「自店の強みを見極め、立地特性を読み切る」。これは最近の繁盛店に共通する、一つのキーワードである。商売の成功要因はやはり「需要と供給のバランス」に尽きるもので、どれだけ地域の需要を的確に読み切り、それに対して自店の強みをフルに発揮して供給することができるのか。そこに着手して突き抜けた店のみが、手堅い繁盛を獲得する傾向にある。そうした中、いま一店の小規模店が密かながらも着実に躍進を遂げている。2010年6月、池袋にオープンした「小皿イタリアン&生パスタ 五感」は、わずか10坪の小規模店ながら月商500~600万円の売上を実現。1年後の2011年6月には、1店舗目から徒歩3分ほどの場所に2店舗目の「ピッツァ&ワイン 五感」を開業し、さらに小さな8坪の規模ながら月商500万円を上げている。そして、約1年後となる今回は場所を赤羽に移し、「小皿イタリアン&ワイン 5感」をオープン。7.5坪にテラス席2.5坪を加えた10坪の規模で、目標月商400万円を掲げている。 視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚の5つの感覚を合わせて“五感”と言うのは、誰もが知るところ。同店の店名はここから採用したもので、1、2店舗目はそのものズバリ「五感」。そして今回は新たに表記を変えて「5感」と命名。同店は石井康之氏と関口真一氏が共同経営する店で、2人はともに多くの人材を輩出したことで有名な、とある外食企業で研鑽を積んだ経歴を持つ。ここで培った実力が同店の根幹にあり、それにプラスしてその他の店で学んだ経歴も大きな武器となって、自分たちなりの独自のやり方で“五感”ブランドを築き上げている。同店の出店スタイルにはいくつかの傾向がある。まず、歓楽街立地への出店。次に、10坪以下の小規模店舗。そして、“早朝&デリバリー”マーケットの開拓。さらにはリスクを極力抑えた損益分岐点の低さなどが挙げられる。同店が作り上げた“必勝業態”を供給のない街に落とし込み、そこでオンリーワンの店として一人勝ちを狙う。そうした「需要と供給のバランス」を巧みに捉えた“業態開発&出店戦略”が、同店の何よりの強みなのである。何か一つを突出させた業態ではなく、いくつもの要素を巧みに絡み合わせながら大きなパワーを生み出す。そんなバランスの取れた飲食店経営なのだ。 歓楽街立地に出店するのは同店の業態がそうした地域にないからであり、言い換えるなら歓楽街立地を熟知したからこそ生み出せた“必勝業態”でもある。10坪以下の小規模店舗を採用するのも、たとえ売上げが落ち込んでも何とかなる規模ゆえのもの。現在ある3店舗はみな損益分岐点を180万円に抑えており、これも最悪の状態を想定した上での設定だ。当然、リスクを警戒して店舗規模を小さくすればするほど、返ってくる売上も小さくなる。だが、同店ではローリスク・ローリターンに甘んじることなく、ローリスク・ハイリターンを目指し、“早朝&デリバリー”マーケットの開拓に着手。池袋の「五感」は2店舗とも夕方18時から朝8時まで営業し、赤羽の「5感」は夕方18時から朝7時まで営業する。さらに1店舗目の「五感」はランチ需要が見込めることから、ディナー営業前に11時30分から18時までランチ営業を行ない、途中休憩を取らず、通しで20時間半という長時間営業を行なっている。デリバリーに関しては、1店舗目の「五感」は月に100万円を売上げるなど、ハイリターンを呼び込む大きな原動力ともなっている。 こうした“早朝&デリバリー”営業は、そこにニーズがあるから可能なのであり、同店が歓楽街に出店するのも、そうした立地に絶対的な潜在需要を見出したからに他ならない。まわりにナイト系の店が多い立地ゆえ、そうした店で働く人たちの仕事を終えた後の憩いの場所として、同店は大いに重宝されている。とはいえ、1店舗目の店はオープン3~4ヵ月は早朝の時間帯の客は皆無に近く、営業時間を朝5時で切り上げようかと悩みもしたが何とか踏ん張った結果、現在の需要を開拓したのである。また2店舗目も現在、朝4~8時の売上げがかなりのウエートを占める。そして3店舗目を赤羽に出店したのも、“リトル池袋”と称してもよいほど街の雰囲気がよく似ているからであり、同店の“必勝業態”が最も実力を発揮する条件を兼ね備えた街だからである。さらにナイト系の店が多いということは、そうした店へのデリバリー需要も見込める。オープン間もない赤羽はまだ本格始動してないが、池袋同様に売上げの柱の一つとして組み込んでいく意向だ。 もちろん同店は、こうした“早朝&デリバリー”マーケットの客だけで成り立っているのではない。あくまで一般的な営業時間帯の客もきちんと捉えているのが大原則で、その上で、深夜過ぎもきちんとしたイタリアンが食べられるという売り物が大きな付加価値となって客層の拡大に成功したのである。メニュー内容は3店舗で異なるが、大きな骨組みとして350円&550円のお手頃タパス。2.5mmの太さのもちもち生麺のパスタ。生地とソースにこだわったピザ。そして各店の売り物商品で、「5感」では「オリジナル骨付きチキン」(750円)、「和牛肩ロースステーキ」(1500円)の2品を供する。パスタとピザも品数を充実させており、食事だけの気軽な利用も促すことで多様な利用目的客を集客している。 これまで1年1店舗を目標に同タイプの店で展開を進めてきたが、今後は異なる業態での出店も視野に入れる。それは、「いまはたまたま勢いに乗れているが、店を出すのはそんなに簡単なことではない」という、同店の考えによるもの。代表の石井氏と関口氏の出自は、その名を挙げれば恐らく誰もが知っているに違いない。だが、そこで学んだことを自分たちなりに消化して独自のスタイルを作り上げたいま、いつまでもどこどこの出身と紋切り型の論調で語る必要はないだろう。彼らの店は店内に一歩足を踏み入れると、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚を強く刺激する沢山の魅力で満ち溢れ、客を大いに魅了する。まさにそれこそが、彼らが店名に託した「五感」という唯一無二の商売の在り方なのである。
店舗データ
店名 | 小皿イタリアン&ワイン 5感 |
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住所 | 東京都北区赤羽南1-5-7 |
アクセス | JR赤羽駅より徒歩1分 |
電話 | 03-3598-5445 |
営業時間 | 18:00〜翌7:00(L.O.翌6:15) |
定休日 | 日曜・祝日 |
坪数客数 | 7.5坪(テラス2.5坪)・14席(テラス8席) |
客単価 | 2500〜3000円 |