≪写真右≫Fuego代表取締役:熊田勇太氏
1994年生まれ。調理師専門学校を卒業後、ラスパイユに入社。同社の「grill&aligot zip」や「野毛ビストロZIPテラス」などでフレンチの経験を積み、統括マネージャーも経験。テレビ番組「いきなりマリッジ」に出演した際に小柳津氏と知り合い、Fuegoを設立。現在はゴーストレストラン「イテウォンボウルズ」を展開する。
≪写真左≫Fuego取締役:小柳津林太郎氏
1981年生まれ。2006年サイバーエージェントに入社し、ゲーム開発に携わる。退職後は実業家として様々な事業を手掛ける傍ら、テレビ番組「バチェラージャパンシーズン2」にも出演。2019年、GHOSTを創業し、その子会社であるFuegoの取締役に就任、「イテウォンボウルズ」をプロデュースする。
小柳津氏:私が代表を務めるGHOSTの連結子会社Fuegoが運営する「ヘルシービビンバの業態です。昨今の健康志向を意識して「ビビンバを再定義する」をミッションに開発した、オリジナルのビビンバを5種類用意しています。グリルプロテイン、野菜、アジア風のソースなどを使って、ほどよい満足感がありながらも低カロリーで栄養価の高い商品に仕上げています。現在は中目黒駅の高架下の飲食店で昼の時間帯に間借りで営業しており、イートインも可能ですが、オーダーの大半はフードデリバリーです。評判は上々でUberEatsのレビュー評価は4.7、利用者から高評価の店舗につく「Eats厳選」バッチも獲得。Woltでもレビュー評価9.4をいただいています。
(写真左から、サーモンとマグロがメインの「中目黒スペシャル」と、牛バラにプルコギソースで韓国風にした「イテウォンオリジナル」)
熊田氏:僕はもともと料理人で、調理師学校を卒業した後、フレンチビストロで経験を積んでいました。小柳津と知り合ったのは、僕がテレビ番組に出演した際、彼が番組のMCをしていたことがきっかけ。意気投合し、たびたび食事をするようになりました。去年の10月頃、一緒に飲食店をやることになりました。
熊田氏:僕はもともと「アルゼンチン牛」に目を付けていました。牧草を食べて育つ赤身主体のアルゼンチン牛は、和牛にも負けない魅力がある。この素晴らしさを広めようと、日本で初めてアルゼンチン牛の取り扱いができる契約を結び、それを軸に飲食業を展開しようと考えていました。小柳津も赤身肉とワインが好きだったこともあって賛同してくれました。
去年から今年のあたまにかけて、大使館経由でアルゼンチンへ視察に行ったり、クラウドファンディングの用意もしたりしていました。ところが3月頃、いよいよ物件契約をしようとしたところコロナの影響で世の中の状況が一変。これはまずい、と寸前のところで物件の契約は見送ることになってしまったんです。
計画は白紙になり、それに代わるプロジェクト案をいくつか考えるも実現可能性を考えるとなかなか実行できずにいました。何かしなくては、という思いの中、物件と縁があり間借りのゴーストレストランを始めました。
熊田氏:いえ、実は「イテウォンボウルズ」を始めたのはもっと後で、最初は5月頃に「赤身肉専門店くま田」というローストビーフ丼業態から始めました。僕が肉料理を得意としていたことと、デリバリーでは丼ものが売れるという話を聞いたからです。ところが売上は振るわず悪戦苦闘。そこで、8月、次に挑戦したのがヘルシービビンバの「イテウォンボウルズ」でした。
熊田氏:ローストビーフ丼は突貫で始めたこともあり、マーケティングが十分でなかった。そこで、「イテウォンボウルズ」は、ローストビーフ丼で得た知見を活かして開発しました。例えば、ローストビーフ丼はごはんを白米か玄米で選べるようにしたのですが、僕らの予想だと丼ものでは白米を好む人が多いと思いきや、実際には玄米を選択する人が8割を占めていました。こうしたことから、デリバリーのユーザーは「食べ応え」や「満足感」よりも「健康志向」を重視する傾向が見えてきた。通常の飲食店のセオリーとデリバリーで求められるのは別物なんです。
