コラム

「ソウル飲食マーケット」視察レポート(1)

距離は近いが政治的には遠くなってしまったお隣の国「韓国」。その首都ソウルの飲食マーケットを視察してきた。3泊4日の駆け足だったが、東京23区よりも広いソウル特別市の主要エリアを見て回った。「明洞」「南大門」「東大門」といった観光地のイメージが強過ぎてあまり日本には伝えられない都市部のローカル飲食街はどこもパワフル。成熟したマーケットとはいえ、まだまだ日本からの進出余地は大きく残されていると感じた。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


韓国の人口は5000万人。うち1000万人がソウル特別市に住む。京畿道(ギョンギド)700万、仁川広域市300万を含む首都圏(東京都+埼玉県ほどの広さ)では2000万人を数える。実に国の人口の40%がソウル近郊に住んでいるわけだ。これだけで、ソウルの飲食マーケットは意外と大きいということがわかる。それに、若者のアルコール離れが深刻な日本と違い、若い人もお酒を楽しむ飲食文化があり、アルコール業態の展開が可能だというメリットも見逃せない。2013年の韓国統計開発院の資料によると、韓国の成人男子の87%、女子の67%が飲酒をするという。成人一人当たりの年間アルコール消費量は12.1ℓで、日本の7ℓを超えている。交通費も安い。地下鉄網が発達し、タクシー代も遠くまで乗っても2000円以上はいかない。終電がなくなってもタクシーで移動したり帰宅する人が多く、朝まで飲む若者も目立つ。24時間営業の飲食店もたくさんあるのだ。夜の繁華街は、東京の新宿や渋谷と変わらない、いやそれ以上の賑わいを見せている。

ソウル市内には、東京同様に、特徴のあるエリアがいくつかある。主なエリアをあげると、以下の10エリアになる。東京のエリアと比較してみると面白い。
1、明洞(ミョンドン)、南大門市場…観光地、市場(渋谷、新宿)
2、鐘路(チョンノ)、乙支路(ウルチロ)…古くからのオフィス街(東京、新橋、田町)
3、仁寺洞(インサドン)、三清洞(サムチョンドン)…観光地、サブカル、オシャレスポット(中目黒、代官山)
4、弘大(ホンデ)、新村(シンチョン)…学生街、居酒屋街(吉祥寺、下北沢、高田馬場)
5、梨泰院(イテウォン)…華やかな商業地(六本木、表参道)
(以上が東西を貫く漢江より北エリア)
6、江南駅(カンナム)、駅三駅(ヨクサン)…ソウル一番の商業地、高級クラブ(新宿、銀座)
7、狎鴎亭(アプクジョン)、清潭洞(チョンダムドン)…高級商業地、住宅地(麻布、広尾、代官山、白金)
8、三成洞(サムスンドン)、COEX、貿易センター、ロッテワールド…ビジネス街、ホテル街(虎ノ門、日本橋)
9、カロスキル、新砂洞(シンサドン)…カフェ、ファッション、レストラン(西麻布、麻布十番)
10、汝矣島(ヨイド)…金融街(大手町、日本橋)
(以上が漢江より南エリア)

こうした前情報を提供してくれたのは、ソウルの東大門駅近くでSOHO向けのレンタルオフィス「SBC(ソウルビジネスセンター)」を運営しながら、外国企業の韓国進出コンサルティングを行っているOIBの元栄成社長。UFJ銀行ソウル支店で在韓日系企業の法人営業を長く担当していたことから、日本語も堪能で日本の事情にも詳しい。独立後は、ミュープランニングの韓国正式パートナーとして活動。日系飲食企業向けに店舗開発、設計施工を含めた進出支援全般を行っている。「ワタミ」「プロント」などの韓国進出も支援した。今回の視察をアテンドしてくれたのも元さん。
「ソウルはこんなに元気なのに、なぜ日本の飲食企業は腰が引けてるんですかね…」
と、とにかくソウルパワーのいまを見てくれと言わんばかりに金浦空港に着くなり、街に出た。さっそく、元さんが「いま最もホットな街です」という「弘大(ホンデ)」エリアへ。美術大学があり、デザイナーやクリエーターが多いという。尖った韓国居酒屋、日本式居酒屋、カフェ、バーが密集していた。「丸亀製麺」も路面にあり、14時過ぎていたが店内はほぼ満席。徳田祥平さんの「てっぺん」1号店もこの弘大発。
「弘大には若者、酒好きの女子たちが集まります。日本式居酒屋は値段的に高いイメージですが、人気です。デートコースにもなっていて、背伸びして入る店ですね」
と元さん。
翌日の夜に、「てっぺん」を訪問。ほぼ満席が続いていた。客層は女性同士やカップルが多い。客単価は25,000~30,000ウォン(100円=1000ウォン)。「てっぺん」は開業7年目で、現在3店舗展開している。アサヒスーパードライ(生)が9,300ウォン、サントリープレミアムモルツ(瓶)13,500ウォンと強気な単価にびっくり。主な料理も一品12,000~14,000円平均。日本のビール1杯とメイン一品を頼めば客単価に届く。私が首を傾げていると、「日本食は高くて当然。ローカル客はお酒一杯と二品ぐらいでゆっくり楽しむのが普通です」と元さんは解説する。日本式居酒屋に行くのは、ちょっとオシェレしてイタリアンに行くのと同じ感覚なのだとか。ビールが高いのは仕方がない。ビール、焼酎は関税30%に加え、72%の酒税がかかり、日本の倍近い原価となるからだ(ちなみに日本酒、ワインの酒税は30%)。それに韓国は消費税が10%。飲食店のメニューはすべて税込み表記だ。

