コラム

熱かった「瀬戸内ブランド」発掘クルーズ

瀬戸内海に面した7県がタッグを組んで食や観光資源の魅力と価値を発掘し、磨き上げて発信しようという「瀬戸内ブランド」推進のためのキックオフイベントとなる「瀬戸内ブランド発掘宝船"クルーズ」に参加した。そこには、飲食店にとって、業態磨きの鍵になるヒントがたくさんあった。"

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


このイベントは、兵庫、岡山、広島、山口、香川、愛媛、徳島の7県が連携して観光ブランドを盛り上げていく「瀬戸内ブランド協議会」の活動のキックオフにあたるもので、各県庁の観光振担当部署、各地域の街おこし、島おこしのNP法人や民間有識者など約70名が参加して、下関から海路で各県を周り、観光資源や食のブランドを見て、食べ、体験するという“宝探し”のクルーズだった。この瀬戸内ブランドプロデューサーを担当する西川りゅうじんさんから、香川出身の私は瀬戸内ブランドを東京、大阪はじめ都市部の飲食店や外食企業に向けて発信したり、生産者をつないだりする“エバンジェリスト(伝道者)”の拝命を受け、参加させていただいた。最初の下関では、山口の豊富な漁場から新鮮な魚介類が集まる「唐津市場」で海鮮丼「唐フル丼」を実際につくって食べる体験をし、愛媛では戦国時代にかけて瀬戸内海を支配した村上水軍が彷彿とされる歴代の武将や軍人の武具を集めた大三島の大山祇神社を観て、海賊料理を味わった。高松で開催された「瀬戸内ブランド推進フォーラム」後の晩餐では「瀬戸内食文化・研究の宴」と称して、瀬戸内7県の「麺」「寿司」「塩、醤油」といった各県の郷土料理、食材、調味料、地酒などを試食試飲し、各県ごとの味の違いや古くから伝わる伝統的な調理法に触れることができた。広島では、牡蠣だけではなく、皮まで食べられる「瀬戸内レモン」のパワーについて知り、岡山では、笠岡諸島の“島おこし”の一環として開発されている火山灰で魚を燻らせて調理する「灰干し」の取り組みを聞いた。すぐに私の頭の中には、居酒屋で灰干しを肴に瀬戸内レモンサワーを飲んでいる客の姿が浮かんだ。兵庫の姫路では、なんとこのクルーズのために組まれた限定の「瀬戸内in姫路バル」に参加、生姜醤油で食べる珍しいおでんの食べ比べを体験した。観光資源では、世界的に有名な香川の直島のベネッセハウスの現代アートの数々を見学、岡山では“東洋のエーゲ海”と謳われた「牛窓」の街を散策した。今回の旅で学んだことは、陸から見るのと海から見るのでは、景色がまったく違うということ。陸路では県境がはっきりしているが、海路からだと瀬戸内は一つ。このクルーズには各県の役人が呉越同舟だったが、県の壁をとっぱらって、お国自慢をしながらも瀬戸内全体を盛り上げていこうという機運に一人ひとりがなっていたようだ。飲食店、外食企業のテーマキーワードとして、私は「ローカルブランディング」「ジャパンクオリティ」を挙げているが、単に産直仕入れというレベルにとどまらず、これからは地域の生産者と一体となって、行政を巻き込むぐらいのパワーをもって取り組まなければ、オンリーワン業態やキラーコンテンツメニューはできない。食材が生まれた環境、その地域の歴史や文化、そして埋もれた観光資源までを含めてトータルで店づくりをしていく時代に入ったのではないか。そのローカル業態がメディアとなり、地域へ観光客を送り込むような根を張った強い店ができれば、それはブランドになる。いま、地方にはブレークスルーできるヒントがいっぱい眠っている。その宝を探すのも、飲食店経営者の大きなミッションになるのではないか。

コラム一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集