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インタビュー

東京ミッドタウン「HAL YAMASHITA東京」 シェフ 山下春幸氏


――ここまでに至るルーツを教えてください。

大学卒業後は大手飲料品メーカーに就職しました。上司に、「お前は、組織の一員なんだ」とよく言い聞かせられていました。組織に向いていなかったんですね(笑)。それであれば、元々料理の世界に行きたかったこともあったので、シェフになろうと決意しました。料理の勉強をして来たわけではないけれど、実家が居酒屋をやっていたこともあって、幼いころから和食に触れる機会には恵まれていました。決して贅沢な物ではないけれど、良い物を食べて、舌を養ってきたと思います。

――脱サラして、どのようにシェフを志していらっしゃったんですか。

実家の料理屋を経て、アメリカやオーストラリア・香港等に料理見聞を広げるため、渡航していました。当初から、東京を経由して、いずれ世界に出たいと思っていました。チェーン化して金儲けに走るか、こだわりを持って自分のやりたいことを信念を持ってやるか。答えは、後者しかありえませんでした。そして、シェフの道を志したんです。周りが遊んでいる時でも、思いっきり仕事に打ち込んで来ました。皆がクリスマスディナーを楽しんでいる時には、むしろそのクリスマスディナーを作っている側にいました。

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――そして、帰国してから33歳で、「NADABAN DINING」神戸元町店をオープンされたんですね。

新天地として、東京へ進出する時の見え方を意識して、神戸元町を選びました。本当は、駅前の路面にでもお店を構えられたら良かったんですけど、お金もなくて、下にジャンソーが入っているような駅前の雑居ビル8階に出店を決めました。ビルの前に1週間座り込んで、初期投資3,000万円、賃料50万円、全財産を叩くことを断腸の思いで決断しました。

――オープンされて、いかがでしたか。

神戸のデザイナーズレストランの走りとなるような店でした。若いサラリーマンが、デートで使ってかっこつけられる、ワインと美味しい和食が楽しめる手頃な店を目指しました。コースは、3,800円と5,500円、7,200円の3つ。アラカルトは350円から、客単価は5,000円程に設定しました。オープン直後、「美味しくないとお客さんは続かない」という考えから、慣れるまでは取材を全て断りました。ビラも配らなかったので、当然ノーゲスの日もありました。しかし、3ヶ月以上経った時に、「ミーツ リージョナル」の関西版に取り上げられた事が起爆剤となって、その後取材が殺到するようになりました。“新和食”の斬新さがうけて、大ブレイクしたんです。初め、大阪や京都・姫路から来て頂いていたお客さんが、名古屋や東京・福岡のお客さんまで噂が広まって、わざわざお越し頂けるようになりました。インターネットサイト「ask.jp」のランキングでも、全国で上位に位置付けるまでになりました。

――そして、ミッドタウンへの出店の話が舞い込んで来たんですね。

初め、内装業者の方が、三井不動産の方を連れて、ふらっとお見えになったのがきっかけでした。ミッドタウンのコンセプトが、“知的創造 JapanValue”=“これからの日本を世界に発信する”ことをテーマにしていたため、自分の店が光栄にも選ばれたんです。その時、三井不動産の担当者の方に、「ヤマシタが、いずれ世界に出ることは分かっている」と言われました。若干36歳の僕のために、彼は社内を説き伏せて、役員をお忍びで神戸元町店に出向かせ、承諾を得てくれました。その恩義を感じているからこそ、内装はその担当者を紹介してくれた内装業者に依頼し、三井不動産のレジデンシャルにオフィスを構え、テレビ出演の際は必ず「ミッドタウンの」と付けるようにしているんです。お世話になった人は、忘れません。義理人情は、大事だと思っています。

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――“新和食”とは、どのようなお料理ですか。

日本料理って、そもそも敷居が高いとか、技術が必要というイメージがあります。“新和食”は、お母さんが家で作る愛情こもった家庭料理を、プロのアイディアと技術を用いて、進化させた料理なんです。創作料理が積み重ねる料理なら、“新和食”は積み重ねず引き算して、素材そのものの味を引き立たせる料理。畑で食べるもぎたてのトマトの味を超えたいと思っています。これを、世界に広がる日本料理のスタンダードにして行きたいんです。

――山下シェフの料理哲学をお聞かせください。

自分に与えられた仕事を、自分のフィルターを通して、発信して行きます。そして、こんなに多くのお店がある中で、自分の店を選んでくれたことへの感謝を忘れません。決して、金儲けに走って豊かな生活がしたいわけではなく、シェフとしてのプライドを持って心豊かに仕事に邁進して行きたいと思っています。「物は、奪い合ったら足りないけど、分け与えたら足りる」。そこに真意はあると思っています。

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――その発想は、山下シェフが積極的に行っているチャリティー活動にも、通じるところがありそうですね。

先人の人達を見ていて、自分一人で生きているわけではないと、常日頃感じているんです。五体満足で恵まれていることに、常に感謝するようにしています。そのありがたいという気持ちを、チャリティーで還元したいと思い出したのは、30歳頃からでした。ミッドタウンに出店する際、年1回売上の全てをチャリティーに寄付する日を作ることに決めました。そこで、食べ物に関わる仕事をしている者として、アジアの食べる物に困っている子供達に、児童給食を送ることで、貢献しようと考えました。そして、年1回のチャリティーパーティーを通して、1周年目は30万円、2周年目は70万円、3周年目は107万円の寄付を行うことができました。これは、それだけの人が興味を持ってくれた証だと思うんです。また、寄付してくれた人々に、そのお金がどこにどう使われたかをフィードバックすることも、大事なことです。そのため、寄付金の額や、国連からの領収書を、必ずHPに掲載するようにしています。こうして、自分への信頼を築いて行ってもらっているんです。チャリティーパーティーに来る人に、決して気負いさせず、楽しく食べて飲んで遊んだら、それが何となくチャリティーに繋がっていたという感じで、みんなにチャリティーを経験するチャンスを与えたいんです。飽食で感謝する気持ちを忘れていたり、チャリティーの出来ない理由を作っている人々に、その手段を広げたり発想を生むきっかけを作るのが、僕の役目だと思っています。

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