「てっぺん」に限らず、日本人経営の店であろうと現地経営者の店であろうと、「日本式居酒屋」「和食店」はソウルでは、「ミドルアッパー業態」である点にまず私は驚いた。逆に、韓国焼酎やマッコリを中心に提供する韓国居酒屋は、客単価1,500~2,000円のいわゆる大衆酒場、低価格業態だ。弘大エリアには、格子戸、暖簾や提灯のぶら下がった日本式居酒屋がいたるところにあった。そのうちほとんどは韓国人経営の店。オーナーは日本の和食店や居酒屋で修業して帰国した人が多いという。
「日本式居酒屋は人気がある」
「しかも、高単価を取れる」
「日本人経営の店はほとんどない」
こうしたことを考えれれば、このマーケットに「本物の日本人経営でクオリティの高い店を出せば成功する確率が高い。ビジネスチャンスが眠っている」というセオリーが導き出される、と私は思う。

「弘大」エリアから「鐘路」エリアへ移動。ここは、はオフィス街。オフィスビルの谷間に飲食街がある。なるほど、新橋や田町のようなロケーションだ。店も当然、サラリーマンやOLターゲットの店が多い。このエリアには、日系外食チェーンも出ている。「がってん寿司」「CoCo壱番屋」「かつや」など。「CoCo壱番屋」の単価も強気。主要メニューは8,700~10,000ウォン台。
「はい、ココイチさんはデートスポットになってますよ」
と元さん。これは、シンガポールでも香港でも上海でも同じだが、
「日本の価格を知っちゃうと行けませんね。私は行かない」と本音を漏らす。
「かつや」はかつ丼が80g5,900ウォン、120g7,500ウォンだ。日本の価格よりちょっと高いレベルに抑えている。
「かつや」のアークランドは香港、タイ、韓国に現在進出しているが、香港が合弁、タイがFC、韓国は独資で進出するという珍しいケース。初期投資はかかったが、鐘路の1号店は月商650~700万円を上げており、営業利益ベースでは黒字。
「今後、郊外にも出たい。5店舗までいけば採算ベースに乗る。人材は優秀。じっくり育ていけば面白いビジネスになる」と臼井健一郎社長はあるセミナーで語っていた。

鐘路エリアから明洞エリアへ歩く。その途中にある未来アセット証券ビルの下には飲食街が。1階にはスタイリッシュなカフェが並ぶ。「MAMAS」はソウルのOL人気一番のカフェ。リコッタチーズサラダがブレークしたとか。ソウルは健康ブームで、こうした非アルコール業態も元気がいい。ここはローカルチェーンだが、メニューは、一品の単価が8000〜9000元。OLたちの外食に使う消費パワーは相当高いといよう。ソウルには、いたるところにカフェがある。珈琲豆輸入世界第4位というだけあって、かなりの珈琲大国だ。鐘路から明洞へ歩く。明洞の中心街は中国人観光客で溢れていた。世界一の規模のユニクロがあった。観光地の明洞はサクッと見て、タクシーで江南のホテルにチェックイン、そのまま松坡区の第二ロッテワールドのあるエリアへ。現在123階のロッテワールドタワーが建設中。その下では、10月14日に名品館「AVENUEL」と「ロッテマート」「ロッテハイマート」がオープン、10月15日に映画館「ロッテシネマ」、10月16日にショッピングモール・免税店・水族館がオープンしたばかり。ショッピングモールの3階は日本式レストラン街だった。しかし、日系企業はゼロ。B1に唯一「三ツ矢堂製麺」がオープンを控えていた。ここも元さんがリーシングサポートした。「本物の日本式ラーメンがロッテグループのモールに出るのは珍しい」という。
(続く)

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