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【セミナーレポート】変態生産者参戦!「食の循環」イノベーターたちに聞く!漁業と農業と地域創生と未来の飲食店経営と


多種多様な生産地の課題の中でも、コミュニティへの参入のハードルが高い傾向に

-それでは、ディスカッションに入ります。今回は、提示する課題に対して議論ができればと思います。まずは漁業の課題について梅津さんからお願いします。

梅津氏:私は佐賀県の有明海で牡蠣の養殖をしていのですが、「海藻の色落ち」、「魚介類の減少」、「二枚貝の減少」、「天然牡蠣の大量へい死」、「養殖牡蠣の大量へい死」、「担い手不足による廃業」といった様々な課題があり、この中の「天然牡蠣、養殖牡蠣の大量へい死」という問題が由々しき事態となっています。なぜなら、牡蠣がいなくなるとプランクトンを食べる生物がいなくなるため赤潮が発生し、海中の生物が大量に死滅することにつながってしまうのです。そうなると、彼らを食料としている私たち人間も、生活できなくなるということになるんですね。

―では、どのようにすれば課題を防ぐことができるのでしょうか。

梅津氏:研究や調査の結果、「栄養塩を増やす」、「産卵場を増やす」、「二枚貝を増やす」、「ナルトビエイを駆除する」という、漁師さんの行動が必要であるとされています。この中の、「栄養塩を増やす」、「産卵場を増やす」ということは、実は牡蠣の養殖をするだけでクリアできるんです。そのため、残るは「二枚貝を増やす」ことと「ナルトビエイを駆除する」ことを解決することが重要なんですね。ただ、このナルトビエイが厄介なんです。こいつらはすごく食いしん坊で、自分の体の1/3から半分ほどの貝を1日で食べてしまう。しかも、貝が一番成長する5月から11月に現れる。ナルトビエイを駆除しないと、今までの方法で牡蠣や二枚貝を育ててもとても追いつかないんですね。

-お話をまとめると、ナルトビエイを駆除して、牡蠣や二枚貝を養殖することで豊かな海に戻ると。

梅津氏:そうなんです。では、「貝を養殖すればいいでしょ」という話になると、それが簡単ではない。漁協さんが既得権益で「行使規則」という権限をもっていて、それに則った方法で漁業をしなければならないんです。つまり、勝手に好きな場所で魚を獲ったり、貝を養殖したりしてはいけないんですね。これは法律と同じくらいの効力があって、様々な制限がかけられている。例えば、私の組合で養殖をしたいとなったとき、正組合員になってから3年間、養殖とは全く関係ない魚を獲らないと養殖ができないんですよ。本来やりたい仕事がやれず、3~5年間冷や飯を食わなければならない。そのため、新規参入が非常にリスキーで、だんだん人手不足になっていくという話にもつながるわけです。

-貝の養殖をすることで海は豊かな状態に戻るのに、古い漁協の体制と既得権益があって、アクションに移せない。それによって、さらに海は健全な状態から離れていく。と、いう産地の現状があるということですね。

古森さんは千葉県で農業をされていますが、初めは全く縁もゆかりもない場所だったわけですが、始めたときにどのような課題がありましたか?

古森:最初は受け入れてもらうことがすごく大変でした。まず、土地が全然回ってこないんですよ。ただ、一度土地を取得してコミュニティの中に入ってしまえば、あとは耕作放棄地ばかりなので、それこそ次から次へと回ってくる状態になるんですけど、最初の取っ掛かりは大変だったと感じています。

ALL FARM千葉・佐倉と群馬・安中で年間100〜200種の野菜を育てる在来農場を運営。採れたての野菜を自社トラックでレストランへ運ぶ

-同じく農家をやられている狩野さんはいかがでしょうか?

狩野氏:過疎化が進んでいる地域には「産業」の有無が重要だと思います。私たちの会社の取締役に斎藤という者がいるのですが、彼の故郷が山形県の大井沢という人口170人の村なんです。過疎化は進んでいるのですが、彼も、彼の父親もその村を存続させたいという想いがあって、それを聞いて、僕もなにかできないかと色々なことをやったんです。けれど、新しい業態を作って店舗をオープンしてみたものの、その村そのものの「産業」がないと存続は難しいと感じました。そこで浮かんだのがブドウだったんです。ブドウの栽培は高齢者の方々でも体への負担が少なく、私自身がワインのソムリエなので展開も広げやすい。諸々の条件を考えると、ブドウという選択肢はアリなのではないかと思いました。ただ、非常に時間はかかります。ブドウ栽培を始めて7年目になりますが、今まではワインを作るにも手搾りで行う程度の量しかとれなかったのですが、今年でようやく醸造委託できるほどの量がとれるところまでたどり着きました。

-山下さんは、地域創生ということで色々なものを見聞きしていると思うのですが、どのような課題があるのですか?

