6月23日夕刻、渋谷・井の頭通りに大行列が出来た。“2時間待ち”というその行列の先を追うと、「鳥貴族」の黄色い看板が目に入った。通算181店舗目の「鳥貴族 渋谷井の頭通り店」のオープンである。23、24日の二日間は“全品半額セール!”。同店は自慢のじゃんぼ焼き鳥もドリンクも全品280円だから、なんと140円セールである。同社は関西から東上、関東1号店の中野店を皮切りに、これまで山手線の外側を攻めてきたが、今回の「渋谷井の頭通り店」は六本木店に続く“都心戦略店”である。大倉忠司社長もかなりの力の入れようだ。これを機に、都心部出店に拍車がかかるかもしれない。
周知の通り、大倉社長は“外食アワード2009”を授賞し、業界での知名度も上がってきた。創業25年、一貫して“280円均一”“焼き鳥専門店業態”を貫き、軸をぶらさず、ひたすら一業態多店舗化に取り組んできた。デフレ不況が逆に追い風になったものの、奢らず高ぶらず、「景気、流行に左右されない経営」を追求してきた。現在、売上高は120億円前後だろうか。一方、ダイヤモンドダイニングは、“マルチコンセプト戦略”“100店舗100業態展開”を打ち立て、この7年ほどでスピード出店を遂げてきた。2004年、私が「フジサンケイビジネスアイ」で同社を初めて取材したときは、まだ5店舗目の「竹取百物語」を開けたときだった。2007年3月に大証ヘラクレスに上場してから展開スピードはさらに上がった。現在、同社は本体で96店舗、子会社展開、M&A戦略などでグループ売上高は167億円(2010年2月期)。
表現は悪いが、「鳥貴族」が“カメ”なら、ダイヤモンドダイニングは“うさぎ”の歩みである。勝ち負けの問題ではなく、鳥貴族は一業態多店舗化、片やダイヤモンドダイニングはマルチコンセプト化で急成長を遂げ、その両社がいま外食産業の“ニューリーディングカンパニー”として注目されていることが興味深い。進み方はまったく異なるが、両社ともリーディングカンパニーを目指す。鳥貴族は「2016年までに1000店舗達成」を目標とし、ダイヤモンドダイニングは「グループ全体で1000億円企業を目指す」という。鳥貴族は直営が半数、FCジーは10法人3個人に絞り、いわば“パートナーカンパニー制”をとっている。ダイヤモンドダイニングはおそらく、ホールディング制を敷き、その傘下に現在の本体であるマルチコンセプト企業、子会社の居抜き多店舗化企業などを配置、M&A戦略を絡めながら“ポートフォリオ経営”を目指していくのだろう。鳥貴族の大倉社長、ダイヤモンドダイニングの松村厚久社長はともに謙譲の人。バランス感覚にも優れている。“良きライバル”ともいえる、この二人の外食リーダーの今後のさらなる成長が楽しみである。
コラム
2010.06.24
“好対照”の「ダイヤモンドダイニング」と「鳥貴族」
目下、急成長を遂げつつあるこの両企業の行方を追っていると、外食産業の「現在(いま)」が見えてくる。ダイヤモンドダイニングはマルチコンセプト展開、一方の鳥貴族は一業態多店舗展開。その好対照ぶりも面白い。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。