日本酒専門店業態といえば、日本酒マニアが通うちょっと敷居が高く、ある程度の知識がないと馴染めないというイメージが強い。しかし、昨年あたりから、“気軽に、ちょっとオシャレに、カジュアルに”という、日本酒初心者でも安心して楽しめ、しかも日本酒の知識も身につくというスタイルの店が増えはじめた。いささか乱暴だが、私はこうしたスタイルの業態を広義に解釈して「日本酒バル」と呼んでいる。言い方を変えれば、「新・日本酒専門店」であり、「新・地酒専門店」である。店主のこだわりで選ぶ日本酒は厳選されたクオリティの高い銘柄、提供は初心者でも分かりやすい方法、そして価格もリーズナブル。料理も日本酒との相性を考えた定番から斬新なものまで幅広い。まさに、ここ数年、大きなトレンドとなったワインバルやクラフトビアバルと共通する要素が少なくないのだ。ジャンルは変われど、時代のニーズを捉えた業態スタイルのエッセンスは同じだ。まず、注目の1店目は、昨年11月28日に池袋にオープンした「KRAFTWARK WORK DINNING 万事快調」。店のショルダーキャッチは、「KRAFT SAKE KRAFT BEER」。クラフトサケ(日本酒)とクラフトビールにこだわる“職人ダイニング”というコンセプト。オーナーの岩崎カズヒロさんは、同店の近くにある「坐唯杏」出身。「坐唯杏」といえば、日本酒マニアには広く知られている有名店だ。クラフトビールは10タップ10種類、日本酒はオーナーが好きだという“無濾過生原酒”だけを18種類提供。純米酒がほとんど。無くなれば、新しい銘柄を入れる。料理はクラフトビールにも日本酒のも合う燻製料理を中心に、一品料理、鍋料理まで幅広い。この店では自然にビールと日本酒がマッチし、まさに新世代の酒場スタイルをリードしている。「ここはバルですよね?」と聞くと、岩崎さんは「いや、ただの飲み屋です」と答えた。2店目は、大井町に1月8日にオープンしたばかりの「地酒屋 のぼる~幟~」。この店の新しさは、蔵元とのコラボレーションによる“地産都消”スタイルと酒の均一価格での提供法。酒はグラス390円(90ml)、一合徳利580円(180ml)、大徳利980円(300ml)で出す。それぞれ酒器も違い、徳利にはお猪口ではなくレトロチックな盃を合わせる。蔵元とのコラボというのは、同店の“定番”地酒の一つである愛媛県「賀儀屋」の成龍酒造とコラボし、愛媛県の鮮魚や野菜や地元の塩などを売りとして打ち出している。「愛媛の地酒には愛媛の食材で」といった“地産地消”の提案。地方の蔵元が地元のハブ役となり、生産者たちと都市部の飲食店がつながる。「お酒も食材も一緒に盛り上げる」というミッションが明確だ。ここに、ビジネスを超える“絆”が生まれる。これからの日本酒業態はこうした地域活性化のミッションをもつことが重要だろう。オーナーの山田洋平さんは弱冠27歳。大森の日本酒の名店「吟吟」で5年修業して独立した。やはり飲食業出身の父親と二人で店に立つ。名刺には「次男坊」とあった。しかし、彼こそ日本酒新時代を背負って立つ“長男坊”の一人に違いないと私は思った。
コラム
2013.01.17
「日本酒新時代」の幕開けを象徴する2店
2013年は、ズバリ「日本酒新時代」の幕開け。東京の飲食マーケットは、全国の地酒の造り手たちとコラボレーションした新しいスタイルの日本酒専門店業態(日本酒バル)が続々と生まれそうだ。その先鋒ともいえる2店を取り上げたい。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。