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特集

【飲食業は教育産業② 】PJ Partners~前編~1日9時間のディスカション24回という 「企業理念講習」が培う特徴的な企業文化

飲食業は「人材」によって成り立っている。人材の成長は自ら学ぶ姿勢をもたらし、店や会社の礎となり、そこに関わる人々をハッピーにして、社会から尊敬される存在になる。それをもたらすのは、店や会社の”教育的環境”に他ならない。

この連載では、フードサービス・ジャーナリストの千葉 哲幸が、今日注目されている飲食業の「教育」にフォーカスし、同社のビジョンに沿って、教育や研修の仕組みについて解説していきたい。これらに倣うことによって、飲食業はますます磨かれて憧れの業界となっていくはずだ。


正社員は年1回の企業理念講習の受講が義務

▲2018年9月25日、日本橋髙島屋S.C新館7階にオープンした「Manuel Marisqueiraマヌエル マリシュケイラ~ポルトガルの魚介食堂」

オーストラリア、ブラジル、ポルトガルという国別ではニッチともいえるジャンルを扱っていて近年急速に注目を集めている株式会社PJ Partnersという外食企業がある。現在13店舗を展開しており、本国の人も「おいしいと認める」クオリティの高さが特徴だ。

同社は2001年に投資家の高橋世輝氏によって設立され、2014年10月、PJ Partners Group Ltd.設立によるホールディング体制の下で、日本で飲食事業を推進するPJ Partners(以下、PJP)の代表取締役社長に南山太志氏が就任した。以来、PJPは新体制を整えて事業に邁進している。

PJPでは現在、正社員(約100人)を対象とした企業理念講習に重きをおいている。代表である南山氏の主催で毎月1回開催され、年に1回の受講が義務付けられている。新入社員は入社3カ月以内に受講することになっている。

企業理念講習の狙いは、PJPの「Philosophy」(フィロソフィー)を正社員に習熟してもらうことだ。

2015年にPJPの「フィロソフィー」を作成

フィロソフィーの最初は「世界は食によって結ばれる」という文言。「世界の本物を日本へ」「日本の本物を世界へ」と続き、「それぞれの食文化輸出入する事で、“世界と日本を繋ぐ港”PJ=Port Japanでありたいと考えています。」と結んでいる。

それを裏付けるものとして「各国の食文化をターゲットにレストラン運営を通し、日本と世界の架け橋となるように発展していきます。」と述べて、「世界には、きっと、もっと美味しいものがある」と結び、経営理念としての「MISSION」「VISION」「VALUE」を展開していく(この部分は後述する)。

PJPがフィロソフィーをつくったのは南山氏が社長に就任してからのこと。2015年に人事評価制度を導入するに際して、この対象となる行動指針が必要だと考えて南山氏は幹部社員と一緒にフィロソフィーの作成に取り掛かった。企業理念講習はこの体系に基づいて、朝10時から19時まで、9時間をかけて行うという長丁場である

この企業理念講習は南山氏が自分自身の半生を語ることから始まる。理由は、自分が経験してきた挫折とそれを乗り越えた成功体験を受講者に共有してもらい、南山氏の下でつくり上げてきたPJPの企業理念の浸透を図ろうとしているからだ。

学生時代に飲食業で生きていくことを決断

▲PJ Partners代表取締役社長・南山太志氏

ここで、南山氏自身の半生を紹介しよう。

南山氏は1977年4月生まれ。横浜市出身。高校生までは要領よく過ごして、推薦で中央大学理学部物理学科に入学した。しかしながら、受験で入学してきた同級生のレベルが非常に高く、授業の内容に全くついていくことができなかった。

飲食店のアルバイトは高校3年生から行っていて、大学に入ってからもそれを継続した。バイト先から必要とされていて、20歳でアルバイトリーダーとなってモチベーションを感じて「飲食が俺の生きる道だ」と思っていた。
当時交際していた恋人がバーが好きで、一緒にバー巡りをしていた。次第にバーテンダーを志すようになった。その結果、大学は留年し、5年かけて卒業した。

大学を卒業したのは2001年。この年はまさに就職氷河期で、同級生は前年に、なかなか就職が決まらず大学院に行く人が多かった。「真面目に勉強している人間がこうなのだから、自分は自分の道を築こう」と決意し、飲食で独立して、カジュアルバーをオープンしようと考えた。

そこで、開業資金をつくるために訪問販売の営業の職に就いた。確かに収入はあったが、貯めることより使ってしまった。「この生き方は違うな」と思い、その仕事は1年半で辞めた。

悩みながらもあるべき店長業務を学ぶ

2002年9月、25歳の時に、外食企業のソーホーズ・ホスピタリティ・グループに入社した。「Roy’s青山」のキッチンスタッフとして従事し1年9カ月経験した。その後、営業(ホール)職となり1年5カ月経験した。キッチンからホールに移った時に大きな挫折を味わい退職を申し出るが、当時の会長から止められ、考えを改めた。

2005年10月28歳の時に「Roy‘s青山」が六本木ヒルズに移転したことに伴い同店の店長に就任した。元々店長に就任する予定の人物が急遽辞退し、南山氏の上司の主任も辞退したために、南山氏が矢面に立つことになった。
南山氏は「30歳まで何かしらの結果を出す」と心に決めていたこともあり、店長就任を快諾した。そして、がむしゃらに働いた。

