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コラム

いま、アジアの飲食マーケットが熱い!⑤(ヤンゴン編)

沸騰するアジア飲食マーケット視察レポート第五弾!今回はミャンマー・ヤンゴン編。ミャンマーは人口6367万人とASEAN諸国ではベトナム、タイに次ぐ多さ。平均年齢は27歳と若い。長らく軍事政権が続いていたが、2010年の総選挙を経て11年3月にテイン・セイン文民政権に移行、アウン・サン・スー・チー氏も議席を獲得して復帰。それを機に、米国などが経済制裁を解除したことで外資流入が本格的に始まった。商都ヤンゴンは人口600万人。プノンペンに比べ、ネットや電力などのインフラは遅れているものの、消費都市として動き始めたところ。日本人経営の飲食店の現状と先行きはどうか。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


ヤンゴン空港に降り立ったのは、9月19日の朝だった。アライバルビザで入国した。現地で不動産と日本企業の進出サポートビジネスをやっているステイジアキャピタルマネジメントの鈴木賢さんに予めアライバルビザの発給書類を依頼していた。ミャンマー入りするには、この方法が便利。ビザ申請費は50ドル。空港からはタクシー、交渉で10ドル。驚いたのは、空港で日本円を両替できないこと。市内でも円からの両替は困難。市内の外国人向けホテルやレストランではUSドルが使えるが、タクシーやローカル飲食店では現地通貨のチャットしか使えない。金融インフラも遅れており、クレジットカードもほとんどの店では使えないから注意が必要。ネット環境も悪い。無料Wi-Fiはホテルやレストラン、カフェなどで辛うじて使えるレベル。空港から市内に入る道路は広く、通勤時間を除けば大きな渋滞はない。道も綺麗で、緑も多い。びっくりしたのは、バイクを一台も見かけないこと。ホーチミンやプノンペンとは大違いだ。政策によって、バイクはヤンゴン市内で使用禁止とのこと。したがって、アジア独特のバイク音による喧騒はない。ヤンゴンでの移動手段は、タクシーしかない。便利なのは、街のどこでも拾えること。メータータクシーはなく、料金は交渉制。1時間チャーターして、だいたい6000リエル、600円ぐらい。車は、日本の20~30年前に活躍していた中古車がほとんど。エアコンなし、ドアの窓は手動で開ける。庶民は、トラックの荷台や乗合いバスで移動していた。ヤンゴンの街はど真ん中の大きな湖「INYA LAKE」があり、この周辺が高級住宅地。富裕層の豪邸やコンドミニアムが点在する。さらに南に下ると、市内唯一の観光地といわれる寺院「シュエダゴン」の塔が聳え、その近くに第二の湖「KAN DAW GYI LAKE」があり、その周辺に外資系ホテルや駐在員事務所、サービスアパートメントが集中している。このあたりも一等地だ。そして、さらに南に下り、ヤンゴン中央駅(ヤンゴンには鉄道がある)を超え、東西に伸びるボーチョーアウンサン通りに出ると、日本企業のオフィスが集合して入居している20階建ての「サクラタワー」がある。この建物が市内では最も高いオフィスビル。最上階にはレストランがあり、ここからヤンゴン市内がほぼ360度見渡せる。ボーチョーアウンサン通り沿いには、商業ビルやマーケットがあり、人が集まるエリア。ボーチョー通りの南側は、小さな通りが碁盤の目のように広がるダウンタウンエリアがヤンゴン川沿いまで広がる。中国人街、インド人街などのブロックがあり、ローカル向けの店や屋台で賑わうエリアだ。ヤンゴン川沿いには、欧米人が集まるレストランやバーがある。日本人が集まるのは、ヤンゴン中央駅の北エリア。現地駐在員相手の日本食の店が並ぶ。27年になる繁盛店の「一番館」、その近くには1年前にオープンした「勝」。こちらも大繁盛。「勝」のランチは6000~7000チャット(約600~700円)。夜は居酒屋になり、日本の客単価3000円ぐらいの店と内容は変わらない。食材もなんでも揃うが、日本から送られてくるものは当然高い。コメや野菜は現地、そのほかの食品、食材はお隣のタイやマレーシア産のものが多いようだ。夕食ために入った「門道」は“築地直送”の魚が売り。店主は「二週間に一度、築地から25キロずつハンドキャリーで運んでます」と言う。冷凍のまぐろでも、現地駐在員にはありがたいようで、2500~3500円の「本鮪の刺身」がよく売れるらしい。私も「刺身の盛り合わせ」を頼んだら、3人前5点盛りで10,000円のものを出された。