「快適な空間と空気感をどうつくるかというところに、外食の魅力があると思います」と赤塚氏は断言する。「渋谷道玄坂DRAEMON(以下、ドラエモン)」は、路面角地に立地し、全面ガラス張りの店頭は入店しやすい雰囲気がある。店内は中央にキッチンを設け、それを囲むように対面カウンター席やハイテーブル席を設える。店内奥の数段上がったロフトには、グループ客を集客するテーブル席を用意。店内のどこに着席しても、キッチンのライブ感を目で捉えることができる開放的な空間が特徴的だ。
「オープンキッチンは、そのお店の活気にあふれた空気感を伝えるのにベストなスタイルだと思います。キッチンスタッフの活気は自然と客席にも伝わり、お店にいるみんなの気分を高揚させることができる。おいしいものはコンビニでも十分事足ります。外食だからこそ提供できる価値の一つが、快適な空間と空気感づくりにあると考えますね」(赤塚氏)。
ドラエモンでは、全席喫煙可のスタイルを採用。名古屋で経営する店も含め、系列店はすべて全席喫煙可としている。このスタイルを赤塚氏は「土地柄もある」と話す。「名古屋は日常的に10~20名の宴会需要があります。その団体客を吸収できるかが繁盛店になるかどうかのポイントとなるため、団体客向けの喫煙席は必須です。また、地方では分煙や全面禁煙のお店はほとんどありません。こうした意味でも、禁煙席の設置はお店にマイナス効果を生みかねないのです」と続ける。それでも最近では、客単価5,000円程度のアッパーな客層をターゲットにする業態の客から、分煙を求める声も上がってきているという。
一方で、ドラエモンの客単価は3,300円の低価格バル業態であるため、迷わず全席喫煙可を採用した。また、毎日営業後にスタッフ全員でその日のことを報告し合う「反省会」を実施するが、今のところその中でたばこに関しての声はあがったことがないという。「私どもで把握しているたばこが苦手な常連様には、喫煙客から席を離すなどの対応をしています。それ以外は特にサービス面での対応はしませんが、お客様からの苦情は一切あがってきませんね」(赤塚氏)。
バル業態は席間隔が狭く、賑々しい雰囲気が魅力の一つだ。そういった中ではたばこの煙やにおいを気にする客は多くないが、苦情などのクレームが一切出ないのは、店内の給排気設備の整備を徹底して行なったことが要因の一つに挙げられる。店内中央のキッチンには、ピザ窯、コンロ、洗い場の3箇所に強力な排気口のみを設置。そして、客席には数カ所の給排気設備を設けることで店内を効率的に換気し、快適な空気環境に保っている。「給排気のバランスがとれていないお店は多いです。給気が十分確保されていないと出入口からすきま風が吹いたり、扉が重くなったりします。そこで強制給気を行なうことで給排気のバランスをうまく保ち、店内の空気環境を最善な状態にしているのです」と赤塚氏。店の空間や雰囲気に配慮した店づくりが、必然的に喫煙環境の配慮にもつながっているようだ。
第8回居酒屋甲子園の頂点に輝いた「ドラエモン」を率いる赤塚氏
情報に敏感な30代以上をターゲット層にした東京の飲食店で、たばこに対する批判的な声が一切ないという店は珍しい。ドラエモンは、料理、サービス、空間、雰囲気が客の満足度を高めるものであれば、全席喫煙可でも、たばこを吸う客、吸わない客どちらも満足させられるということを証してくれる好例と言えるだろう。