亀を割る「泥ボール」は生まれていない。そのためか日本一に向けた最初の出足は芳しくなかったという。

「それでも僕は、泥亀を持って色々な場所に顔を出していたね。泥亀は、日本一の焼酎やと思っていたから。東京へ出てきて2年目の頃かな、『泥亀』を屋号にしたいという話が舞い込んできたんよ。とてもありがたかったね。そこで誕生したのが、泥亀を炭酸水で割る『泥ボール』」

その店は、2014年に月島にオープンした「泥亀」で、「泥ボール」は同店の看板メニューの一つである。もともと「泥亀」は、ブランデーの樽で寝かせているため香りが良い。それが炭酸水で引き立ち、さらなる香りの良さと飲みやすさを実現した。泥ボールは、野村氏が築いた人脈やSNSを中心に、瞬く間に人気が広まっていく。現在では、泥ボールの人気のお蔭で、シンガポールやタイなどアジアの国々にでも泥亀を取り扱う飲食店があるほどだ。

「泥亀がここまで人気になったのも、たくさんの人のお蔭。感謝ノ焼酎の名前の通り、感謝の気持ちを忘れずに、もっと『泥亀』の魅力を広めていきたいね」と語る「仙人」の目は、日本一の先に広がる世界を見据えている。

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「感謝ノ焼酎 泥亀」の黒いラベルが麦で白いラベルが芋である

 

―六本木の人気店の経営者が仕掛ける「39-THANK YOU-」―

六本木交差点から徒歩すぐの場所に、飲食業界内で話題を集め、リピーター率が9割を誇る人気店がある。そこが、「39-THANK YOU-」をプロデュースした前田朗氏がオーナーを務める「日いづる」だ。前田氏は、六本木の「総作料理 薫風」の料理長を経験した後、日いづる(東京都港区、代表取締役 前田朗氏)を立ち上げて独立。現在、同店と「紋大志(もんだいじ)」の2店を六本木で展開する人物だ。

なぜ人気店の経営者が、焼酎をプロデュースしたのだろうか。同氏は「今回の焼酎は、私と梅ヶ枝酒造、そしてモデルの間宮梨花こと『りかちゅう』の3者で共同開発をしています。お酒の弱い女性や、酒離れをした若い世代にも焼酎を飲んでもらいたい。そういう想いから、焼酎作りがスタートしました」と言うと、「39-THANK YOU-」の開発の経緯について教えてくれた。

「かつて市場を席巻した焼酎ブームでは、25度の芋焼酎をロックで飲むのが主流でした。しかし、一気に焼酎が市民権を得る一方で、ロックで飲めない方はますます焼酎から離れていくことにもなったのも事実です。当時のイメージを引きずってしまい、飲まず嫌いになっている方も多くいるでしょう。しかし、焼酎は本来とても美味しいお酒です。その魅力を、多くの人に届けていければと考えました」

 

まず同氏がネックだと考えたのは、25度という度数の高さだ。それが飲みづらさや酔いやすい印象を与えている。「度数の高さを解決した上で、芋の良さを生かした新しい焼酎を作ろう」。同氏の想いの実現に協力してくれたのが、長崎県佐世保市に本社を置く「梅ヶ枝酒造」である。

「『39-THANK YOU-』は前割り焼酎にすることで、度数も14度まで下げることができました。また、焼酎が苦手な方でも飲めるように、芋のクセを抑えて、ほんのりと香りがするだけにしています。ただ、それだけでは十分に風味を楽しむことができません。そこで、フランスから輸入したブランデーの樽で、3年ほど寝かせて香り付けを行った原酒を使用することにしました」

こうして、しっかりと香りを楽しむことができるのに、焼酎が苦手な方でも飲みやすい「39-THANK YOU-」は誕生した。同焼酎はロックで飲んでも十分に美味しいが、炭酸水で割ると格段に飲みやすさがアップする。そこには、別の狙いが隠されているという。

「数年前のハイボールブームで、ウイスキーを飲まない層を中心に大きな支持を集めました。『39-THANK YOU-』はブランデーの樽で寝かせているので、ウイスキーと同様に炭酸水との相性が抜群に良くて、引き立った芳醇な香りはもちろん、焼酎特有の甘みも味わえます。ウイスキーが苦手な方がハイボールは飲めるように、焼酎が苦手な方でも『39-THANK YOU-』のソーダ割りは飲みやすいでしょう」

 

現在、「39-THANK YOU-」は、これまで芋焼酎を嫌煙していた若い女性を中心に早くも人気を集めている。こうしたブランディングに好影響を与えているのが、今回の開発に携わったモデルの間宮梨花氏の存在だ。彼女は、2008年にファッション雑誌「Ranzuki」のオーディションで同誌の読者モデルとしてデビュー。その後、2011年から2015年までは「S Cawaii!」の専属モデルとしても活躍し、若い女性を中心に支持を集めるモデルである。

「もともと、りかちゅうは『日いづる』の常連で、お酒好きのモデルとしても知られています。今回、そうした縁もあって、共同で焼酎を作ることになりました。開発段階では、一緒に長崎の酒蔵に通って、若い女性を代表した意見ももらいながら味やボトルのデザインを決めています。彼女のアイデアがあったからこそ、『39-THANK YOU-』は、より幅広い世代に受け入れられる焼酎になったとも言えるのです」

 

なお、ブランデーの樽で寝かせる時間と手間、そしてコンセプトを第一優先にしたからこそコストもかかるため、「39-THANK YOU-」は量産ができない。それが希少価値を高めることに繋がり、発売と同時に飲食業界を中心に話題を集めている。

「一番意識したのは、どんな料理にも合う焼酎にするということです。少しでも飲食シーンの実態に合わせられるように、試作段階では当店のスタッフの意見も参考にしています。リリースしてから一ヶ月あまりで、イタリアンレストランやワインバルで取り扱う事例も増えてきました。これから全国の多くの飲食店で取り扱ってもらえるように取り組んでいきたいですね」

「39-THANK YOU-」には、文字通り「ありがとう」という意味のほかに、前田氏自身が39歳になった年に開発したという意味も込められている。飲食人として、次のステージへ向けた挑戦を始めた前田朗氏。その圧倒的なキャリアから導き出された渾身の逸品は、六本木の人気店から日本全国へ広がろうとしている。

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淡い琥珀色になっているのが、ブランデーの樽で寝かせている証

(取材=三輪大輔)

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