『日経レストラン』は 1月号の特集「2008年外食大予測」で、ズバリ2008年は「飾らないが価値になる」「キーワードはシンプル」と明快に言い切っている。偽装の氾濫、複 雑化した社会から抜け出すためには、「そんなの関係ない!」と裸で叫ぶ潔さが求められているのだろうか?「虚飾を廃す」「無駄を省く」といったシンプル志 向も、これからの“低炭素社会”にとっては必然と言っていいだろう。そんなことを考えながら、恵比寿を歩いていたら、たまたまビルの片隅に「うどん山長」の看板を見つけ、ビルの裏側にひっそりと居を構えた店に入ってみた。 内装は実にシンプルで、木組みのテーブル以外に派手な装飾類はない。窓の外には公園や渋谷川ののどかな風景。「名物山長うどん」(850円)は特製 の出汁にきんぴら、胡麻、茗荷、湯葉などをトッピングしていただく。待ち時間も苦にならない。メニュー表には「大阪日本橋の黒門市場で仲卸業を営む削節問 屋の山長商店直営の店」とある。不味いはずがない。本格的な出汁でうどんを食べる贅沢。待つこと10分。店員は「まず、きんぴらと胡麻を出汁に入れてか ら、一口召し上がりください」と勧める。空間のシンプルさの裏で、商品、器などにもの凄いこだわりがある。850円があまりに安すぎる至福の時間だった。 「2008年はこれだ!」と思わず膝を叩いた。単に素に戻ればいい、というわけでは決してない。「当たり前のことをやればいい」「きちんとしていれ ばいい」という識者もいるが、それも違うような気がする。見せ方はシンプルだが、中身は濃くないとダメだ。素材、調理は本物でないと見破られる。サービ ス、接客力のアップ? そんなことにも、もう客は飽きている。中身で驚かして欲しいと思っている。「当たり前でないこと」を「シンプルにやり遂げる」こと が、これからの差別化の方向性ではないだろうか。『MONOCLE』誌で世界のデザインシーンをリードする名物編集者タイラー・ブリュレも最近、とくに日本製品の品質と素朴でありながら伝統美を内包したデザイン性に注目しているという。彼の目利きの視点も「飾らないシンプルさ」とか。そのセンスと視点から学びたいものだ。
コラム
2008.01.10
本当の「シンプル志向」とは?
2008年がスタートした。今年はどんな年になるのか?いろいろなメディアや専門家が予測しているが、おおかたの見方は「素への回帰」「本質志向」である。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。