生産者と消費者のハブになり、消費者リテラシーの向上に努めることが外食産業の責務
梅津氏:私としては、生産者を信頼して忌憚なく牡蠣の良し悪しを言ってほしいな、と思います。なんでかというと、そういうフィードバックがモノの品質を上げる方法だからです。私は一番初めに牡蠣を作った時、わざわざウチまで買いに来た人にしか売っていなかったんです。現場を見て、手間ひまかけていることを知ってほしかった。手間をかけていない牡蠣と、同じくくりにしてほしくなかったんです。それを知ってもらうことで、一個の値段が高くても「安いね」って言ってもらえる。価値をわかってもらえると思うんです。
山下氏:梅津さんの牡蠣もそうだし、自然農法の野菜には時間がすごくかかっていて、商品にそういうストーリーをつけて提供することって大事だと思います。そういう意味で、飲食店ってすごくメディアバリューが高くて、なんだかんだ誰もが行きたい場所なんですよ。食材にまつわる色々なことをメッセージとして発信できると思うんですよね。生産者の現状や作っている環境とかを、飲食店をタッチポイントにして消費者に知ってもらう。食材のストーリーや背景を一緒に提供することで、消費者のリテラシーを上げてもらいたいなと思いますね。
古森氏:野菜を扱う外食産業として今までずっと考えてきたのは、なぜこんなに農業が衰退しているのか、儲からないと言われているのかということです。その理由って、シンプルにみんな野菜を食べないからなんですよね。肉や魚の消費量が圧倒的に多くて、野菜はメインになり得ない。やっぱり焼肉やすしはおいしいし。そこはもう仕方ないし、料理をする側の責任でもあるし、生産者側のクオリティの責任でもある。両者とも、高いクオリティのものを提供し続けて、消費者に「今日は肉じゃなくて野菜を食べてみようかな」と、思ってもらえるようにするしかないのではないかと。それが全てなのではないかなと思います。
狩野氏:外食産業って、商品が出口であり情報の入口なんですよね。だから、消費者が何を求めていて、どんなものを欲しているかっていう情報を生産者さんと共有するべきだと思うんです。私たちで言うと、山形県のアンテナショップの運営をしていたことがあって、八百屋とレストランをやっていたんですけど、どんなものが人気で、どんな価格帯だったら生産が伸ばせる、っていうことを農家さんと共有していました。すると、年間の作付け計画とかの情報が私たちのもとに入ってきたんですよ。生産者さんと情報を共有して、生産を伸ばすお手伝いをして、こちらも買い取りができるような取り組みをしてく活動を増やしていくことは、外食産業の責務だと思います。
梅津氏:日本の漁業も農業もそうなのですが、これが無くなったら人って生活ができなくなるものだと思うんですよね。私たち作る側も良さをPRして、生きていくために大事なもののひとつとして捉えていただけるように広めていかなければと思っています。
山下氏:私自身は今、約150社の法人とプロジェクトを進めているのですが、色々なところに自由に出入りできている良さを活かして、素晴らしい生産者さんを色々な人、地域と繋げるハブになれたらと思っています。また、個人的には今年は最先端技術を使って、日本の水が世界に劇的な変化を与えるプロジェクトも進めていこうと考えています。
古森氏:コロナ禍によって、外食産業は極端にデジタル化に向かっているなという流れを感じています。先日、昔大好きで通っていた居酒屋に飲みに行ったんです。10年ほど前、お金がない時によく行っていて、そこのお兄ちゃんにめちゃめちゃ良くしてもらって、すごくいいお店だったんですね。でも、久々に行ってみたら、オーダーをアプリで注文するようになっていて、スタッフがいないんですよ。すごく寂しくなってしまって。もちろん、この流れって外食産業では止められないところもあるんですが、私自身は逆行してフィジカル中心で生きていきたいなと。4月に私が現場に立つような店を出そうと思っているんですけど、デジタル化して均一化しがちな外食産業に対して差別化ができるようなお店を作ろうと思っています。
狩野氏:私たちの企業のパーパスは「子どもたちに選べる未来を」で、「全ては次の世代のために」というスローガンを掲げています。僕たちの子どもの世代が食べているモノって、非常に不安なものが多くて、私たちは今を生きている者として責任をとっていかなければならないと思っているんです。今月は食育の書籍を発売しますし、少しずつ消費者の食のリテラシーを高めていくことが大切で、その啓蒙活動を地道に続けていかなければならないんですね。「食の安全をあきらめない」ということを死ぬまで続けていこうと思っています。
(取材=高橋 健太)