神泉といえば、渋谷から京王井の頭線で一つ目の駅でありながら、代官山、恵比寿、表参道、原宿とは比べものにならない街の規模であるが実力店が多い。神泉商店街出口近くにある、明治40年創業の平野屋酒店に「Beer Stand Hiranoya」(ビアスタンド ヒラノヤ)が11月25日オープンした。ベルギービールをはじめヨーロッパのビールを100種以上揃える角打ちとして、平野屋酒店に新たな歴史の1ページが始まったのだ。
創業以来、代々受け継がれてきた商売を守りつつ新たな事業へ積極的にチャレンジするのは、平野屋五代目の平野明良氏。もともと家業を継がず、大学卒業後は商社に就職した同氏。振り返ると、2009年のリーマンショックが転機となったと語る。早期退職の道を選び、家業を継ぐ決意。しかし、時代の流れとともにやむなく閉店する取引先の飲食店も多く、店の売り上げは店頭販売より配達の割合が多くなっていた。ただ商品を仕入れて並べるだけの酒屋では生き残れない。何か特色を入れて集客する必要がある。店に来てもらうためにはどうしたら良いかと考えた。
何もないところからスタート。自分が好きなベルギービールをチャネルにするため、ベルギービールを扱う飲食店で4年間アルバイトをして勉強。ベルギーをはじめ、ドイツ、イギリス、スペイン、フランスの本場へ視察にも行った平野氏。現在は100種以上のヨーロッパのビールを揃えるまでになったが、輸入業者に直線コンタクトを取り、パイプをつくるまでに3年かかったという。ウッディな店内には、ヨーロッパにある酒場の雰囲気が漂い、おひとり様でも女性でも気軽に入れる店づくりを心がけている。酒屋だからできることは「いろんな国のビールを売ることが出来ること。酒販店価格で飲めるのも角打ちならでは。また、店内で飲むだけでなく、気に入ったビールがあれば買って帰れること」と同氏。
ここへ来て、ぜひ楽しんでもらいたいのは「樽生のベルギー、ドイツビール」。樽替えでラインナップは次々と変わる。今ならカラメルモルトの香ばしい甘味とスパイスの効いた、芳醇でやさしい口当たりのノエル(クリスマス)ビール「St Feuillien CUVVE DE NOEL(サンフーヤン・キュべ・デ・ノエル)」が800円で味わえる。ほかにも、温めて飲む珍しい冬季限定のベルギービール「Liefmans Gluhkriek(リーフマン グリュークリーク)」(750ml 2084円)が店内に並んでいる。通常のチェリービールにシナモンやクローブ、アニスなどのスパイスが加えてあるので温めて飲むとチェリーの甘酸っぱさとスパイスの香りが混ざり合い、体がポカポカ温まる。ヨーロッパではこの時期よく飲まれる「グリューワイン」に匹敵するほどの人気だとか。アテには、ベルギービールに欠かせない「ムール貝のオーブン焼き」(500円)や「肉の伊勢屋金賞ソーセージ3種」(700円)など、こだわりの品々。
立ち飲みがひとつの新しい外食スタイルとして定着した一方で、角打ちは減りつつある。今の時代だからこそ、求めるのは酒だけではない。場を共有することで生まれる喜びがそこにはある。100年以上この土地で続いている老舗だからこそ、地域のコミュニティとして残っていてほしい。他店との差別化を図るためには、商品のブラッシュアップが不可欠であると同時に居心地の良さがキーとなっていくだろう。