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新・編集長コラム

異業種からの刺客が飲食を面白くする。今の酒場トレンドを牽引するのはアパレル出身オーナーだ!

長年にわたり飲食店で修業を積んだ末に独立、繁盛店に……このセオリーが崩れるかもしれない。近頃、異業種、とりわけアパレル業界から転身したオーナーによる酒場が盛況だ。業界の常識にとらわれない自由な発想と抜群のセンスを武器に、飲食一筋のオーナーとはまた違った魅力的な店づくりを実践。今の酒場トレンドを牽引しているのは彼らアパレル出身オーナーだ。

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


飲食店における「映え」の対象は、料理以外にも拡大

昨今のSNSの発達により、料理やサービスだけでなく店のアートディレクションも重要視されるようになった。今まで飲食店の「映え」は料理に主眼が置かれていたが、そこから映えの対象は拡大し、さりげなく置かれた小物や食器、ネオンサインなど、何気なく切り取った風景までに及びつつある。そんなニーズに的確に応える力を持っているのが、アパレル出身者だ。以前のコラム「ネオ酒場の次なるトレンドは『エモ酒場』。若者が熱狂する“エモい”酒場とは?」でも、エモ酒場はアパレル的センスとも関係が深いと記述した。オシャレで写真映えする空間を作れるアパレル的センスが、今の酒場のニーズと合致しているのだ。

ノウハウは「隠すもの」から「シェア」の時代に

以前からもアパレル関係者による飲食店はあったが、内装などデザイン部分は恰好よくても肝心の料理やサービスがイマイチというケースが多く、あまりうまくいくイメージがなかった。ところが近頃のアパレル系オーナーの店は、デザインセンスはもちろん料理やサービスなどの飲食店として基礎がしっかりしており、レベルが上がっている。それは何故だろうか?

昔の飲食店では経営ノウハウやレシピは隠すものだった。それが今はシェアやコラボの時代に変わりつつある。「よいものはどんどんシェアしてお互いに高めあおう」というのは新世代の発想だ。飲食経験がなくとも仲間の力を借りて魅力的な料理やドリンクを提供することが容易になったのは一つの要因ではないだろうか。

異なる事業を展開する2人がコラボした店づくりも増えている。やはりノウハウのシェアが目的だ。お互いの得意分野を生かしながら、同時に、業界の常識にとらわれない新しい視点も得られるメリットは大きい。

アパレル出身オーナー酒場、注目店は?

以下、注目のアパレル系オーナーの酒場を紹介する。

・渋谷「半地下酒場」
ホテルやライブハウスが立ち並ぶ道玄坂のディープエリア、元は駐車場だったというビルの半地下スペースを改装した居酒屋だ。服飾デザイナーから飲食店オーナーに転身した今井洋氏と、洋服のプリントや刺繍の事業を行う添田慎也氏がタッグを組んで今年6月オープンした。2人のセンスが発揮された店舗デザインは、「無駄なものをそぎ落としながら作った」「恰好良くなり過ぎないよう気を付けた」という。安価な業務用品や事務用品をうまく活用し、そうは見えないが低投資に抑えたという内装は見所だ。料理やドリンクのメニュー構成もしっかりしているのは、今井氏が約5年にわたり飲食店経営をしてきた経験があるからこそ。店のテーマは「食とエンターテイメント」。今後は食に限らずアパレルや音楽など、様々なカルチャーとのコラボにも挑戦していくという。

・三軒茶屋「大衆酒場ネオトーキョー」
7月、「スペイン料理と自然派ワイン LUZ(ルース)」から業態変更してオープン。オーナーの岩崎慶人氏は、開業前はアパレルのブランドディレクターを11年にわたり務め、その前は、バンドやスケートボーダーとしても活躍していたという。アパレルはもちろん、音楽、ストリートカルチャーにも造詣が深い人物だ。飲食店オーナーに転身する以前から無類の自然派ワイン好きで、相当数を飲んできたという。腕利きシェフとタッグを組みながら、店づくりでは自身のセンスを存分に発揮。取材時、「飲食の常識はわからないし、そこにハマりたくもない」という言葉が印象的だった。メニューだけを一見するとトレンドを意識したネオ酒場だが、その裏には岩崎氏の「単に飲食をする場所ではなく、カルチャーを発信する店でありたい」という思いが店に強く表現されている。

・蔵前「居酒屋 旭一(キョクイチ)」
蔵前に3月オープン。2階建てビルにて、1階は門前伸之介氏の「居酒屋 旭一」、2階は川村健一氏のアパレルショップ「Keboz(ケボズ)」が営業する。2人は北海道旭川市出身の28歳同級生コンビ。門前氏はもともとアパレル業界で働いていたが、父親が地元で営んでいた居酒屋「旭一」を引き継ぐことに。その後、広告業界で働きながらオリジナルのアパレルブランド「Keboz」を立ち上げ、東京での実店舗を検討していた川村氏とコラボし、旭川から東京に移転したというかたちだ。それぞれが独立して経営はするものの、共同して店づくりを行っており、居酒屋を運営する門前氏にとって飲食の当たり前が、アパレルブランドを展開する川村氏の視点が加わることで新しい価値観が生まれているという。居酒屋×アパレルは、双方の業界にとって新しい取り組みとして注目したい。「自分達が街にカルチャーを創っていきたい」と、トレンド発信地の渋谷や原宿ではなく、ベンチャーの気風あふれる蔵前を選んだのも彼らの心意気の表れだ。


(「居酒屋旭一」の2階で営業するアパレルショップ「Keboz」)

見掛け倒しのオシャレじゃない、「カルチャー発信」が店づくりのカギ

オシャレな店を作ろうと思えば簡単だ。他店を見てトレンドを取り入れるなり、著名デザイナーを起用するなり、上辺だけの店はいくらでも作れる。しかし見掛け倒しはすぐに見抜かれる。今回紹介したような、多くの人に支持される店となる違いは何か?それはオシャレなデザインの中にも、オーナーが店を通じて伝えたいカルチャーが体現されていることだ。デザイン、料理、サービス、すべてひっくるめてのカルチャー。オーナーが店を通じて表現したい世界観があるかどうか。その有無をお客は鋭く読み取ってくれるはずだ。

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