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コラム

脚光を浴び始めた「熟成肉」業態

風評被害や生食肉の規制などで逆風にある牛肉マーケットだが、最近、注目を集めているのがドライエイジング=乾燥熟成肉。「熟成肉」を打ち出した店がいま急増している。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


「熟成肉」は、主に牛、ラム、ジビエなどの赤身肉を美味しく食べるために、アメリカやオーストラリアでは広く知られる技術だ。ドライエイジングとは、温度、湿度、風力を管理する特殊な熟成庫で肉を4~6週間熟成することをいい、その肉が乾燥熟成肉と呼ばれる。熟成庫では、麹、酵母、カビをコントロールさせ肉を熟成し、旨味を凝縮することになる。微生物により肉のたんぱく質がアミノ酸に変わり、ジューシーで柔らかく美味しさが増すという。しかし、熟成によって肉の重量が減るうえ、調理するときに表面についたカビなどをトリミングするためにロスも多く、それがそのまま原価に反映され、料理として提供するときはどうしても割高となる。それが普及のネックになっていた。このドライエイジング、すでに数年前から注目され専門の肉屋や、焼肉店などでオンメニューされているが、今年に入り、ワインブームとも相まって専門店がたて続けにオープンしている。高いというイメージを打ち破るチャレンジャーも登場してきた。ニュージーランドの肉輸入会社がオープンさせた「WAKANUI GRIL DINNG TOKYO」。独自に熟成させたニュージーランド産の牛、ラムが味わえる。霜降り肉人気の高い日本で、熟成した牛の赤身肉、ラムの美味しさの拡大を狙っている。同じく今年、赤坂にオープンしたのが、肉のスペシャリストを謳う「Specialita di carne CHICCIANO」。イタリア人シェフの手による熟成した牛肉の炭火焼をメインに、こだわりの生ハム、フランス製のロティサリーマシーンで焼くジューシーなロティサリーと、こだわりの肉料理を提供する。独特の熟成技術を駆使し、国産ジビエと自家製シャルキュトリー(加工肉)を提供する中目黒「ラ・ブシェリー・デュ・ブッパ」は、同じ中目黒に「フレンチデリカテッセン カミヤ」を12月9日オープンした。熟成肉は「サーロイン上300g×2(カフェドパリバター付)」(6800円)、「熟成キジ鍋折詰」(500g/9000円)など。レシピも付属しているので、熟成ジビエ肉が自宅で簡単に調理できる。熟成肉の老舗といえば、東京では田園調布「中勢以」、静岡県富士宮市の「さの萬」だが、これらの肉を仕入れて店で提供するのは、相当ハードルが高い。そのハードルを越え、自家製熟成庫をつくって「価格破壊」に挑戦したのが、大阪の炭火焼肉専門店の「又三郎」や東京の西日暮里と大宮に出店した焼肉店「エイジングビーフ」。「又三郎」は黒毛和牛の熟成肉を普通の焼肉店価格で出している。「エイジングビーフ」はさらに低価格で提供し、話題を呼んでいる。熟成肉をメインに、ビストロ&ワイン酒場というコンセプトで中野に10月23日オープンしたのが「Tsui-teru!(ツイテル)」。「200g1480円!」で自家製熟成肉ステーキを提供。店の入り口に設えた幅3メートル、高さ2.3メートルの大きな熟成庫には、熟成中の牛、豚、鹿肉が塊のまま、時間経過毎に並べられている。そのダイナミックな光景には誰もが目を奪われ、熟成肉にシズル感を覚える。牛肉にアメリカンビーフを使うことで、通常100g・2000円以上はするという価格を100g・740円という破格値で提供することを可能にした。価格だけではなく、とにかく料理のクオリティが高い。同店を仕掛けたカオズの代表である鈴木潤一さんは、「肉をコンセプトとして、ちゃんとした料理を提供する普段使いのビストロ業態を手がけたかった」と話す。そして「いろいろと模索するなかで、まだ、日本で認知されていない熟成肉に興味を持ちトライすることにしました」とその経緯を話してくれた。日本国内では実際に熟成肉を提供する飲食店、資料が少ない中、自ら精力的かつ大胆な行動力で熟成庫、熟成肉に取り組み、オープンに至った鈴木さんの熱意が店の様々な点から感じられる。「Tsui-teru!」はカジュアルワイン業態の進化系としても注目すべきで、今後「熟成肉マーケット」が拡大していく起爆店になるに違いない。肉業態のトレンドも霜降りやホルモンから、赤肉志向に移ってくることは確実だ。 

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