原点は学生時代のバイト。知識を武器にお客に認めてもらうことにやりがいを見出す
西麻布交差点近くの路地裏に佇む古民家。表にはごく控えめな表札のみ、知らなければ通り過ぎてしまいそうな佇まいの「夜寄(よよ)」。同店では、席に着くなり「当店にはメニューがないので、食べたいものを言ってくださいね」と店主の友寄 樹氏が声をかける。リクエストをもとに、その日仕入れた食材を即興で料理するという一風変わったスタイルだ。
友寄氏は現在32歳。今から14年前、大学時代に八重洲の日本酒居酒屋「夢酒知花(ムッシュチハナ)」でアルバイトをしたことで飲食の楽しさに目覚める。「当時は18歳でしたが、日本酒の知識を身に着けると、年上のお客様でも『若いのによく知っているね』と、僕のことを認めて対等に接してくれた。それが楽しくてのめり込みました」と友寄氏は話す。学生時代はほぼ毎日、3~4カ所の飲食店でアルバイトに打ち込んだという。
卒業後も飲食の道へ。西麻布で飲食店を展開するYクリエイト(東京都港区、代表取締役:森山裕介氏)の運営する和食店「旬味 森やま」に勤務。2年ほど経った2012年、同社の「西麻布 角屋」のオープンと同時に店長に就任した。以降、7年に渡って店を切り盛りし、今では日本酒の名店として知られるまでに成長させると同時に、「たっちゃん」の愛称で多くの常連にも親しまれた。
やがて30歳を過ぎ、時機と感じた友寄氏は満を持して独立へと舵を切る。物件は9年間を過ごした西麻布を中心に探した。「古いものが好き」という友寄氏が選んだのは、昭和25年以前に建てられたという2階建ての古民家。「なかなか空き物件の出ないエリアですが、探しに探し、契約にこぎつけることができました」と話す。
品書きを用意しないことは、お客と店、双方にとってメリット
物件は2階建て一軒家だが、現在は1階のみで営業。奥に伸びる長方形の店内にはロングカウンターを置き、計8席(補助席ありで最大11席)を並べる。営業中は友寄氏1人で接客・調理をこなす。
同店にフードの品書きはないが、和のおばんざいを中心に、軽くつまめる小鉢からハンバーグや生姜焼き、〆にチャーハンやナポリタンなどを提供している。その日ごとに仕入れる食材の他、お客が持ち込む食材で調理も可能。お客とのコミュニケーションを交えながら、メニューを決めていく。値付けも状況に応じてだという。
ドリンクは常時40品を置く日本酒がメイン。グラス500~700円で提供する。他、生ビール、サワー、ワイン、ウイスキー、焼酎は各種500円、ハイボールが600円、ソフトドリンクは400円で用意。
品書きナシというスタイルを採用した理由について、友寄氏はこう話す。「お客様にとっては気分によって食べたいものを自由にリクエストできるし、店側は決まった品書きがないというのは、ある意味で運営上楽なのではないかと思うんです。品書きを決めると、それらの品は毎日必ず提供できるよう食材の調達や仕込みをしなくてはならない。そうではなく、その日ある食材を活用して臨機応変に料理できれば、食材を効率的に回してロスもなくなる。お客様とコミュニケーションを取って、お客様の食べたいもの、こちらが提供したいものをすり合わせれば、双方にとって幸せなんじゃないかと思うのです」。
目指すは“西麻布の母”のような存在。今後は“ワンオペ”をキーワードに活動も
オープンから2カ月弱、告知や宣伝はほとんどしていないが、「角屋」時代の常連や、そこからの口コミで毎夜満席が続いているという。「目標は“西麻布の母”のような存在になること。『お母さん、あれ食べたい』と、まるで実家に帰るような気分で来店してほしい」と友寄氏。
今後については、「人手不足が叫ばれる昨今、ワンオペはひとつのキーワードになる。この店も僕1人で運営していくつもりですし、店舗展開をするとしてもワンオペで回せるような店と人材を作りたい」と友寄氏は話す。地方でプロデュース業にも取り組んでいく予定だ。
店舗データ
店名 | 夜寄(よよ) |
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住所 | 東京都港区西麻布1-12-13 |
アクセス | 六本木駅・広尾駅から徒歩11分 |
電話 | 03-6438-9183 |
営業時間 | 18:00~翌3:00(LO翌2:00) |
定休日 | 日曜・祝日+不定休 |
坪数客数 | 10坪8席、最大11席(1階部分のみ。今後2階も店舗とする可能性あり) |
客単価 | 4000~5000円 |
運営会社 | 株式会社劇場 |
オープン日 | 2019年8月5日 |