あくまで業界の話題である。「急成長新興チェーン」「有名プロデューサー」「若手有望株」など、これらの企業、経営者に冠される言葉は華々しい。低迷する外食マーケットのなかで、その快進撃は注目の的だ。昨年はダイヤモンドダイニングの「100店舗達成」が大きな話題になったが、今年は彼らが話題をさらっていると言っても過言ではない。私は、昨年から「この業界の勝ち組は“マネーゲーム派”と“価値組”に分かれてきた。マーケットが価値志向になるなかで、これからは“価値組”に頑張ってほしい」と言い続けてきた。前者の“マネーゲーム派”とは、エムグラントの井戸実氏であり、サブライムの花光雅丸氏。後者の“価値組”とは、エーピーの米山久氏であり、浜倉商店研究所の浜倉好宣氏である。ご本人たちからしたら、「あまりに乱暴な区分けだ」と思われるかもしれないが、彼ら四名は、創業期から近くで見てきた。だから、あえて評論させてもらう。まずは“マネーゲーム派”の井戸氏と花光氏である。ロードサイドのファミレスなどを居抜きで改装し、ステーキとハンバーグ、サラダーバー、カレー食べ放題という業態「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」を展開するエムグラントは、先日の「日経MJ」で、2010年度店舗売上高伸び率232%、店舗売上高(直営・FC合計)159億円(うち直営が76店舗64億円、FCが155店舗95億円)の驚異的な成長と報道された。一方、30歳を迎える前の花光氏は、直営店・プロデュース店、M&Aしたアイスクリームチェーン(53店舗)を含め100店舗を達成した「業界最年少の急成長チェーン」として注目されている。この二人は師弟関係にあり、ビジネスモデルの共通点も多い。私が彼らを“マネーゲーム派”と名付けるのは、飲食ビジネス本来の「美味しさ」「顧客満足」よりも、店舗数の増大、FC店舗や経営委託(運営委託)店舗の拡大に力点を置いた不動産・金融型のビジネスモデルを追求しているからだ。それから、ディスクローズが不十分で、既存店の収益推移が不透明だし、FC店や運営委託店の店舗売上げを公表するのみで、本部の真の実力がよくわからないのだ。もちろん、非上場の私企業だから完璧なディスクローズの義務はない。売上げや利益を追求して、マネーゲームに走るのは悪ではない。彼らの掲げる「低投資早期回収型」のビジネスモデルも、それを求めるFC店や経営委託店舗がいるかぎり、その存在を否定することはできない。私が言いたいのは、FC店や経営委託店舗に足も運ばないで、その売上げを本部の実力と見せかける欺瞞的なスタンスを問いたいということだ。彼らがさらなる飛躍を目指すならば、ディスクローズを顕示化し、身の丈にあった言動に立ち帰ったらどうだろうか。一方、“価値組”の米山氏、浜倉氏はいまさら言うまでもなく、「食の本来のあり方を追求する」「街や商店街における飲食の存在意義を復活させる」など、飲食の原点に遡って、その現代・未来的な意味を問い直す。その中から、いま求められるコンテンツを次から次へと産み出している。日本マクドナルドの創業者・故藤田田氏がいみじくも語ったように、外食ビジネスは「勝てば官軍」だ。そのありようも、多様だからこそ面白い。どちらも正しいが、私は“価値組”たちを発掘し、取材し続けていきたいと思う。近く“ポスト・サードG”として「ネクストQ」という業界交流会を立ち上げるが、その組織では“価値組”経営者を集めたい。
コラム
2011.07.14
「マネーゲーム」もいいじゃないか!
閉塞する外食業界にあって、いま勢いがあるところといえば、「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」のエムグラントフードサービス、「塚田農場」「紀ノ重」のエーピーカンパニー、「恵比寿横丁」などのネオ横丁を手がける浜倉グループ、そして「20代で100店舗を達成した」とされるサブライムあたりだろう。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。