クリスプ代表取締役社長 、カチリ代表取締役 社長 宮野浩史氏
1981年千葉県生まれ。15歳で渡米し、18歳のときに現地で飲食業にて起業。22歳で帰国し、タリーズコーヒージャパンで緑茶カフェ業態に5年ほど携わる。その後、ブリトー&タコス専門店「フリホーレス ブリトー&タコス」を立ち上げる。現在はカスタムサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」などを展開するほか、カチリにてモバイルオーダー運用ソリューション「PLATFORM 」事業にも取り組む。
クリスプ・サラダワークス
野菜やナッツなど好みの具材をカスタマイズして作る「カスタムサラダ」専門店。宮野氏が代表を務めるクリスプ(東京都港区)が運営。2014年麻布十番に1号店を出店し、11月13日時点で都内に13店舗 を展開する。「熱狂的なファンをつくる」をミッションに、キャッシュレスや事前注文が可能なモバイルオーダーなど、テクノロジーを積極的に取り入れ、顧客体験とスタッフの働き方の向上を目指した店舗運営を行っている。
18歳でアメリカにて起業。天津甘栗の露店商からスタート
15歳のときに高校を中退し、アメリカ・カルフォルニアに留学。18歳のときに天津甘栗の露店商を始めました。日系スーパーの前で中国から仕入れた甘栗を販売するというもので、これが現地に住む日本人に好評ですごく売れました。おおよそアルバイトスタッフ1名で切り盛りするのに対して多い時で1日に40万円を売り上げることもあった。加えてクレープや焼き芋、抹茶アイスなどの販売も開始し、徐々に会社の規模を拡大しました。
ところが2001年の911テロ事件をきっかけに、アメリカにおける外国人の滞在の規制が厳しくなり帰国することに。日本ではタリーズコーヒージャパンに入社し、緑茶カフェ「クーツ・グリーンティー」の事業に5年ほど携わりました。やがて再び自分で事業を起こすことを決意し、当時、恐らく日本初だったブリトーとタコスの専門店「フリホーレス ブリトー&タコス」を麻布十番に開業しました。
日本で馴染みのないブリトー&タコス専門店がヒットした理由とは?
これはアメリカの天津甘栗の露店商が原体験となっています。日本で天津甘栗はさほど珍しいものではありませんでしたが、アメリカではなかなか見かけない。現地に住む日本人が「懐かしい!」と喜んでくれたのです。
一方で、帰国後に携わったタリーズコーヒージャパンの緑茶カフェ「クーツ・グリーンティー」事業ではブランドの認知や定着に非常に苦労しました。カフェというとコーヒーや紅茶のイメージが根強く、緑茶という発想がない。お客様に「コーヒーはないの?」と言われることもしばしば。「緑茶カフェ」という新しいコンセプトを浸透させるのは簡単なことではありませんでした。
このことから、自分は「興味のない人に新しいものを広める」ではなく、「元から好きな人により好きになってもらう」ことが向いているのでは?と考え始めたのです。アメリカにいた際、ブリトーやタコスはポピュラーな食べ物でしたが、日本では見かけない。絶対に隠れたニーズはあるはず、と日本に住むアメリカ人に向けて、現地に忠実なブリトーとタコスを販売すれば喜んでもらえるのではないかと考えました。
これが狙い通り、多くの在日アメリカ人のお客様が来店してくれました。あるアメリカ人のお客様からは「この店ができて嬉しい。値段が倍になっても買いに来るよ、ありがとう!」と、握手を求められたほど。聞けば、日本人の奥様と結婚して、アメリカに帰れるのは2年に1回。大好きなブリトーを食べられるのもその時だけだったそうです。改めて「このお店を出してよかった!」と思いました。
「フリホーレス ブリトー&タコス」は順調に成長し、5年後に4店舗を展開。2014年に事業を売却し、かねてから挑戦したいと考えていたサラダ専門店の開業に乗り出しました。「フリホーレス ブリトー&タコス」と同様、アメリカで人気だったカスタムサラダを提供し、日本にいるアメリカの方々を中心に喜んでもらおうと思いました。当初は周囲から「サラダだけで商売になるのか」「スープやパンも用意した方がいい」と心配されましたが、ブリトーの経験から不安はなかった。こうして麻布十番に「クリスプ・サラダワークス」の1号店を開業。人通りの少ない住宅街立地でしたが、実際にオープンすると予想の5倍を売り上げ、自分自身でも驚きました。メディアにも取り上げられ、やがて店には行列ができるほどになりました。
「クリスプ・サラダワークス」の大ヒットと同時に浮かび上がった課題
確かに業績は好調だったものの、やがて次なる課題が出てきました。店は忙しく、次第に現場は疲弊していきました。行列を作って待っているお客様を前にしたら「まわす」ことばかりに気が取られる。飲食の醍醐味は、接客で人とのコミュニケーションをとることだと思っていますが、それどころではありませんでした。
