(当日は、ホットペッパーグルメ外食総研 上席研究員の有木真理氏が沖縄からのリモートで司会を務めた)
講演1「2019年度 外食&中食市場概況」と「withコロナ時代の消費者動向」~稲垣昌弘氏~
こんにちは。ホットペッパー外食総研・上席研究員の稲垣昌宏です。ホットペッパーグルメ外食総研は、リクルートライフスタイルが持つ顧客接点とマーケットデータを活かして業界の変化や兆しを見つけ、発信していくことで、外食市場の創出や外食産業全体の発展に貢献することを目的としている調査研究機関。日々、外食・中食の定点調査やトレンドの発信などを行っております。
私は主に「外食市場調査」で得たカスタマーデータの収集・分析を行っております。この「外食市場調査」は、夕方以降の外食と中食の実態を把握するために、首都圏や関西圏、東海圏の20歳から69歳の男女約1万人に対し、インターネットにて日記方式でレポートしてもらったものです。2012年から毎月行っております。
本日私からは、それらのデータをもとに、「①withコロナ時代の外食動向まとめ」、「②外食&中食市場概況」「③withコロナ時代の消費者動向」の3つについてお話しさせていただきます。
コロナ禍の消費者意識の変化は、従来からの外食を取り巻く社会変化とリンク
まずは、「①withコロナ時代の外食動向まとめ」について説明させていただきます。
コロナ禍によって「外出の自粛」や「衛生意識の高まり」、「密の回避、非接触」、「リモートワーク」、「宅配、テイクアウト利用」、「生産者支援等、社会貢献的消費行動」といった社会の変化がありました。
こういった社会の変化は、外食にも変化をもたらしています。「会社やオフィシャル」での食事や「団体での宴会」などが減少し、「プライベート」での外食が増加。場所としては「職場近辺」「繁華街」が減少し、「居住地近辺」が増加。「ランチ」や「終業後」といった一律の時間から分散し、「混んでいない時間帯」で利用。そして、外食の内容としても「飲酒」が減少し、短時間化。当たり前品質としての「衛生対策」と、魅力的品質としての「外食である必然性」が求められるような流れとなっています。
結論としては、近年外食で続いていた流れがコロナ禍によってさらに顕著に、または加速した、という印象です。
外食市場が前年比の6割減に対して、中食は増加傾向
次に、「②外食&中食市場概況」をお伝えいたします。今回は、緊急事態宣言が発令されていた期間も含む4月から7月までのデータも持ってきました。
まずは最新の外食市場の状況ですが、この時期全体でみた外食市場規模は前年比6割減という厳しい推移となっています。性年代別には、特に30代や40代、60代の女性の間で、外食意向が減退している傾向が見られます。
続いて、業態別に見ていきましょう。最も厳しい数字が出たのは飲酒主体の業態で、前年比マイナス67.4%と、市場の3分の2が消失したというような状態です。特に影響が大きいのは市場規模の大きい「居酒屋」業態のマイナス67.6%。逆に、「焼肉、ステーキ、ハンバーグ等の専業店」や「ファミリーレストラン、回転寿司等」、「ラーメン、そば、うどん、パスタ、ピザ等の専売店」「牛丼・カレー等、一品ものの専売業態」といった、自宅でプロの味と同じものを作りにくい業態については、やや状況が良い印象があります。
次に中食市場の状況ですが、こちらの4月から7月の時期全体でみた中食市場規模は前年比で23.7%アップと、外食市場と比べて非常に好調な推移となっております。特に毎年4月に行っているテイクアウトの実態調査の結果を見ると「外食店からのテイクアウト」実施率は前年度が18.7%だったことに対して今年は39.4%と、テイクアウトをする人がほぼ倍増しているのがわかります。また、性年代別には、20代の男性や30代の男女の伸び率が高い傾向にありました。
品目については、「ピザ・パスタ」や「カレー・丼もの」、「中華・ラーメン」、「洋食」といった先ほどの外食市場調査で比較的調子が良かった業態と似たような品目が伸びております。
外食意向はコロナ禍によって半減。感染リスクへの懸念が理由に
次に、「③withコロナ時代の消費者動向」について報告をいたします。
6月と8月に全国1000人ほどの方を対象にして「コロナ禍における外食の意向」をテーマにインターネット調査を行いました。この調査の中で、外食に「行く」もしくは「行くつもりだ」と答えている人は6月に53.9%、8月は50.7%と、最新のデータでは外食意向が減退していることがわかります。これは、6月に緊急事態宣言が解除されるも7月、8月と第二波によるコロナ感染拡大があったことの影響であると考えております。
また、男女別に「外食に行きたくない、行けない理由」を聞いたところ、「感染しないか不安だから」という理由が最も多く、6月から8月にかけて大きく増えていることもわかりました。また、次いで多かった理由が「まだ自粛するべきだと思うから」というものでしたが、女性に限っては6月には61.6%という数字だったのが8月には51.2%と大きく減少しているため、周囲の目を気にするよりも感染から自分を守る、という自衛意識が強くなっているのではと推測しています。