店主は、宇都宮に本店を持ち、上海にも進出、海外2店舗目がこのヤンゴンだそうだ。ヤンゴン市内に日本人が経営する飲食店は約30軒。そのほとんどが現地駐在員向けの店だ。「勝」が一年前、「門道」が半年前にオープン。そして、最近オープンしたのが「いずみ」。場所は「INYA LAKE」近くの日本人駐在員が多く住むコンドミニアムの1階。オーナーはIT系企業の経営者で、「人件費の安いところ、人材教育に感心があって」新規事業として飲食に進出。近郊の農地で養鶏や野菜もつくりたいと言う。「いずみ」も鷄が売りだ。ミャンマーの平均ワーカーの賃金は月53ドル、ワーカー以外を含めても95ドル程度。飲食店のメリットはこの人件費の安さ。食材さえ安定的に調達できれば、利益は出る。ただ、ここ数年の不動産投機熱、ホテル不足、居住用不動産の不足で家賃が高騰しているのがデメリット。一等地物件はシンガポール並みともいわれる。不動産賃貸業も求められ、物件契約はリーガルにできるが、たいてい1年契約で1年分と仲介手数料1ヵ月分を前払いしなければならない。ただし、保証金はない。会社をつくるにしても、100%独資でできるが、最低資本金がサービス業の場合、50,000ドル必要となる。ところで、ヤンゴン在住の日本人はいま1,000とも1500人ともいわれる。日本企業数は60~70社。旅行者や出張ビジネスマンを含めても、日本人を相手に飲食店を開業するには、リスクがある。すでに30軒ほどが凌ぎを削っている。これからは、ローカルの中間層や欧米人をリピーターにできる店が必要になるだろう。そうしないと、長期的な展望を持てない。そうしたなかで、注目されるのがラテンレストラン「Salud!(サルー)」とワインバー「MARU(マル)」。共に日本人女性が経営する。「サルー」は本店が日暮里の人気サルサクラブ。その女性オーナーの娘さんの大野舞湖さんが今年3月にオープンした。場所は「KAN DAW GYI LAKE」近くの高級住宅街エリア。現地駐在員も相手だが、欧米人やローカル富裕層もターゲット。一方、今年8月にオープンした「MARU」はダウンタウンに出店、日本人はもちろん、ローカル中間層をも狙っている。一階はカウンターのみで、グラスワイン400円~。隣には、鉄板焼の店も同時オープンした。こうしたありきたりな日本食レストランと一線を画す洋業態系の店が増えてくれば、ヤンゴン飲食マーケットも一気に活性化する。日本人相手の限られたマーケットから飛び出す覚悟が必要になってくるだろう。ヤンゴンでユニークな飲食店を展開しているのが、「Ko San Cafe(コウサンカフェ)」「Ko San Cafe(コウサン19ストリート)」を経営する久保さん。日通シンガポールに勤務していた30歳のとき、ヤンゴン支店立ち上げのためにミャンマーに入った。以降、ヤンゴンの街と人に惚れ、脱サラして5年前にカフェを開業した。「コウサンカフェ」はおそらくヤンゴン初のカフェである。ターゲットは完全にローカル狙い。もちろん日本人も来るが、観光客はあまり訪れない現地の若者が集まる“原宿”のようなレーダンというエリアにある。「コウサン19ストリート」はやはりローカルが夜遊びで集まるダウンタウンの中にある。500円もあればビールとさまざまな現地料理が楽しめる店だ。久保さんは言う。「日本のエリート駐在員がスーツを脱いで、個人で行きたいと思う店をつくりたかった」。そして、ローカルの人々と出会い、交流できるような場としてのカフェやレストランを、と。まさに、いまヤンゴンで足りない飲食機能はそういうリーズナブルで楽しい店だ。日本人相手のマーケットは吹けば飛ぶような狭い世界。一方、ローカル相手は無限の可能性がある。これからヤンゴンを攻めるには、ローカルが集まる街場に攻めていくことが一つのポイントとなる。もう一つは二つの湖の周辺の高級住宅街やオフィスエリア周辺の一軒家を狙うこと。富裕層が所有する邸宅などが飲食店用の物件として出回っている。2階建てで100坪ぐらいの広さで家賃40~60万円。「サルー」の物件などはその一例だ。こうしたエリアで日本人向けだけでない尖った業態をやってみるのも面白いのではないか。ミャンマーは“アジア最後のフロンティア”といわれる。9月30日からは、ANAが成田⇔ヤンゴン直行便を一日一便飛ばす。エコノミーなら往復75,000円で行ける。これが起爆剤になる可能性もある。未知の魅力を秘めたマーケットであることは間違いない。 

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