また、「赤身肉専門店くま田」は、ローストビーフ丼1品のみ。新規客は一定数いるものの、その後のリピートにつながりにくかったという課題がありました。そこで「イテウォンボウルズ」では5種類のバリエーションを揃え、トッピングも各種用意して毎日でも飽きない仕様に。こうしたことは小柳津の徹底的なユーザー目線によるものですね。
小柳津氏:現在、僕はさまざまなビジネスを展開していますが、BtoCのビジネスにおいては徹底的なユーザー目線が大切だと思っていて。ローストビーフ丼の経験から、デリバリーには「健康志向」のニーズが高いとわかり、「イテウォンボウルズ」のターゲットは、美容や健康に関心のある人達に設定しました。自分自身、人前に出る仕事も多いので美容や健康は気になるし、デリバリーもよく使います。自分もまさにターゲット層にいる。自分のユーザーとしての体験をもとに、良かった点、悪かった点をどんどん商品に反映していきました。
僕としては、糖質は気になりますが、かといって流行りのサラダボウルはたくさんの生野菜を一皿食べきるのはちょっときつくて、毎日は食べられないと思っていました。「イテウォンボウルズ」は、アメリカで見たビビンバボウルをヒントに開発。野菜はナムルとして加工されれば食べやすくなりますし、場合によっては少しだけごはんを加えて満足感をプラスすることもできるので、毎日でも飽きずに食べられると生まれた商品です。
こうした視点は、前職のサイバーエージェントでゲームの開発に携わっていた経験で培ってきたもの。ゲームの開発も同じくユーザー目線を大切にしていました。通常のイートインの飲食店では、その場で「美味しい」と思える料理を提供すればよいのですが、フードデリバリーでは、料理の美味しさはもちろん、ユーザーの生活背景まで想像して商品を設計することがキモになります。「イテウォンボウルズ」のような商品のユーザーは、美容や健康に関心がある人達。料理の美味しさよりは、料理によって得られる「栄養」にお金を払っているのだと考えています。ユーザーはどんな生活をしていて、どんな趣味嗜好があるのか。そうした点からユーザーの求めるものを探っていくことが、フードデリバリーの商品開発で重要なのではないでしょうか。
熊田氏:年明けには西麻布に新店舗をオープンします。昼はここと同じ「イテウォンボウルズ」のビビンバボウルを、夜はその世界観を生かしつつ異なるメニューを提供します。サラダボウルは冬にどうしても出数が落ちるので、それを補うクッパなどの新ブランドも順次投入しています。
小柳津氏:いずれにせよ、商品は「今までありそうでなかったもの」をテーマに考えていきたい。奇をてらいすぎず「ちょっとしたズレ」を大切に、既成概念を崩すような商品を目指しています。また、今回、ゴーストレストランをやってみて感じたのは、デリバリーは原価や人件費はもちろん配送費などコストがかさんでくるため、デリバリー1本で利益を出すのが難しいということ。飲食業はやはり接客を軸に考えるべきだと感じました。接客によって生まれる価値で利益を作り出すのがビジネスとして最も効率が良い。今後は、商品だけでなく、接客を軸にしたコンセプトや仕組みまでを整えてブランドのFC展開を考えています。飲食業、接客に対して、異業種出身の僕らならではの新しい視点、新しい世界観を提示していきたいですね。
熊田氏:僕はこれまで料理人として経験を積んできましたが、小柳津のような視点は異業種だからこそものだと感じています。今は、ひたすら料理だけに没頭していれば成功するという時代でもない。これまで僕が培ってきた料理の技術にITの力を掛け合わせ、業界に革新を起こしていくことが目標です。