初の店長業務を経験後、地元・名古屋へ帰郷。有名店の調理場で本格的な修業にはげむ
マルゲン商店に勤め始めて2年経った頃、横田氏は、新たに開業した姉妹店「しぶやくん」の店長に任命された。「『マルゲン商店』は基本ワンオペで回していましたが、『しぶやくん』ではスタッフのマネジメントをする必要が出てきました。私は、これができなかった。数字ばかり見て視野が狭くなり、徐々に人が離れていってしまったんです。楽しいはずの飲食業を、楽しめない。本当はこんなはずじゃなかった。そんなことを考えていたら、ちょっと疲れてしまいまして」。3年ほど経った32歳の頃、横田氏は飲食業を続けるかどうかを思い悩み、地元の名古屋市へ戻ることを検討し始めた。
店舗の休日を利用して、名古屋市で店舗巡りをしていた横田氏だったが、ある日、名古屋市の老舗居酒屋「大甚本店」の立て看板が目に留まる。そこに書かれた文字は、「調理人求む」であった。「普段、求人を出していない店舗だったので『これはもしかしたらチャンスかもしれない』と思ったんです。老舗だし、きっと良い経験になる。そう思いました」。東京へ戻った横田氏は、黒田氏に意思を伝え、「渋谷くん」を退職。改めて名古屋市へ帰り、「大甚」に入社。ここで2年間調理の経験を積むと同時に、「しぶやくん」で自身の課題として浮き彫りになっていたマネジメントのスキル向上にも努めた。「『大甚』のホールスタッフは、ほとんどが海外の方だったんです。中には言葉が通じない人もいるので、伝え方が本当に重要で。あの手この手で意思の疎通を図って、最終的に彼らが成長する。そういうのを目の当たりにするのがとても楽しくなりましたね」。このときの経験は、現在の横田氏の接客にも大いに影響を与えているという。
その後、横田氏は同じ名古屋市の「やきとりおでん 大賛成」に入社。日々の営業をこなしつつ、店舗の定休日には同店のカウンターを借りて独自に飲み屋を営業し、独立開業のシミュレーションをしていた。横田氏は「店の営業日には会社人として務めを果たしつつ、定休日には個人店の真似事ができる。独立の練習とはいうものの、内心ではこの生活に満足していました」と、語る。一方で、横田氏のこの動きをSNSで追っている人物がいた。「マルゲン商店」のオーナー・黒田氏である。「今年の正月、黒田さんから『話がある』と連絡があって。何事かと思ったら、『マルゲン商店』の物件を引き継いで、独立しないか、と言われて」。年齢的に複数店舗を運営し続けることが難しくなってきた黒田氏は「マルゲン商店」を閉めることを決意。そこで、旧知の仲であり、独立への意志を感じた横田氏に後を託そうと考えたというわけだ。「嬉しかったのは事実ですが、『大賛成』にも恩義がある。もし、他の場所だったら即答でお断りしていたと思います。けれど、『マルゲン商店』は私に飲食業の楽しさを教えてくれた場所。一度持ち帰ってじっくり考えた結果、これもきっとご縁だ。お引き合わせだ。そう思えるようになり、受けることにしました」。3月末に物件の契約を行い、6月初旬の開業を決めた。「『大賛成』では4月末まで働き、『マルゲン商店』の営業は5月末日まで続いている。開業準備は超タイトスケジュールになってしまうのですが、家賃がもったいないんで、なるべく早めに始めてしまおうと思って(笑)」と、語る横田氏。店舗の造作はほとんど手をつけず、掃除や内装外装の色を変えるなど必要最低限の改装に留め、「マルゲン商店」の閉業からわずか10日後の6月10日、「風見堂」をオープンさせた。
店舗データ
店名 | 風見堂 |
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住所 | 東京都目黒区上目黒3-1-14メイツ目黒101 |
アクセス | 中目黒駅から徒歩3分 |
電話 | 03-6451-0934 |
営業時間 | 15:00~23:00 |
定休日 | 月曜 |
坪数客数 | 約7坪16席 |
客単価 | 3500円 |
オープン日 | 2022年6月10日 |
関連リンク | 「風見堂」(Instagram) |