外食業界の人気ナンバーワンの経営者といえば、ゼットンの稲本健一さんだろう。彼は時代の空気や人々の心の変化を読む力に長けている。その感性を「Aloha Table」などの店作りに活かしている。彼は2010年の暮れに2011年の予測を問われ、「すべてがリセットされる年」と語っていた。あくまで業界のことであり、まさか未曾有の大震災が東日本を襲うとは思いもしなかったが、2011年はまさに「リセット」の年だった。3.11を機に飲食店の利用動機や価値観が大きく変わった。稲本さんは、「もう3.11前の時代には戻れない。あまりに変化が激しく次の時代への対応ができないまま終わった一年だった」とも言っている。では、彼は2012年をどんな年と読んでいるのだろうか?稲本さんはズバリ、「新しい価値が生まれる年」と予測した。「次の世代は、何かを生み出すことを求められている」。まさに、2011年はこれまでになかった新しい価値あるものを創る時代。これまでと違う業態やコンセプトの飲食店やビジネスモデルが飛び出してくる、そんな予感がする。飲食業界はどこかが流行ればそれを“ベンチマーク”と称して真似る。その結果、同じようなコンセプトや業態の店があちこちに生まれ、そのジャンルでの激しい競争が起こるという「同質化競争」を繰り返してきた。最近でいえば「低価格均一居酒屋」や「がぶ飲みワイン酒場」など。それらは一時的にマーケットを活性化するものの、市場に「新しい価値」を生み出したことにはならない。3.11以降、最も変わったのは「その店の存在理由を深く知りたい」「その店が提供する価値を共有したい」という人々の心の欲求だ。オーナーやシェフの店作りに賭けた夢や思いに共感し、料理やサービスに納得して初めてその店のファンになる。このことを飲食店側に置き換えて言えば、やはり「なんのために店をやるのか?」というミッションありきである。「自分しかできない何か」を見つけ、「それをやるために飲食店という舞台をつくる」という発想が大事なのではないか。こう考えれば、ひと真似なんかナンセンス。すでにあるものを組み合わせるのではなく、まだこの業界にないものを生み出そうではないか。「同質化競争」の罠からそろそろ抜け出そう!まず、新しいものを生み出す。それが価値あるものかどうか、評価は後からついてくる。売上げや店舗数は、その評価の大きさによって決まる。最初から売上げや店舗数などの数字を追いかけてはならない。ソーシャルネットワーク化が進めば進むほど、岡田斗司夫氏が言うように、どんな業界も壮絶な「評価経済」の渦に巻き込まれる。カネがモノを言う資本主義」社会から、「評価」によって価値が決まる時代に入ったのだ。「食べログ」に代表されるような「相互レビュー社会」であり、実名主義のFaceBook利用が日常化してくれば「ごまかしの効かない社会」になる。自分がイイいいと言っても、「あの店はダメだ」と低い評価が定着すれば市場から見放される。メディアなどの評価も「どの媒体が、誰が?」という発信者の信用が最も要素となる。広告とわかる評価は意味がないどころか弊害にさえなりかねない。つまりは、これから生き残るためには、コツコツと実績を積み重ね、中身(コンテンツ)への真の評価を「再生産」していくしかないのである。2012年は同質化競争から抜け出し、これまでにない価値を生み出した者こそが真の勝者への切符を手にすることができるだろう。
コラム
2011.12.29
「同質化競争」から抜け出せ!
激動の2011年が終わる。3.11大震災、放射能風評被害、生肉食中毒など飲食業界は大きく揺れた。浮ついたグルメブームは終焉し、人々が飲食店に求めるものも、3.11を機に大きく変わった。2012年はいったいどんな年になるのだろうか?
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。