東京都台東区と文京区の境に位置する「よみせ通り商店街」はかつて藍染川だった。大正9年に水路として工事を行ない、その上に通りが作られた。朝市が開かれ、夜は大道芸人も集まる楽しい夜店通りだったという。歴史があり今でも下町風情の残るこの商店街に、クラフトビールを中心とした「ビアパブイシイ」が4月28日のオープン以来繁盛している。店は8坪とこぢんまりとしているが、全面ガラス張りのファサードで開放感にあふれている。17時の開店とともに、ふらっと一人で飲みにくる近所の常連さん、会社帰りのサラリーマン。30~40代の男性客が多いが、女性一人客や友人同士、カップル、20代の若い層から70代の粋な紳士まで幅広い客層が集まる。オーナーの石井寛之氏は「20年ほど前にイギリス旅行で、地元の人達が集まるコミュニティとしての役割を持つパブの文化を知り、日本でパブを開きたいと思った」と話す。その後、10数年飲食店でバーテンダーやキッチンでの修業を重ねた後、自宅近くに同店を開業した。
コンセプトは「日本国内で丁寧に造られたクラフトビールが楽しめる店」。自身もビールが好きな石井氏。以前はギネスを中心に考えていたが、ここ数年で味わい・質ともに進化が著しい国内のクラフトビールを導入した。造り手に会いにブリュワーを訪れることもある。クラフトビールは3タップ。味わい別に軽め、重めなどバランスよく仕入れる。取材日は、ビアバディ(東京)の「ペールエール」、アウトサイダーブルーイング(山梨)の「ビターラガー」、「インペリアルスタウト」。価格はUKサイズのパイントが1000円、ハーフパイントが600円。その他、常設としてキリンビールの「ハートランド」(レギュラー 800円、ハーフサイズ 500円)を入れている。その日のクラフトビール銘柄はホームページ、フェイスブック、ツイッターなどで知ることができる。取引メーカーは7社。今後も増やしていく予定だ。
フードは軽いつまみから、しっかりと食べられるメニューまで展開。毎日の仕入れによってメニューを変える。一人でも軽くつまめる「セロリのピクルス」(300円)、女性に人気のひよこ豆のペースト「フムス」(400円)、ハーブビネガーを使用しさっぱりとした「アンチョビポテトサラダ」(400円)、ほろほろとした食感でブラックペッパーが効いた「豚のリエット」(500円)は、ビールとの相性も抜群。しっかりと食べられる食事メニューは、ビアパブの定番「フィッシュ&チップス」(900円)がおすすめ。ダイナミックに穴子まるまる1本を揚げる。また、日曜日限定でポーク・ラム・チキンなど、その日の仕入れによってグリルする「サンデーロースト」(1200円~)も登場する。いずれも気取らず、がっつりと食べてほしいという石井氏の思いがつまっている。
「ビアパブイシイ」は、客にとっての使い勝手や心地よい空間を提供する、いわゆる不変の価値を持つ居酒屋として、商店街にあり、生活に根付いていくことを存在意義としている。オーナーの石井氏は「お客さん同士がコミュニケーションを取りやすい店づくりをしていきたい。近所の人たちがふらっと立ち寄り、ビール片手に、イギリスのビアパブのような交流の場となってもらえれば嬉しい」と話す。近所に一軒欲しいうまいビールが飲めるビール屋さん。「ビアパブ」の本来のかたちを体現する店が「よみせ通り商店街」に生まれた。