山下氏:地域創生でも食の領域でも、全体像が見えていないと課題の本質ってわからないと思うんです。例えば、飲食店をやっている人と消費者。それぞれの領域の中で課題を感じているけれど、それを全体的に俯瞰しなければならない。地方も同じで、その地域の中にいる人って、全体を俯瞰できていないから課題の本質が見えていないんですよ。

例えば、都会と田舎って同じ資本主義経済のフレームワークにありながら、中身の力学が違っていたんです。都会なら「モノの価値」にお金を出すけれど、田舎では「信用」に対してお金を出す。「例えば、山下さんの実家は65年続く印刷屋で、親の代からお世話になっているから発注します」っていう小さな信用で、地方の経済はぐるぐる回っていた。ところが、昭和から平成になって、その力学も変わってきたんです。昔は「山下さんち」に「信用」があったから印刷を発注していたけど、今は「そもそも印刷っていらないよね」ってなっている。スーパじゃなくてAmazonで買い物をして、映画館へ行かずにNetflixやHuluで映画を観ている。「信用」よりも「コスパ」や「価値」を優先するようになって、地域で回っていたお金が流れて出てくるようになったんです。でも、その中にいるとその変化に気付かない。だからこそ、私たちみたいなよそ者が課題を俯瞰して、解決に動くことが重要なんです。

-そういったところに山下さんは入っていって様々な活動をしているわけですが、やはり最初は反発があったのでは?

山下氏:ありましたよ。東かがわ市は、市から要請を受けて入ってアドバイザーになって無償で動いていたんですけど、「東京モノはすぐにいなくなる」とか「無償でやるわけがない」とか、色々言われました。で、私は「あなたたちが好きです」と言い続けた。この一点張り。このメッセージを1年間伝え続けていったら、私に情報がたくさん集まってくるようになりました。私がよそ者であるからこそ、市長と行政の間に入ったり、行政と市民の間に入ったり、市民同士の間に入ったり、それこそ、今までバチバチやってた人を仲良くさせたりとか、そういうことができたんです。地域を活性化するためには、まずその地域の人たちが同じ方向を向かなければならない。さらに、ヒト・モノ・カネがグローバルに繋がっている現代において、地域だけで解決できなくなった問題を世界中の人々と協力して解決する必要もある。それを、地域の方々に理解してもらえたのは、課題を俯瞰した「よそ者」だったからだと思います。

結局のところ、課題解決って課題を認識する。それを自分ごと化する。そして最後にどうやって解決する、ということなのですが、ほとんどの人たちが課題認識を正しく認識していない、もしくは認識しようとすらしていないんですよ。そういう人たちにいくら「課題を認識してくれ」って言っても難しくて、むしろ小さい子とからでもいいから「課題ってこんな風に全然解決できちゃうんだよ!」って実際に見せることの方が重要なんです。そうじゃないと続かない。だから私は「わくわく課」を通して、色々なものを「楽しい」、「面白い」に翻訳して、解決するということを続けています。

-今、コロナ禍によって飲食店の在り方も問われていて、漁業や農業をやってみたいという飲食業従事者も増えていると思います。実際に始めようと思って始められるものなのでしょうか?

梅津:漁業に関しては、不可能ではないと思います。先ほど、漁協の問題の話をしましたが、2020年の12月に漁業法が改正されて新規就労者は入りやすい状況になってきているんです。各都道府県知事次第ではありますが、今までのように組合に入って3年別のことをやらないと養殖ができない、みたいなこともなく、すぐに始められる場所も増えてくると思います。

-農業はどうですか? 古森さん。

古森氏:農業はとても幅が広いので一概には言えないんですけれど、今後は「単なる食材としての野菜」を作る農家は淘汰されていくと思います。そういった野菜は工業化されて大量生産されているので、大資本を持っているところが勝ってしまう。野菜自体に付加価値がないと、零細企業が残っていくことは難しいと思うんですよね。そういう意味では果物はブランディングが上手いところが多いと思います。そういう観点で、私たちもケールといったちょっと珍しい野菜にフィーチャーしています。

-地域創生についてはいかがでしょう?

山下氏:「東かがわ市わくわく課」に入ってもらうことですかね(笑)。結局、何かを始めたいけどわからない人はそのものを見るのが一番早いですよ。漁業なら梅津さんと、農業なら古森さんと、ワインのブドウを作るなら狩野さんと一緒に、同じ景色を見る。日本語の「学ぶ」が「真似ぶ」からきていると言われていますが、先輩たちのところに飛び込んで、知見を広げるのが近道だと思うんです。

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