2008年3月30歳の時、Roy’sの隣の大型カジュアル店の「Xen/Bamboo bar」の店長に異動した。元の店長が部長昇格による異動であったために店の中の組織は出来上がっていた。ここで自分の存在価値を発揮することに非常に苦しみ、大きな挫折を味わった。そしてコミュニケーションとマネジメントの大切さを学んだ。

▲ディスカッションの様子

ここまでのストーリーを南山氏が語ってから、受講者はグループ内で話し合う。

■ディスカッション「自分の挫折、逆境、苦難の経験」「そこから得た学びは何か」

これが終了してから、南山氏がPJPに入社してから取り組んできたことを話す。

無法状態の店のGMに就任し、店を立て直す

南山氏がPJPに入社したのは、2009年9月32歳の時。Roy’sで店長を務めていた当時のアルバイトリーダーがPJPの「Salt」の立ち上げメンバーとなっていて、その彼から声を掛けられたことがきっかけであった。その内容は「GMが突然辞めて大変です。助けてほしい」という。
同店は2007年4月に新丸ノ内ビルディング内にオープンし、1年目は順調であったが、2008年のリーマンショックによって売上は昨対70%の状態となった。従業員は次々と辞めていき、店は無法地帯となっていた。店舗のみならず、本社機能の会計も会計事務所に丸投げ。社長はシンガポールで不在。会社としてのガバナンスが存在していなかった。
このような状態の中で、南山氏はSaltのGMとなった。

ここで南山氏は以下のことに取り組んだ。「店舗組織を見直して各自に役割分担」「日報のフォーマットを作り直す」「予算組からPL報告書まで新たに作成」「WEBマーケティングとFL管理」――店をあるべき姿に整えるための施策である。

これらの取り組みは、このような結果に表れた。「GM就任1カ月後、売上は昨対を超えた」「日報により追いかける数字が明確になった」「マネージャーの数字意識が高まった」「これまでとは違う層の客層が増えた」――店は生まれ変わったと、誰もが実感したことであろう。

こうして南山氏はSaltでの実績が評価されて、2010年7月に日本のグループ統括に就任した。

混乱していたグループ全体を立て直す

しかしながら、グループ全体も混乱していた。「社員がグループ店舗の相互を把握していない」「報告フォーマットがバラバラ」「責任の所在が不明確」「多数のぶら下がり社員が存在する」――これらに対し、「グループ掲示板を作成」「日報のフォーマットを統一」「責任者へのPL責任をきちんと落とし込む」「やる気のある社員をどんどん登用」といった取組みを行った。
その結果、「シナジーが生まれ競争意識がついた」「日次の管理の精度が上がった」「各店長の数字意識が高まった」「従業員の新陳代謝でリフレッシュ」――このようにグループ全体が前向きな体制に生まれ変わった。

そして、2014年10月に南山氏はPJPの日本の代表取締役に就任した。これを南山氏は「私にとって一つの成功体験」と語っている。

この一連のストーリーを聞いた後にグループ内で受講者が話し合う。

■ディスカッション「自分の中の成功体験(大小関係なく)」「その時の気持、感情は?」

「大人とは何か」「社会人とは何か」を追究する


休憩を挟んで、南山氏の講話と受講生のディスカションが繰り返されていく。その内容を順に箇条書きで述べていく。

・大人、社会人/そして日本人としての心得とは?!/あなたが思う大人とは?
・身体的な大人とは/法律上の大人とは/精神的な大人とは
・自分自身に責任を持つ/「大人のマナー」持つためには

■ディスカション「自分の責任感について気付いたこと」「自分の感情について気付いたこと」

・精神的な大人/自分を律する、自律している/「自律」とは、「自立」との違いは?/「自立」とは?

■ディスカッション「自身は自律できているのか」「自律と自立の違いについて感じたこと」

・精神的な大人/「自覚」するということ/「自覚」するためのきっかけ
・あなたが思う社会人とは/今のあなたが思う社会人像にあなたは成れていますか?
・社会人とは?/社会に参加している状態とは?/「ちゃんと」勤労、「ちゃんと」働く
・「社会基礎力」とは/「社会人」まとめ:学生ではない、日本社会に参加している一員としての“見られ方”を今一度、考え抜きましょう。

日本の事をしっかりと理解して海外の料理を提供する

ここから、PJPが海外の国の料理を日本で提供する立場としての心構えの浸透を図っていく。

・日本の建国記念日は?/では、知ってた方、なぜ、2月11日が建国記念日なのですか?
・では、知らなかった方も含め、覚えていない、理由も知らない、この原因は何なんでしょう?――これらの質問の狙いは、これから増える訪日外国人に日本のことをきちんと伝えられるようにするためのものだ。

南山氏はこう語る。
「ここの『日本人とは』の部分を私は特に強く言います。私たちは日本人としての誇りを持って、オセアニア、ブラジル、ポルトガルの食文化を普及させる存在なのです。ですから、日本の歴史や食文化を理解していないで、海外の国の料理を提供していても薄っぺらになるだけ。だから、ちゃんと日本のことを理解しよう。そうしないと、本当のおもてなしが入らないのです」

この後にディスカションを行う。

■ディスカション「自身の日本に対しての捉え方は?」「日本としての自分が今思うこと」

――「外国人スタッフがたくさん在籍していますので、グローバルな印象は必要であり偏っていると思われるのはよろしくありません」(南山氏)

ここで休憩に入り、「企業理念」の講習に入るのであるが、ここまでに3時間をかけている。

(後編に続く)

(取材=フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸)

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