この状況を打破したいと目を付けたのがモバイルオーダーです。当時2014年はアメリカでスターバックスコーヒーがモバイルオーダーを導入し話題になっていました。すでに日本でもいくつかモバイルオーダーの取り組みを始めている企業はあったので話を聞いてみましたが、僕らとの考えが合致しなかった。多くの企業が「業務効率化」や「利益アップ」を謳っていましたが、僕らがモバイルオーダーという手段を取ろうと考えたのは、利益の追求ではなく、あくまでお客様に喜んでもらうことが目的。それなら自社でアプリを開発しようと立ち上げたのがカチリです。
もちろん、モバイルオーダーによる業務効率化も一つの目的ですが、その先に僕らが見据えているのは、「日本における飲食業の地位向上」です。
日本ではまだまだ飲食業の地位が高いとは言えない。「ブラック」というイメージも根強く、今、業界全体で人材難に喘いでいる。一方、中国やアメリカでは、すごい勢いで伸びている飲食企業がいくつも出現しています。日本でいうところの気鋭のIT企業のごとく優秀な人材が黙っていても集まってくる。そういった企業に共通するのが、テクノロジーをうまく使って企業価値を上げていることなんです。それらに倣い、テクノロジーの力で日本でも飲食業を格好いいものにしたいと考えました。
そのための第一歩として、まずは自社の「クリスプ・サラダワークス」で専用の事前注文アプリ「CRISP APP」を導入。お客様がスマホで事前に注文・決済ことで、店舗で待たずに商品を受け取れる仕組みを作りました。また、2018年にはセルフレジを自社開発し、完全キャッシュレスをオープンしました。
そして第二段階として、自社のみならず多くの企業にこのシステムを普及させるため、モバイルオーダー運用ソリューション「PLATFORM (プラットフォーム)」の企画・開発を始めました。
自社でモバイルオーダーシステムを持つことで、顧客との接点を持ち続ける
スターバックスコーヒーのような大手企業でなくても自社オリジナルのモバイルオーダーシステムを持てるということです。それぞれの店舗やブランドごとにカスタマイズしたモバイルオーダーシステムを低投資かつスピーディに作ることが可能なシステムとしてリリースしました。
現在、周知の通りUber Eatsをはじめとするフードデリバリーサービスが隆盛を極めています。「クリスプ・サラダワークス」でもデリバリーサービスによる販売を行っていますが、飲食店にとっても今までにない形で売上を得ることのできるとても優れたサービスである反面、外部サービスによる売上だけに依存するのは得策ではないと考えています。
フードデリバリーサービスは便利な反面、お客様のことがわからない。どんな人がどんなシーンで注文しているのかが見えず、リピーターになってもらうためのアプローチができない。フードデリバリーサービス を使うお客様は、あくまでそのフードデリバリーサービス のお客様であり、「クリスプ・サラダワークス」のお客様ではないんです。例えば「クリスプ・サラダワークス」を注文しようとフードデリバリーサービスのアプリを開いても、違うお店の商品が目に留まり、そちらを注文する可能性だってある。それに、万が一そのフードデリバリーサービス が衰退すれば、当然「クリスプ・サラダワークス」の売り上げも一緒に落ちるリスクもある。
自社アプリであれば、誰がいつ何を注文したのかのデータを蓄積し、マーケティングに生かせる。店舗に来店しなくても、“過去に一度でも注文してくれたお客様は自社のお客様”という状況を作り出すことができます。フードデリバリーサービスの動向に左右されず、かつ自社の顧客をしっかりとつかむ仕組みを作ることが可能です。
そして先ほども話したように、自社アプリを導入し、業務効率化をすることがゴールではありません。テクノロジーを活用して浮いた時間を使い、蓄積されたデータをもとにお客様一人ひとりに適切なアプローチをする。こうしてよりよい店づくりを実現していってほしいと思っています。
テクノロジーを駆使し、お客一人ひとりに合わせた“体験”を提供
2019年5月 にリリースし、すでにいくつかの企業と契約しており、すでに自社のモバイルオーダーサービスを開始しているところもあります。年内に20社弱とサービスをリリースする予定です。契約数を増やすことが目的ではなくお客様に使ってもらい店舗とのつながりを作ってもらうのが目的なので、1社1社と深い付き合いでサービスの向上に努めていきたいと考えています。
今の時代、店舗を増やしたり上場を目指したりすることに以前ほどの意味を見出せなくなっていると感じています。飲食店経営者で不安を持つ人も多いのではないでしょうか。もはや、料理がおいしいことや内装デザインが恰好いいことは当たり前となり、これからの飲食では“体験”が重視されるのではないかと考えています。そのためにテクノロジーを使い、浮いた時間でお客様一人ひとりに合わせた“体験”を提供できればと思う。僕らはそのための仕組み作りを行い、飲食企業を支えていきたい。それが日本における飲食業の地位向上につながれば嬉しいです。これからも僕らなりにできることに挑戦していきたいと思います。