岡林義明氏
1992年生まれ。大学卒業後、すしアカデミーで寿司を学ぶ。2019年3月、起業家で兄の輝明氏とともに「SUSHI+」を立ち上げる。
SUSHI+
高級寿司の出張サービス。ホームパーティやオフィスイベント等に職人が出張し、寿司を握る。決まったメニューはなく、予算とリクエストに応じてオリジナルのメニューを提供する。
大学時代、就職活動で特にやりたいことが見つからず悶々としていた時期があり、その時たまたまTVで観たのが、すしアカデミーの特集でした。その放送内容によれば、今、海外では寿司職人が不足しており、寿司ならば海外で活躍できるチャンスがあるということ。漠然と手に職をつけたい、海外で働きたいとも考えていたので、「これだ!」と思い、卒業後は寿司職人を目指してすしアカデミーに入学しました。
そのまま寿司店に修業に入る同級生も多かったのですが、僕は「何か新しいことがやりたい」と考えていました。自分にできることを考えてみたところ、少しだけですが英語ができるので、インバウンド向けの寿司体験を始めました。海外から来た旅行者に寿司の握り方を教えて楽しんでもらうというもの。また、知人に頼まれて出張寿司も行っていました。それ以外の時間は、六本木の寿司店でアルバイトをさせてもらっていました。理解のある大将だったので、寿司体験の企画を両立させながらすし店で経験を積むことができ、とても感謝しています。
もちろんそれも考えましたが、何年も修業をしてせっかく独立しても、今度は激しい競争が待っている。今、東京は非常に多くの寿司店がひしめくレッドオーシャン。どんなに技術を磨いても、埋もれてしまう可能性も少なくない。
インバウンド向けの寿司体験や出張寿司を行う中で、寿司の価値はどこにあるのだろう?と考えたとき、僕はエンターテイメント性だと思いました。寿司は、なにも白木のカウンターの緊張感漂う空間だけで楽しむのではなく、もっと自由に、どんな場所でも楽しめるようになればいいのではないか?寿司に感動・驚き・ワクワクといったエンターテイメント性を打ち出し、より多くの人に親しんでもらえる新しいサービスを作ろうと、兄・輝明とともに立ち上げたのが「SUSHI+」です。
兄は大手メーカーやベンチャー企業で働きながら、起業のチャンスを探っていたところでした。兄が主に事業の構想やマーケティングなどの部分を担当し、自分と職人仲間数名で、主に寿司を握る実務を担当しています。
違いはスタンスです。SUSHI+は提案式であり、従来の出張寿司は受託式です。従来の出張寿司は、店で働く職人が出張先でその店の味を提供します。サービスも画一的です。「SUSHI+」では、決まったメニューはなく、その都度、お客様と一緒にコンセプトを作ることに価値を置いています。お客様の要望に応じて柔軟に提案することが僕らの強み。そのため、事前に打ち合わせをさせていただくこともしばしばあります。例えば「うにだけ食べたい」というお客様にはうに三昧のメニューを提案したり、お客様の誕生日パーティであれば、お祝いをするゲストに合わせた寿司ケーキを作ったり、オーダーメイドの寿司を提案しています。
僕らにとって寿司は手段であり、お客様に驚きや感動を与えるために何ができるかを常に考えて活動しています。
(ホームパーティやオフィスイベント、はたまた公園でのお花見にも出張する)
さらに、「呼ばれたら行く」にとどまらず、「SUSHI+」でイベントを企画することもあります。先日はホストクラブ「愛本店」を貸し切り、DJを入れて、音楽とともにすしを楽しむイベントや、日本酒ベンチャー「WAKAZE」と日本酒とすしのイベントなどを開催し、いずれも大盛況となりました。こうしたイベントも「新しい寿司の楽しみ方」を提案したいと思い、定期的に開催しています。
SUSHI+らしいアプローチで、世界に江戸前寿司を広めたいです。今や「SUSHI」は世界的な料理になっています。しかし主にカリフォルニアロールのような寿司であり、本格的な江戸前寿司はまだまだ広まっているとは言えません。一部の高級店が海外進出していますが、僕らは僕らにしかできない独自のアプローチで業界の発展につなげられれば嬉しいなと思います。
また、寿司職人の新しい働き方を提示していきたい気持ちも強いです。寿司は飲食業界のなかでも特に過酷な世界。若い寿司職人は減ってきているのが現状です。「SUSHI+」を通じて、新しい寿司職人としての在り方を示し、これから寿司職人を目指す若い人が増やすことができれば、と考えています。
他の寿司店とは全く異なるアプローチで海外進出したいです。従来の寿司の枠にとらわれずに新しいことを仕掛けていきたいです。例えば、世界各都市で「SUSHI FES」のようなイベントを開催したり、その様子を動画で配信するなど、やりたいことはたくさんありますね。