飲食店オーナーの枠に収まらず、幅広く活躍している稲本氏、楠本氏、中村氏。私と彼らとの出会いは、2000年に「アリガット」を創刊した当時。「アリガット」のコンセプトは、“人、街、食のスタイル誌”。飲食店を取り上げる視点も、人が集まる“場”や街づくりの“拠点”として魅力あるか、パワーがあるかどうかという判断基準を重視していた。2001年に名古屋から東京に出てきたときの「ゼットン恵比寿」も恵比寿東口を活性化したし、カジュアルダイニングブームの先駆けとなった。裏原宿にポツンとオープンした楠本氏の「ワイアードカフェ」の原点の店「ワイアードダイナー」(2002年閉店)は、キャットストリートを生むきっかけになった。中村氏の名前を一躍有名にした外苑前のカフェ「サイン」は、カフェと大手ブランドメーカーとコラボカフェのハシリだった。同じビルの最上階には、いまで言えば、“ノマド族”の溜まり場だった「オフィス」というカフェもあった。彼ら三人は、まさに人が集まる“場”をつくり、街をつくるパワーをもっていた。その後、稲本氏と楠本氏は、商業施設や公共施設にもどんどん出店し、中村氏はホテルを手がけたり、ケイタリングや大手ブランドショップの運営受託の分野にも進出、すっかりメジャーな存在になった。そんななかで、「3.11」が起き、時代は大きく変わる。東京に元気がなくなる一方、人々は新たなつながり、コミュニティを求めはじめる。飲食店に“飲み食べ”以外のコミュニケーションを求める傾向が出てきたといえる。SNSの発達はその動きを促している。こういう時代状況のなかで、街づくり、コミュニティづくりの仕掛け人たち、3人がトークセッションした。稲本氏は、「新しい時代をつくる軸を模索している。それは人々のライフスタイルの変化の中にある。トライアスロン、アウトドア、ハワイライフなどに注目している」と語った。楠本氏は、コミュニティをキーワードに、都市と地域、生産者と生活者をつなぐ場や食を通じた人々の“集い場”を創り続けると語った。中村氏は、グローバルスタンダードをキーワードにブランドシェフをキャスティングするなど、大人の遊び場としての飲食空間やホテルの創造を目指す。「bills」を大ヒットさせた中村氏は、「東京をパッシングする世界の有名ブランドが増えている。この東京を元気にしないといけない」と訴えかけた。いまや海外に出ないと明日はないという風潮が強いが、東京にもっと魅力的な“集い場”や“遊び場”を創るべきだ。それが飲食人のミッションではないか!
コラム
2012.07.19
飲食の力で、東京の街をもっと面白く!
「飲食は街づくり、カルチャーづくり!」というテーマで、ゼットン稲本健一氏、カフェ・カンパニー楠本修二郎氏、そしてトランジットジェネラルオフィス中村貞裕氏の3名とトークセッションを行った。飲食は、街をつくり、文化をつくるパワーがあることを改めて感じた。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。