コロナで打撃を受けたインバウンドに代わる客層を開拓すべく、居酒屋業態に挑戦
渋谷のバー「The SG Club」を始め、中国・上海の「Speak Low」、グループ店の渋谷「The Bellwood」など、国内外でバーを展開するSGグループことSGマネジメント(東京都渋谷区)。同社を率いる後閑信吾氏は、世界的に知られたバーテンダーだ。2006年に渡米し、バーテンダーの腕を磨く。ニューヨークの名店「Angel’s Share」でヘッドバーテンダーを務めたほか、2012年には、バーテンダーの世界大会にアメリカ代表として出場し優勝。アジアの優れたバーテンダーに贈られる「ASIA’S 50 BEST BARS 2019」では、個人として最高賞の「ALTOS BARTENDERS’ BARTENDER」を受賞するなど、数々の実績を持つ。2014年にはSGグループを立ち上げ、独創的なカクテルで多くの人を魅了し続けている。
これまでバー業態を展開してきた同社だが、今回は“カクテル居酒屋”の新ジャンルを打ち出している。その意図について後閑氏はこう話す。「『The SG Club』はじめ当社の店舗では、これまでお客様の多くがインバウンドでした。昨年春頃から、新型コロナの影響で集客が落ち込んでしまい、今後は国内のお客様に対する業態を考える必要がありました。加えて、『The SG Club』の1階フロア『Guzzle』は、バーに慣れていない若い方にも楽しんでもらえる場所を目指していましたが、それでもまだまだハードルが高いと思う人も多かった。より多くの人にバー文化に触れてカクテルを楽しんでほしい。日本人に馴染みのある居酒屋なら、気軽に利用してもらえると思ったんです」。「ゑすじ郎」は、居酒屋と言っても主役はあくまでカクテル。バーと居酒屋の垣根を取り払い、バーはハードルが高いと思う人にもカクテルに親しんでもらうための店だという。「居酒屋は海外の人からも人気の業態。いずれインバウンドが戻ったときに、外国人が日本で行くべきスポットのひとつになりたいという目論見もあります」とも話す。
一方で、居酒屋として、ドリンクだけでなく料理にも注力したいと、料理長には、ニューヨークで人気のレストラン「SakaMai」に立ち上げから参画しシェフも務めた古河厚志氏を招致。以前、後閑氏がアメリカで働いていた際に親交があったという。後閑氏とともに2人を中心に店づくりを行った。
「レモンサワーはカクテルのひとつ」。バーテンダーが本気で作る、渾身の1杯が揃う!
同店では居酒屋らしく「お通し」があるが、提供されるのはバーカクテルの代表格であるマティーニだ。一般的に30%程度あるアルコール度数を12%ほどに抑えて飲みやすくしたマティーニを、週替わりのフレーバーにアレンジして出している。こうした“居酒屋らしさ”と“バーらしさ”の融合が、同店の店づくりには散りばめられている。
ドリンクメニューには、レモンサワーにハイボール、お茶割と居酒屋定番のドリンクが並ぶが、SGグループの手にかかればひと味もふた味も違う仕立てになる。「レモンサワーはカクテルの1種だと思っています。多くの店で様々なレモンサワーが提供されていますが、カクテルならばバーテンダーである私達が作るのが一番美味しくできるはず」と後閑氏。レモンサワーのバリエーションは14種類。ベースとなるのは「本気のレモンサワー」(900円)で、後閑氏いわく「世界一手間をかけている」という。しまなみレモンの皮を漬けてレモンの油分を移したオーガニックシュガーに、非加熱のオーガニックはちみつ、絞らずに果肉を手で取って質感を残したレモン果汁を合わせたコーディアルを作る。それにレモンの皮を漬け込んだスピリッツを合わせて炭酸で割った1杯だ。
この「本気のレモンサワー」をベースに、スピリッツを変化させるなどしてバリエーションを用意する。例えば「サウナーズレモンサワー」(900円)は、「サウナ後に飲みたいレモンサワー」をイメージ。同社が蔵元と共同してオリジナルで作っている「SG焼酎」の芋焼酎に、グレープフルーツの皮を漬け込み、少々の塩を加えることでポカリスエットのような味わいを表現。また、「ゲイシャでレモンサワー」(1200円)は、コーヒーの高級品種であるパナマ産のゲイシャ種の豆を牛乳に漬け、そこからタンパク質を取り除いた透明な液体を濃縮し、それをレモンサワーにしたものだ。ゲイシャ種特有の華やかな香りとレモンの柑橘が融合する1杯。その他にも「揚げ物用レモンサワー」「煙と塩とレモンサワー」「経験的レモンサワー」……と、商品名だけでもワクワクするレモンサワーが並ぶ。
