「住みたい街」ランキング上位に長く君臨する森の街・吉祥寺。駅前は都心同様、比較的リーズナブルなチェーン店に溢れるが、少し足を延ばせば良質な個店も多く存在する。9月10日、井の頭恩賜公園へと続く吉祥寺通りにオープンしたのは、全国各地の旬の魚介類をあらゆる調理法で提供する「POLPO吉祥寺Seafood Market」(経営 アレテ―、代表取締役 志村一篤氏)。同じ武蔵野エリアにある野菜が主役のビストロ「志あわせ」に続く2号店となる。
陽気な音楽が流れる店内。石灰風の白壁にギンガムチェックの青いテーブルクロスがよく映える開放的な内観は、志村氏が新婚旅行で訪れたギリシャ・サントリーニ島の漁港レストランをイメージしたものだ。一方でもともとあった古い梁をそのまま利用したり、カウンターの一部を洗練されたデザインが美しいベトナムタイルで装飾したりと、多国籍な印象も効かせた。入り口すぐのトロ箱からは、その日の鮮魚たちが顔をのぞかせる。食べ手の気分を盛り立てる絶好の演出としてはもちろん、トレーサビリティ第一の姿勢を伝える狙いもある。
魚介類の仕入れは北海道・爾志郡に拠点を置く「中原水産」と提携。北海道から鹿児島までその日水揚げされた鮮魚が届く。「中原水産」代表の中原立喜氏は、全国の漁業者から直接買い付けた食材を飲食店に卸すなど、既存の水産流通システムに変革を起こしてきた人物。その中原氏とのタッグは、料理の提供にとどまらない、志村氏のサプライヤーへの並々ならぬ使命感が形になったものといえよう。「消費者に喜んでもらうということは、生産者に元気になってもらうこと。中原さんの会社のおかげで、漁師さんは漁港に卸すより実入りがいいし、僕らは魚の詳細なデータと安心をお客さんに示すことができます。どんな料理になってお客さんの口に入っているかまで伝えてくれるというのも、お互いのモチベーションが高まっていいですね」と志村氏。
現在の流通経路にこだわる志村氏の食観は、海外での体験に依るところが大きい。高校卒業後、アメリカの飲食店やジャマイカのホテルでの勤務経験を通じて、これまで当たり前に享受してきた日本の食文化への感度が高まっていったという氏。いつか食を通じて社会に貢献したい。1次産業ひいては日本の食卓を元気するための小さなインパクトになりたい――その思いを胸に25歳で帰国後、米農家やさまざまな飲食店で経験を積んだ。「まずは足を使う」をモットーに、1カ月かけて自転車で日本を縦断、自らの目で各地の農家や漁港を見て回ったこともある。そして2012年、1号店「お野菜びすとろ 志あわせ」をオープンし、2年後、33歳でアレテーを設立した。
「POLPO吉祥寺Seafood Market」の料理は、志村氏のこれまでの食体験をベースにしつつも、ジャンルを決めず魚介一本で勝負する。看板食材に据えるのは、函館近海の噴火湾で獲れる最高級たこ。実は店名の「POLPO」、イタリア語で「たこ」を指すという。そのたこの足の長さをフルに活かした「北海だこの豪快グリル」(980円)には、氏も「うちの名物」と胸を張る。ほか「あおさ海苔のウニクリームパスタ」(1280円)もオープン当初から大人気だという。またグラスワイン450円、焼酎やハイボール、カクテル類も各種500円~と、アルコール類も日常使いにぴったりな価格設定だ。
「この辺りは武蔵野愛が強い方が多く、新しいお店を応援しようとしてくれる風土があります。今はこのお店のことで頭が一杯ですけれど、最終的には武蔵野エリアで5店舗くらい展開できたらいいなと思っています」と志村氏は展望を語る。いわく「魚の店が少ない」吉祥寺で、生産者の思いを消費者に繋げる最終窓口として勝負をかける同店。その挑戦は始まったばかりだ。
店舗データ
店名 | POLPO吉祥寺Seafood Market |
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住所 | 東京都武蔵野市 御殿山1-2-1 吉祥寺御殿山デュープレックスリズB1F |
アクセス | JR中央線・京王井の頭線「吉祥寺」駅南口徒歩4分 |
電話 | 0422-26-6307 |
営業時間 | ランチ 11:30〜15:00(LO14:30) ディナー 17:00~23:00(LO22:30) |
定休日 | 月曜日 |
坪数客数 | 26坪・51席 |
客単価 | 3500円 |
運営会社 | アレテー株式会社 |
関連リンク | POLPO吉祥寺Seafood Market(FB) |