「熟成肉」の価格破壊ともいえるカジュアルなワイン酒場業態として、ちょうど1年前の10月にオープンしたのが中野「Tsui-teru!(ツイテル)」。「200g1480円!」で自家製熟成肉ステーキを提供。店の入り口に構えた幅3メートル、高さ2.3メートルの大きな熟成庫には、熟成中の牛、豚、鹿肉が塊のまま、時間経過ごとに並べられている。そのダイナミックな熟成庫を擁した「ツイテル」には、オープン以来、全国の飲食店関係者から視察来店が相次いだという。同店を経営するガオスの鈴木潤一さんは、「まだ日本で認知されていない熟成肉に興味を持ちました。熟成肉をメインに、気軽に楽しんでいただけるビストロ&ワイン酒場というコンセプトで開店しました」と振り返る。最近、「低脂肪牛」として脚光を浴びている群馬のホルスタイン肉農家「小堀正展牧場」とも提携、低価格で取引されている牛肉でも熟成させることによって「旨い肉」として提供できることも実証してみせた。1年経って、熟成肉に注目が集まるにつれて、「ツイテル」はますます“カジュアル熟成肉の先駆け”としての評価が上がってきている。その「ツイテル」からインスピレーションを受けて、独学で熟成肉の製造法を学び、自分が納得するまで研究を重ねて、10月1日熟成肉と国産食材にこだわる店を六本木と麻布十番の中間にオープンしたのが「KITCHEN TACHIKICHI(キッチン タチキチ) 旬熟成」。オーナーのフードイズムの跡部美樹雄さんは、2009年に渋谷・明治通り沿いで、13坪500万円の月商を誇る餃子バル「KITCHEN TACHIKICHI」を運営、今回の2号店は餃子とはまったく異なる熟成肉にチェレンジした。技術は熟成肉の元祖「中勢以」から学んだ。同店に何度も通い、オーナーにノウハウを教えてもらえるまでの仲に。「そこで教わったことは、何ら新しいことをしているわけではなく、昔ながらの製法で作っているということでした。物流が今よりも発達していない時代、腐っていく肉を発酵、熟成させて美味しい肉にする。先人の知恵を受け継いでいるだけだと」と跡部氏は振り返る。こうした現場で学んだことが、同店には活かされている。熟成肉は、山形牛の「ランプ」(1900円)「シンタマ」(1600円)「ウチヒラ」(1400円)「ソトヒラ」(600円)と、米沢豚の「上ロース」(1200円)「上バラ」(1200円)「肩ロース」(1000円)「ウデorモモ」(600円)を用意。炭火で炙ったあと低温調理し、最後にまた炭火で焼き上げる。まだオープンしたばかりだが、リピーター率は高いという。「来店されたすべてのお客様が一口目で反応を示してくれます。牛・豚好みは分かれますが、肉の味ってこうだったよね!とおっしゃる方が多いです。口の中で解けてなくなる肉でなく、赤身ならではの食感、味わい、香りがしっかりしているといった感想をいただいています」と跡部さんは話す。10月4日、東日本橋にオープンした「ワイン食堂ボラーチョ チャコールグリル」。大通りから大きな看板が目立つ3階建ての古民家を改装したワインバルだ。千葉・茂原で和食店やイタリアンを運営する紋七の人形町「ワイン食堂ボラーチョ」2号店だが、この店の売りもズバリ「熟成肉」。55日の超熟成牛(千葉・八千代ビーフ)は200g単位で、「ロース」が1980円、「ランプ」が1480円。林幸彦社長自らが肉担当になり、カウンターの前のチャコールグリル台で焼き上げる。まるでステーキハウスのようなライブ感がある。1階は狭いスペースだが、天井の棚に熟成庫を設けているのも臨場感をかもし出している。これからの「熟成肉」トレンドはこうしたカジュアル、店内熟成、ライブ感演出がポイントになるに違いない。※関連記事 http://food-stadium.com/blog/2011/blog1822.html
コラム
2012.10.04
カジュアルな「熟成肉」業態に注目!
じわじわとブームになりつつある「熟成肉」。「おいしいけど、高価」というイメージがあった「熟成肉」(ドライエイジング)をカジュアルに提供する店が、ワイン業態の広がりとともに増えてきた。今後、いっきにマーケットが拡大するかもしれない。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。