それ以外にも、ひとひねりを加えたオリジナルのハイボールやお茶割、「赤くないレッドアイ」(1000円)、「波動拳ニコラシカ」(800円)などのシグネチャーカクテルが充実。自然派ワイン常時グラス5品、日本酒5品も揃う。
フードは、日本の居酒屋がアメリカで独自に進化を遂げたizakaya文化に、世界各国の料理の要素を融合させた品々が揃う。豚骨ラーメンをイメージしたポテトサラダの「ラーメンポテトサラダ」(800円)、唐揚げにレモンブリュレを絞り、北アフリカ風ソースとともに味わう「鶏の唐揚げハリッサソース」(900円)、古河氏の古巣「SakaMai」で人気の「雲丹とボーンマローの混ぜ麺」(2200円)、同社が上海で運営する「Sober Company」のシグネチャーメニュー「フォアグラ麻婆豆腐」(1800円)など、ユニークな品々が目白押しだ。すぐ出るつまみから、冷菜・温菜、揚げ物、肉料理、ごはん・麺、デザートまで。世界で活躍する後閑氏がこれまで触れてきた各国の食文化がヒントに、アジアや南米、インドなど、多国籍な要素も散りばめている。
居酒屋業態で新たな客層の獲得に成功。相乗効果で「The SG Club」の来店も急増
オープン初日から現在に至るまで、連日、満席状態が続いているという。「前日や当日に一気に予約が埋まる傾向が強いですね。当店に限らずコロナ禍では多くの店舗で事前に約束して外食に行くよりも、直前に決めて訪れる方が多いようです」と後閑氏。店に看板はなく、雑居ビルの2階と通りがかりの来店は望めない立地だが、既存店のファンや、SNSで知ったお客が多く来店。「『The SG Club』には来たことのない方がリピーターになることも多く、狙い通り新しい客層の開拓につながっています」。また、同店の開業により、同店から徒歩1分ほどの「The SG Club」へ二軒目として来店するケースが増える相乗効果もあったという。
今後はフードとドリンクのペアリングにも注力し、よりメニュー全体の魅力を高めていきたいと考えている。「今回、居酒屋という今までとは違う業態にチャレンジできて楽しかった。今後も、このようにバーを軸にしながら違う業態を融合させた店に挑戦できたら」と後閑氏は話す。
コロナ禍だからこそ思いつく企画を打ち出し、危機を乗り越える
コロナ禍で集客が落ちた際、同社では次々にユニークな企画を打ち出し、危機を乗り越えてきた。例えば「The SG Club」では、密にならない少人数で高単価の予約制のカクテルペアリングコース「SG AIRWAYS」(価格は月による。最終月の「ファーストクラス」コースは22,000円+サービス料10%と税)を企画。これが好評を博し、売上の確保につながった。さらに、今年の緊急事態宣言では、スピークイージー営業を開始。外壁の全面をベニヤ板で覆い、「テナント募集」の看板を下げてまるで閉店してしまったような佇まいに改装。しかし、実は営業していることを密かに伝えるメッセージが書かれた張り紙を店頭に掲げ、そのメッセージに気づいた人だけが店に入れるという、遊び心あふれる演出が話題となった。「こんな時だからこそ思いつく企画でお客様を楽しませたい」と、ピンチをチャンスにとらえ、チャレンジ精神あふれる後閑氏。これからも人々をあっと驚かせ展開を見せてくれるはずだ。
店舗データ
店名 | ゑすじ郎/SG LOW(えすじろう) |
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住所 | 東京都渋谷区神南1-9-4 NCビル2階 |
アクセス | 渋谷駅から徒歩8分、原宿駅から徒歩10分 |
電話 | 03-6416-0608 |
営業時間 | 16:00〜20:00(LO19:30)※緊急事態宣言中の短縮営業時間 |
定休日 | 無休 |
坪数客数 | 15坪32席 |
客単価 | 6000円 |
運営会社 | 株式会社SGマネジメント |
オープン日 | 2021年2月10日 |
関連リンク | THE BELLWOOD(記事) |
関連リンク | ゑすじ郎(FB) |
関連リンク | ゑすじ郎(Instagram) |
関連ページ | SGマネジメント(HP) |