感染対策について8月の調査結果では「実際にお店の様子」を見て確認する人が65.8%と、全体の3分の2ほどの割合を占めておりました。また、感染対策の内容については「席の間隔が空いているか」ということが64.7%と、気にしている人が多いことがわかります。
調査で見えた、外食の本質的な価値
続きまして、6月の調査では「緊急事態宣言中に外食に対して恋しかった体験」というのも聞いたのですが、こちらは「自炊では難しい料理を食べること」や「食事相手との会話」、「食べたいものを食べたいタイミングで注文して食べること」といった声が多く寄せられ、この辺りが外食で食べることの本質的な価値に近い部分であるように感じました。
コロナ禍で社会は変化しており、それに対して外食の傾向も大きく変わっているように見えますが、実は従来からゆっくりと変わってきた流れが加速した、というようなことも非常に多いというのが、今回の調査で特徴として挙がってきた印象でした。
講演2「変革が求められる、今後の外食産業について」~竹田クニ氏~
みなさんこんにちは。竹田クニと申します。私の方からは先ほどの調査の発表も含め、それによって起きている社会の変化、消費者の変化によって、今後の飲食店はどのようなことが求められていくのか、について、具体的には「①コロナ禍で急速に進んだ『ボーダレス化』」、「②飲食店に求められていることは何か?」、「③改めて問われるマーケティングの重要性」の3つをお話しします。
コロナ禍で進んだ飲食カテゴリーの「ボーダレス化」と、変わらぬ外食の価値
まずは「①コロナ禍で急速に進んだ『ボーダレス化』」。ご存知のとおり、コロナ禍の状況の中で多くの飲食店がテイクアウトやデリバリー、通販に取り組んでおりますが、このことによって消費者側にはオンライン消費が定着し、この市場が大きく拡大したのだと感じております。従来、我々も申し上げていたことですが、近年、外食と中食、内食といった飲食カテゴリーの垣根を超えたボーダレス競争が激しくなっていたのが、コロナ禍によってさらに加速したのではないかと考えております。
ただ、こうしたボーダレス競争があったからといって、外食の価値そのものが減衰することはないと思っております。先ほどの稲垣の発表でもありましたが、「プロの料理」や「会話」、「自分のペースで食べる」といった外食の価値は、ある意味普遍的なものではないかと考えております。しかし、コロナ禍で大きく変化している市場の中で、「②飲食店に求められていることは何か?」ということについてお話ししていこうと思います。ここには、「CX(顧客体験価値)」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の2つの重要なキーワードが含まれております。
体験価値の提供は、飲食店主体から顧客主体の考えに変化
まず、「CX(顧客体験価値)」については、近年、20世紀の成功体験は通用しなくなることが囁かれておりました。具体的には、外食や中食、内食を担う小売。これらのプレイヤーが、それぞれのセールスマーケティングで商品を提供し、消費者は店側の合理性に合わせて選択をしていた、というのがこれまでの主流だったわけです。ところがこれからは、テイクアウトやデリバリー、通販といったものが進化するにつれ、消費者の「食べるという体験」も多様化してくると考えられます。これがすなわち「CX(顧客体験価値)」でして、このような消費者の、ある意味「わがまま」に対して提供する側がその形を合わせたり、変えていったりすることが今後の食ビジネスのあるべき姿になり、そのための変化はすでに始まっていると考えております。
従来の価値観に加えて「提供態」も重要なテーマに
ひとつ事例を紹介します。千葉県松戸市にある「エッグスカントリー」という洋食店ですが、こちらはもともとテイクアウトに取り組んでいる店舗でした。しかし、コロナ禍を機に、テイクアウトとデリバリーの専門業態を店舗の中で立ち上げたことにより、イートインとテイクアウト、デリバリーのそれぞれの業態を合わせて、店舗の売上は前年比で120~130%増加。さらに客単価も上がるという成果を上げています。
従来、飲食店ならではの価値は、「メニュー(調理、提供方法)」や「食材の質」、「ストーリー」、「空間の魅力」、「接客」といった5つで説明されておりました。しかし、今後は、顧客の都合に合わせた店外への提供方法。いわゆる「提供態」を6つ目の価値として加えることが求められていると考えております。そして、この6つの価値が、近年課題と言われてきた「生産性」についての議論に対して非常に重要なテーマとなってくると思っております。
テクノロジーを活用し、生産性向上を図る
生産性の議論を行うに当たって、先ほどから申し上げている「CX(顧客体験価値)」をどのように高めていくかが重要ですが、その実現のために大きく役立つのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」であると考えております。つまりは、テクノロジーを活用することによって顧客が享受する付加価値を高めることが、ひいては生産性の向上につながるという考えです。
