2010年4月22日。遡ること1年半前にオープンした新宿駅西口からほど近いワインバル「VANCALE(ヴァンカーレ)」。1階の12席とスタンディングのカウンター、2階はわずか5席のこぢんまりとした空間だが、曜日を問わず、店は常に人であふれている。これまで頑なに取材を断り続けてきた同店だが、ようやくインタビューに応じてくれたのは、この店を仕切るソムリエの大久保博臣さん、29歳。高校時代に知人のフレンチレストランでアルバイトしたことがきっかけでソムリエという職業に興味を抱き、その後、当時住んでいた出身地でもある福岡の学校でサービスとワインを学び、老舗のフレンチレストランへ入社した。しかし、1年を過ぎたころ、同店のシェフがかけてくれた「君にはセンスがある。福岡にいるより、都心に行って自分を磨きなさい」という言葉に背中を押され、東京へ出てきた。 その後、都内でも数店で修業を重ねたが、縁あって現オーナーと知り合い、このVANCALEを立ち上げから全て任された。立地以外、業態、コンセプトから内装のデザイン、人材選びに至るまで、全て大久保さんの判断で店づくりをしてきた。ワインをベースに置きながらも、流行に流されず、毎日来ても飽きのこない心地良さのある店。加えて、バールでありながら食事にも手を抜かないようにと、以前一緒に働いた経験のある料理人に声をかけ、ヴァンカーレのシェフに誘った。思い描いた店舗イメージを具現化するため、オープンにあたっては、シェフと2人、西新宿界隈の飲食店を60軒以上リサーチしてまわった。「それでも、グランドオープンから2~3か月は苦戦しました」と大久保さん。しかし、広告や宣伝に頼ることなく、ただひたすら自分の店を信じて営業を続けてきた。「去年、地道にやってきたことが、今年結果として表れて、今は安定しています」と、ここまでの道のりを語ってくれた。現在は8割が常連客、20代後半~40代後半と幅広いが、「質の高い常連様が多いんです。ワインでいうならば、“骨格のしっかりした方”と表現しましょうか」と、ソムリエらしいコメントも聞かせてくれた。 ワインはグラスで赤・白ともに300円、400円、500円、700円、1000円の5種ずつを、週単位や月単位で都度入れ替えている。南仏のハウススパークリングはグラスで600円。ロゼは入荷したときのみグラス売りをしている。ボトルは3000円から1000円毎に用意し、7500円以上は要望に応じて提案するという。2か月に1度のペースで大久保さんがセレクトしたものを入れ替えている。 料理は、ワインに合わせて簡単につまめる「自家製ピクルス」(350円)や「サーモン、リコッタチーズのマリネ」(580円)などの前菜系、グランドメニューに加え、黒板に書かれた日替わりメニューが多数揃うので、週に3~4回通う常連客にも嬉しい。そのほか、シェフが得意とする手打ちパスタもこの店の人気メニューだ。料理は年に1~2回メニューを改定するようだが、常にシェフの料理ありきで、それに合わせて大久保さんがワインのラインナップを考え、バランスをとっている。 V字型のスタンディングカウンターはガラス戸で覆われ、いつも常連客で埋めつくされている様が外からでも窺える。笑顔でグラスを傾ける客の表情が、この店の一番の宣伝効果ともいえる。男女問わず一人客も多いのだが、密着度の高いカウンターでは、いつしか隣の人とのおしゃべりも弾み、客同士が仲良くなることがほとんどだという。大久保さんはあくまで控えめ。絶妙な間合いでオーダーをとったり、ほんの少し、会話に参加する程度なのだが、その“さりげなさ”の塩梅が、訪れる人にはとても心地良く、そのスタイルはいつも変わらない。まさに“骨格のしっかりした”店づくりが、永く愛される秘訣なのだろう。
店舗データ
店名 | Italian Bar Vancale(ヴァンカーレ) |
---|---|
住所 | 東京都新宿区西新宿1-3-12 |
アクセス | JR・地下鉄 新宿駅より徒歩2分 |
電話 | 03-5909-5696 |
営業時間 | 【月~金】11:30~14:00、18:00~24:00、 【土】 18:00~23:00 |
定休日 | 日・祝 |
坪数客数 | 14坪・17席+スタンディング |
客単価 | 夜2000~2500円 |