飲食店に聞く！「分煙博士」の出張アドバイス Vol.1 日本家屋を改装した日本酒店 隔てた2つの空間と立ち呑みカウンターを上手く使い、居心地の良い空間へ

今から10年前の2003年、神楽坂の裏路地にオープンした「カド」。江戸時代より続く老舗酒屋から仕入れる日本酒と、「麓井酒造」「獅子の里 松浦酒造」などの蔵元より直送される日本酒を扱う店である。常時6～7種類を揃える日本酒は、甘口から辛口までテイストの異なるものをラインナップ。この厳選された品揃えで、全種類を制覇する客も多いという。
料理は日本酒との相性を考慮し、糀や味噌などの発酵食材を用いた一品を揃える。また、調理法には昔ながらの手間をかけた工程を採用し、日本の伝統的な割烹料理を継承している。オープン当初は日本酒好きな年配の客が多かったというが、現在は20代半ばの若者も訪れるという同店。日本酒とそれに合う日本食を楽しむことを目的に来店する客を多く取り込んでいる。

「カド」は、昭和24年に建てられた日本家屋を改装した店舗空間が特徴的な一軒だ。玄関から靴を脱いで上がった左手には、中庭を望む座敷席が広がる。渡り廊下を進んだ奥には、中庭に面した席とは雰囲気の異なるテーブル席を用意。ランチ、ディナーともに手前の広い座敷席を喫煙席、奥のテーブル席を禁煙席としたエリア分煙を行なっている。喫煙エリアと禁煙エリアは渡り廊下を隔てて配置されているため、喫煙エリアの煙やニオイが禁煙エリアまで流れていくことはあまりないという。禁煙エリアには、喫煙エリアからの空気の流入を防ぐために、引き戸も設置されている。また、喫煙席の座敷には縁側があり、涼しい日などは窓を開け放つことで、喫煙エリア内の空気が外気と入れ替わるようになっている。エアコンは2機設置しているがなるべく使用せず、2箇所に置かれた扇風機で涼を楽しんでもらっているという。

座敷席以外には、玄関の横の土間を利用した立ち呑み席を用意。この空間も喫煙可能としているため、禁煙席の客がたばこを吸いたいときに利用するシーンも多い。このように、喫煙席以外にもたばこを吸える場所を設けることで、喫煙席が満席の場合でも、たばこを吸いたい客の要望を満たすことができている。このような環境が、たばこを吸う人、吸わない人双方を居心地よく滞在させているようだ。

「当店にいらっしゃるお客様の半分以上が常連様です。この日本家屋の雰囲気や、昔ながらの座敷席という空間が好きでいらっしゃる方が多いので、そういった空間を活かしながら、喫煙席と禁煙席をエリアで分けています。分煙のために特別な設備を導入している訳ではありませんが、煙やニオイに関して過敏な反応をする方も少なく、クレームも出ておりません。お客様同士でも配慮し合って頂けていると思いますね。喫煙席の窓を開けるのは、換気というよりは季節を感じて欲しいと思っているためです。外の風や季節の香りを店内でも楽しんで頂きたい。それが結果として、煙が部屋にこもることなく、空気の入れ替えもできているのだと思います」と料理長の近藤博之氏は話す。

日本酒を扱う店は香りを楽しんで欲しいとの理由から、たばこを制限するところも少なくない。一方で「カド」のように「日本酒のお店だからと構えるのではなく、お客様それぞれの利用シーンに合わせて自由に使って欲しい」（近藤氏）との想いから、酒とたばこを共に楽しめる空間を設ける店は、貴重な存在となってきているようだ。しかしながら、そうした取り組みが一つの差別化要素となっていることは間違いないだろう。

※ マークをクリックすると、その場所の画像が表示されます。

中庭に面した喫煙可能な座敷席

玄関隣に位置する喫煙席は、空調が1つ

縁側の窓は季節に応じて開け放つことも多い

店内奥の禁煙席。低めのテーブル席となっている

玄関と隣接する立ち飲みスペース。喫煙可能

玄関から見た渡り廊下。左側が喫煙席、奥が禁煙席