―最近生産者の顔が見える食材を使う店も多いですが、「トスカーナ」もそうですよね。それもかなり以前から導入している。
はい。代々木店にいたとき、無農薬の野菜をお客様に紹介してもらって食べたのが始まりです。ルッコラやマスタードの葉を食べたとき、身体が喜んでいるのに気づいて、「これはすげぇ!」ってなったんです。それから農家さんのところに直接行って、仕入れてもらうようになりました。自分がおいしい思ったものを、人に食べさせるのが好きなんですよね。
そうしているうちに、肉もやりたくなって、放牧しているストレスフリーの豚肉や、僕の地元・船橋の漁港で先輩が漁師さんをしているので新鮮な魚を仕入れるようになりました。
そうした食材を入れるとき、絶対嘘をつかせないことを徹底させています。例えば無農薬野菜が天災の影響で入ってこなかったときは、「今日は無農薬野菜が入ってこなかったので、大田市場の八百屋さんの野菜で代用させてもらっていますけど良いですか」って言いなさいと、スタッフには厳しく伝えています。
まだまだ商売20年、その先もずっと続くような商売をしたい。ただその場の金儲けを考えるのではなく、末永く付き合いもできるようにお客様の健康を考えたものを出すことが重要だと思っています。
創業当初から通い続けてくれていた子どもが、20年後結婚して子どもを産んで連れてきてくれたり、商売にはそういう感動があるんですよね。
よく回転が悪くなるとか単価が落ちるとかといって、子供を敬遠するお店が多いですが、うちは永く経営する事を前提に商売をしているので、それをありがたく思いなさいと話しています。
―御社の社員比率は9割にも及ぶとお聞きしたのですが、人材を大切にするところに、ヨツヤエンタープライズの特徴の一つがあると思います。その辺はどのようにお考えですか?
「料理を大事にしたかったら、人を大切にしなさい」と。あとは、自分が若い頃上下関係の厳しさで、辛い思いをしてきたので、そういう思いはして欲しくないと思っています。飲食店で働いて嫌いになって辞めていく人が多いので、そういうのをなくしたい。料理や飲食店をもっと好きになって欲しいんです。
当社は、調理師学校を出たての、まだ仕事のできない子ばかり育てています。そういう子を先輩が面倒みる事で、自分も仕事を覚えて人間的にも成長するんで自然と良いサイクルができるんです。
仕事の教え方としては、まず「仲間だよ」と言う事を伝えなさいと。次に、相手の個性、能力を見て、教える前に相手のことを学んでから、最後に仕事を教え始めなさいと言っています。
-テクニックではなく、まずは人格を認めること。人間同士尊重し合うことが大切ということですね。人件費率が高くなりそうですが、給料に関してはどのような取り組みを行っていますか?
人件費は40%と、どうしても高めになってしまいますね。
給料査定には「人材評価システム」を考え導入し始めました。主に、接客サービスと料理のロールプレイング、筆記テストをポイント制にし、それに応じた給料を支払うシステムです。
接客サービスのロールプレイングでは、基礎、産地や特徴を説明できるかどうかの知識、笑顔で送迎できているかの“また会いたい度”、そして礼儀と、チェクポイントを分けトータルで100ポイントにしています。
あとは、産地や社訓、イタリア料理のことを分かっているかどうか、看板商品の「日本一おいしいミートソース」のおいしさを伝える7つの言葉が頭に入っているかどうかを判断する「筆記テスト」。これも100ポイントですね。
料理のロールプレイングは、スタンバイが完全にできるようになると50ポイント、加熱するストーブができるようになると100ポイント。あとは、スピードや指導力、年に3回変えられる季節のイタリア風土料理の新メニュー発表会で採用されるなど能力によって加点します。
また、自己分析チェックシートで、自分で自分を評価してもらっています。そもそも、自分の事が解っていないとどんなに正しい評価をしても納得いかないですから。
その後に店長と取締役がチェックし、点数の妥当性を判断、個人面談の流れで給料を決定します。
この評価シートは、実名で全店の休憩室に張り出します。これは、人事部長、営業部長、常務、僕の給料までもパソコンで共有し、誰でも見られるようにしていますね。
努力して成長し結果を出せば出しただけ評価が上がるというのが利点です。やっぱり長くいるってだけで給料をもらえる、配属先の店の売上げによって給料を左右されるのは違うと思うし、そもそもその場所に出店を決めたのは経営者ですから、やる事をちゃんとやっていれば売上げは自然に上がります。なので売上げはスタッフのせいにしません。成長報酬主義に変えようという事です。
-なるほど。成長報酬主義にするのは、これからの事業展開を見据えてのこともあるのでしょうか。では最後に、今年は20周年ということで、改めて事業のビジョンとバリューが見えてきたと思いますが、それについて教えてください。
当社の社訓「料理を通じて多くの人を幸せにすること」が一番の目標です。ここで言う人というのは、お客様はもちろん、従業員、協力会社さま、当社に関わるすべての人を幸せにできるようにしたいです。
とにかく社員が成長することは、会社の成長につながります。常に改良を加えて、組織を強くしていこうと考えていますね。
これから商業施設に3店舗を出店するので、リストランテ事業部と新たにファーストイタリアン事業部を作り二本立てで、今後の展開をスムーズにしていきたいと思います。
目標は、イタリアンのリンガーハットや吉野家。どこの街に行っても気軽に本格的な生パスタとナポリピッツァが食べられるようにしたいですね。
(インタビュアー・佐藤こうぞう)
四家 公明 氏プロフィール
ヨツヤエンタープライズ有限会社、代表取締役社長。高校卒業後18歳で、新宿・高層ビル街にある「スパゲッティ ハシヤ」に就職。上下関係が厳しく、自身の反抗心もあり仕事を教えてもらえず、仲間はずれにされるなど、苦戦を強いられる。そこで、先輩に可愛がられている後輩を見習い、心を入れ替え仕事に取り組む。その後、店長会議やマニュアルを導入するなど企業体制の改新に務める。24歳で蒲田店の店長代理として配属され、300万円の売上げを1000万円まで引き上げることに成功。退職後、1992年に武蔵小山で「スパゲッティ&PIZZA・WINE とすかーな」を創業。1999年に代々木店、2004年に吉祥寺店を出店。その2年後の2006年に経堂店、2008年に六本木店、2010年に神谷町店と2年スパンで出店を果たす。現在、六本木店は閉店し、事務所やテストキッチンなどとして利用している。9月には川崎はじめ、今秋には鶴見駅ビル、大手町フィナンシャルシティ ノースタワーと、商業施設へ3店舗を同時出店する。
TOSCANA
http://www.toscana-pasta.jp/
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