業態開発の際、ひとつのキモとなるのがターゲット設定だ。
SNSで発信力のある20代女子か?値が張っても美味しいものは高く評価してくれる大人の層か?団体需要も狙えるサラリーマンか?気に入ったら通い続けてくれる地元の家族連れか?
実は、一番強いかもしれない客層は“同業者”ではないだろうか。特に仕事終わりに立ち寄る近隣飲食店のスタッフ達だ。
飲食店でのハードな仕事を終えたら自らも美味しい料理と酒でリラックスしたいと思うもの。しかし、店の閉店後の深夜ではなかなか空いている店もない。そんなニーズにこたえる飲食店が増えている。
得てして同業者は、単価も通常のお客よりも跳ね上がりがち。しかも利用するのは仕事帰りであるから一般客のピーク時間帯を外しており、いいことづくめなのである。
そもそもの母数が少ないためメインターゲットにすることはあまりないが、メインの影にある“サブターゲット”として、第二の収益の柱として設計する飲食店は多い。また一般のお客が飲食店から遠のいたコロナ禍では、それでも客足が鈍らない同業者の有難みを感じ、同業者を狙った店はさらに増えたように思う。
最近の事例を紹介したい。2022年11月、神楽坂にオープンした「mushin(むしん)」。オーナー北川有心氏によるワインと中華のカウンター酒場だ。都内屈指の美食タウンである神楽坂は飲食店従事者も多い。特にアッパーな価格帯のレストランも多いが、そこで働くスタッフ達が仕事を終える23時以降になると、安居酒屋やチェーン店ではない、しっかりとした料理や酒を楽しめる店は少ない。そこで同店では翌1時まで営業し、早い時間は一般のお客で賑わうが、レイトタイムは仕事終わりの同業者のオアシスとなっているようだ。
新橋の「こばる」も。同店はニュー新橋ビル地下1階にある「酒肴晴(しゅこうばる)」の姉妹店として3月にオープンしたばかり。同じく飲食店激戦区である新橋で、仕事終わりの同業者が集える深夜食堂を目指して、翌3時までの営業を行っている。本格的な和の酒肴がメニューの中心である一方、ハンバーグやエビフライ、カレーなどの食堂感のある品が並ぶのはそのためだ。
一般の人よりも飲食店に対して目の肥えた同業者をターゲットにするには相応のクオリティは不可欠だ。ただし、ひとたび同業者からの支持を得られればそこから一般層への波及も期待できる、巧い策なのかもしれない。