「あの店に行くと誰かいる」なお店が人気
まずは「一人飲み酒場」の繁盛事例を挙げたい。
2022年、学芸大学にオープンした「鉄砲玉」は、3坪ない立ち飲みだ。一人飲み客を中心に集客し、オープンから売上は右肩上がりで現在の坪月商140万円にも上るという。
さらに、2022年、中目黒にオープンした「風見堂」にも注目だ。同店では「ひとり呑みしやすい店」を謳い、一人客も気軽に入れる雰囲気づくりを行っている。それが功を奏して毎晩多くの人で賑わう人気店となった。
こうした「一人飲み酒場」は、「あの店に行くと誰かいる」という状況を作り出しているのがポイントだ。「一人飲み酒場」には、同じような近所に住む飲み好きの人間が集まり、その場で居合わせた人で盛り上がることも少なくない。そうしたコミュニティとしての役割が、多くの人を引き寄せている。「鉄砲玉」の店主、正木氏も同店について「『あの店に行くと誰かいる』と思われていることが好調の理由だと思っています」と話してくれた。
SNSを見ればいま誰がどこにいるかわかる
そして、一方で「誰かとわざわざ日程調整をして飲みに行く」というシーンは減っていっているように思う。これも「一人飲み酒場」が盛況な理由に根を張っている。
近年ではSNSをはじめとするネット上のコミュニケーションが盛んだ。SNSを見れば友達が「どこで何をしているのか」をリアルタイムで知ることができる。X(旧Twitter)やInstagramのストーリー機能を使って、いま飲んでいる店の様子をアップしたり、または友人がアップしているのを見たことがある人は多いだろう。さらに、自分が今どこにいるかの現在地を友人とリアルタイムで共有するアプリや、ランダムに指定された時間に自分の今の状況を写真に撮って共有するというアプリも登場している。SNS世代は、ますます自分の「いま」を友人と共有することが当たり前になってきている。「いま○○で飲んでます」と発信した友人に対して「今から行っていい?」と返信して合流する。こうしたシーンも増えている。
あらかじめ日程調整をして相手の予定をキープしておかなくとも、このようにSNSを開けば「いま誰がどこで何をしているか」が把握できてしまう。そんな状況の中だと、「最初に飲みに行く相手を決め、その相手と日程調整をする」のはかなり煩雑な作業に思えてくる。日程調整は地味に面倒くさいし、苦手な人も多い。そのやり方はいつか時代遅れのやり方となり、代わりに「飲みに行きたい」と思い立った時、その時に飲める人を探して飲みに行く、というやり方が時代に合ってくるのではないだろうか。
「一人飲み酒場」に話を戻すと、「あそこに行けば誰かいる」という場所はとても魅力的な場所だ。面倒な日程調整をスキップして誰かと楽しい時間を過ごせる。自分の好きな時間にふらりと立ち寄って、その場にいる人と楽しく飲むのはストレスがない。こうした行動の変化が「一人飲み酒場」の盛況を下支えしているのではないだろうか。