2007年、阿佐ヶ谷で創業。2013年、2号店を中野・レンガ坂にオープンさせ、日本酒ブームの火付け役となった「青二才」(東京都杉並区)の代表 小椋道太氏。一杯あたりの価格をおさえ、しかもシャンパングラスで提供することで、若い女性客などを取り込み、日本酒への垣根をグンと下げた。まさに“日本酒新時代”を切り拓いた人物だ。2015年にはオフィス街の複合施設「神保町テラススクエア」への出店を果たし、さらにその勢いをます彼の最新店は、意外にも日本酒業態ではない。コンセプトは“毎日がホームパーティ”。ジャンルや業態にとらわれない、常連客のためにつくった紹介制の店だ。昨年、建物の老朽化のため惜しまれつつ閉店した「阿佐ヶ谷 青二才」は、6月1日、姿を新たにして、この地に復活した。
雑居ビルのある一室。扉を開くと溢れんばかりの人が、グラスを片手に思い思いの時を過ごす光景が広がる。カウンター越しにスタッフと会話を楽しむ人、中央の丸いハイテーブルで仲間と祝杯をあげる人、二人で食事を堪能する人、ソファ席でゆっくりお酒を楽しむ人。日本酒業態をヒットさせた彼が、なぜ阿佐ヶ谷に、このような店をつくったのか。「飲食店はもっと自由であるべきだと思います。スタッフとお客さんがもっとフラットな関係。お客さんと一緒にメニューやルールも含め店をつくっていく。そんなイメージです。このお店で利益を追求していくというよりは、お世話になったお客さんや地域に還元したくて、オープンさせました」と小椋氏。
“ホームパーティ”がコンセプトとだけあって、メニューは、用意されたものもあるが、お客が食材を持ち込むBYOもできることが特徴的だ。価格は、持ち込んだ食材1gにつき2円。店にはご飯と味噌汁が用意されており、オリジナルの「BYO定食」にすることも可能だ。ほかにもお好み焼きの生地や鉄板焼きのソースなどの基本となる調味料や食材が用意されている。小椋氏いわく「釣った魚を持ち込んで、友人とパーティを開いたり、松坂牛を持ち込んで鉄板焼きをしたり。ここは子供のような大人のプライベートキッチンなんです」と。ドリンクはすべて500円。日本酒に限らず、ビール、カクテル、ジーマなどが冷蔵庫に並ぶ。常連客のアイデアから生まれた「紅茶ハイ」は、タンクからセルフでグラスに注ぐ。支払いはキャッシュオン。お客はちゃんと自己申告してセルフで会計を済ませていく。「“紹介制”というと仰々しくて、なんだか違和感がありますね。こんな感じでやっているので、信頼できる人しか入れないんです。オープンしてからどうなっていくか僕もまったく想像がつかないですね。どうなると思います?」と笑顔を見せる。
「青二才」の原点は、小椋氏が15年ほど前に開催していた日曜日イベント“井の村”にある。「毎週日曜日、井の頭公園に焼酎を30本持ち込んで、1杯300円で道行く人に売っていました」。酒を楽しげに飲む姿に惹かれ、やがて人が集まりだし、一日100人以上が訪れるまでに。「お客さんを巻き込んで、一緒になって楽しむ、というのがとても性に合っていたんです」と当時を振り返る。和食店などでも経験を積みながら、高校の同級生である神谷栄伸氏と「阿佐ヶ谷 青二才」を創業した。次第に近隣に住む人が通う人気店になっていった。“井の村”時代から10年以上通う常連客に「青二才」の魅力を聞くと「スタッフもお客さんもみんな仲が良い。ここに来たら必ず誰かと楽しく過ごせるんですよ」と返ってくる。周りを巻き込み、一緒になって楽しんで、人と人を繋いでいく。その卓越した彼の才能が、「青二才」を通わざるを得ないほど魅力ある店にしているようだ。
今後について尋ねると「また日本酒のお店もやると思いますが、しばらくはここにいますよ。うちの店を育ててくれた阿佐ヶ谷にルーツを持っていたかったんです」という。飲食店をはじめる理由は人それぞれ。彼らの動機は「人と人が楽しく繋がる場所をつくりたい」。そんな思いを純化してできたのが、新たな阿佐ヶ谷の「青二才」なのだろう。