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新・編集長コラム

広がりすぎた「エモ酒場」。次なる酒場トレンドとは?【後編】

以前のコラムで紹介した「エモ酒場」。「エモ酒場」の出発点はオーナーの店にかける想いやストーリーだったが、徐々に広がるにつれ、流行りに便乗しただけの酒場が散見されるようになってきた。表面をなぞっただけの店はそろそろ限界ではないだろうか。そんな今、頭角を現している酒場を表現するとすれば「ストリート酒場」と「温故知新酒場」だ。後編では「温故知新酒場」について解説したい。

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


【前編】はこちら

流行りをなぞっただけの店のアンチテーゼとして登場

最近、コンセプトに「温故知新」を掲げる店が散見されている。古き良き日本の酒場文化を再考し、新しいエッセンスを加えた店づくりということだ。

これは結局「ネオ大衆酒場」と同じことだ。そもそもネオ大衆酒場とは、古典的な大衆酒場に現代的なエッセンスを加えた新しい酒場のスタイルのこと。

ただし、ここ数年でネオ大衆酒場が広くブームになったことにより、「酒場とは」の本質を置いて、表面をなぞっただけの安易な店が増えた。それに対するアンチテーゼとして、今一度、本当の酒場の原点に立ち返ろう、というムーブメントが起きている。

加えて、昨今のコロナ禍による酒場の苦境も相まっている。緊急事態宣言に伴う時短や酒類提供の制限により、酒場への客足は鈍った。また、世の中全体でアルコールの消費量が減っているという話もある。そんな中で、日本で長らく育まれてきた酒場文化をなくしてはいけないという強い想いが生まれ、それらが形になったのが「温故知新酒場」だ。

各地の名店や老舗と呼ばれる酒場へ足を運び、リアルな「酒場」に触れ、それを自分たちらしくアップデート。もしくは老舗には限らず、オーナー自身が思う「酒場の原点」、例えば今から十数年前にオーナーが初めて感動を覚えた酒場でもいい。それらに立ち返り、店づくりをする。

「温故知新酒場」、注目店は?

立川にオープンした「居酒屋さいちゃん」。コロナ禍や若者のアルコール離れなど、酒場や居酒屋を取り巻く厳しい状況で、あえて「IZAKAYA NEVER DIE」、「居酒屋は死なない」というメッセージを掲げ、大箱で挑戦する店舗だ。オーナー齊藤氏が大好きだという名酒場「丸千葉」をリスペクトしつつ、同社なりのエッセンスを加えた「温故知新酒場」となっている。

立川駅北口から徒歩2分の繁華街に立地する「居酒屋さいちゃん」

同じく「流行りは追わないが老舗をお手本にした」という中目黒の「初場所」。一見すると地味なメニューが、食べてみると驚くほどおいしい、過剰な接客はないが、注文したものがサッと出てくる。飲食店の基礎の部分に徹底的にフォーカスを当てた店づくりは、インパクトある見た目やパフォーマンスなど「映え」に走る店が増える中で、同店は飲食店の本質を教えてくれる。

また、老舗まではいかずとも、オーナー自身が思う「居酒屋の原点」に立ち返り、そしてアップデートした店が、祐天寺にオープンした「祐天寺Bob」。恵比寿の「おじんじょ」、渋谷の「高丸電氣」を展開する5way kitchenの新店舗。今回は高丸氏の思う「居酒屋の原点」に立ち返って店づくりしたという。彼の原点とは修行先のフーズサプライサービス(現ブラボー・ピープルズ)の「汁べゑ」「椿堂」といった居酒屋だ。当時の居酒屋の良さを、いま、もう一度、というのが店づくりのテーマだ。

常にトレンドが生まれる一方で、廃れる店も多い。長く続く店と廃れる店の決定的な違いは、オーナーの想いやストーリーがあるかどうか。表層的な店は消えていくが、トレンドが下火になろうとも想いやストーリーのある店は続いていく。

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