また事例を紹介します。千葉県香取市にある「恋する豚研究所」という店なのですが、もともと人気店であったために長い行列ができておりまして、その改善策としてエアウエイトという受付管理ツールを導入していました。緊急事態宣言が発令されていた4月、5月は一時的に売り上げが落ちてはいたのですが、6月は前年比越えを達成。非常に早い回復ができたのは、このコロナ禍においても受付管理ツールによって行列という密の回避に繋がり、顧客が安心して利用することができた、ということが要因となったようです。
もうひとつ、千葉県や五反田に展開している居酒屋「炎丸酒場」の事例なのですが、こちらの店舗はもともと人出不足を解消するためにお客様のスマホから注文を受け付けるセルフオーダーシステムを導入していました。コロナ禍において、お客様からは感染症対策になると喜ばれたのはもちろんなのですが、店舗としてはこれまでスタッフが対応しきれなかった忙しい時間帯のオーダーが増加するという成果に繋がったといいます。
こういった事例は、もともと外食産業で遅れていた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の活用が「CX(顧客体験価値)」と生産性の向上に繋がったケースかと思います。今後、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は「手段」であり、「CX(顧客体験価値)」が「目的」である、この議論が非常に重要になると考えております。
市場環境の変化によって競合店は増加。マーケティングはより重要に
続いて、「③改めて問われるマーケティングの重要性」についてお話しいたします。従来、私たちホットペッパーグルメが提唱してきたのは「①街」、「②ターゲット」「③シーン」のみっつの要素が飲食店のマーケティングの基本としていました。前提として、この基本は変わっていないこととしてお話しします。
このコロナ禍の状況において、デリバリーや通販の市場が伸びてきていますが、多くのデリバリーサイトを見ると、半径3km圏内の店舗が表示されます。つまり、これまでのイートイン主体の市場環境ではライバルになり得なかった店舗、3km先の店舗もライバルになってくるということです。さらに、その競争には店舗の立地は関係なく、「商品」のみの勝負となります。競争環境が変化したことに対して、改めてマーケットインで考えていくことが重要になってくるのではないか、そのように考えております。
街の有りようで異なる消費にアプローチすべし
ホットペッパーグルメ外食総研では、2012年から「タウン」という概念で街ごとによる商品の違いを見つめてきました。例えば、家族や親族との利用が多いタウンがあれば、仕事の取引先やお客様との利用が多いタウン、ひとりでの利用が多いタウンというように、街ごとに様々な消費の違いが出てきます。
事例をご覧いただきます。東京都中野区にあるMUという会社なのですが、こちらはいくつかの業態をやっています。その中で「ネオビストロ MURA」という店舗はこのコロナ禍で売上が前年比で10~20%程度まで激減しましたが、住宅街立地の店舗だったため、お弁当販売を開始。全体では前年比80%ほどまで回復しました。一方で、繁華街の店舗を休業して、東京都世田谷区に高単価のテイクアウト惣菜店「街の惣菜と弁当屋さんBet池尻大橋」をオープン。外食自粛中の「ちょっと贅沢したい」という高単価に対するニーズに応えることで、計画値を上回る売上を計上しました。こうした勇気ある取り組みが、我々としても勉強になるのではないかと考えております。
食サ分離による生産性向上が今後の重要なテーマに
ご提案したいテーマのひとつとして、「食サ分離」というものがあります。昨年頃から言い始めていることなのですが、同じ料理でもイートインなのかテイクアウトなのか、はたまた通販なのかといったように、「提供態」によって仕様や価格が異なることが、消費者に理解され始めております。この食事とサービスの概念分離が、需要と供給に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」に繋がっていくのだと考えております。実は、この概念は宿泊産業や航空機、美容業など、他の業界ではすでに定着しており、外食業界でも徐々に広がりつつあるという事例が出てきております。
例えば東京都渋谷区の定食店「お食事処 asatte」では、6月から混雑状況によってランチの価格が変わるという取り組みをしており、結果的に客単価が10~20円ほど向上。ピーク以外の時間帯の集客数も上がり、全体の集客数の向上にも繋がったという成果を上げています。「ステーキ店では焼き手によってサービス料が異なる」といったように、こうした事例は他の店舗や業態でもいくつか出てきております。今後、「CX(顧客体験価値)」を獲得し、生産性を向上させるという課題に対して「ダイナミックプライシング」というのは重要なテーマになっていくのではないかと考えております。
コロナ禍によって加速した未来への対応
本日お話しした生産性向上に対する課題は、従来から議論されており、もともと変わらなければならないと言われていたものでした。そのことが、コロナ禍によって、いわゆる未来への対応が加速してやってきたと言えるのかもしれません。
私たちホットペッパーグルメ総研は、世の中の変化をとらえ、外食産業や外食産業を支援するお仕事をされている皆様とも力を合わせながら、今後も業界の発展に貢献する努力を継続していきたいと考えております。