新橋4丁目に「江戸前ビストロ EDOGIN(エドギン)」が2012年9月19日オープンし、既に6ヶ月が過ぎようとしている(運営:inspiration Inc、代表:鎌田高生氏)。同店は1908年魚屋として開業して以来、江戸前割烹を営んできた老舗である。4代目オーナー鎌田氏は16年前に代を引き継ぎ、和食とフレンチを組合せた「新ばし江戸銀」を開店させ人気店となったが、7年前に一時閉店。看板は共に店を立ち上げたシェフの中川裕常氏が受け継ぎ、金沢へ出店し人気店となっていた。そして昨年、満を持して7年ぶりに新橋へ復活リニューアルを遂げた。
店長兼シェフの中川シェフは「フランス料理歴30年」の経験を持つベテランだが、探求心が強く、「金沢では趣味の海釣りを通し、漁師から魚について徹底的に学んだ」という。取材した日の刺身は”三宅島のおきたべ“と”長崎産のカンパチ”の盛り合わせ。カンパチは背中部分を肉厚に切り、脂がのった腹部分は薄めに切っている。「刺身はもちろん鮮度が命だが、切り方によって全く味が変わるからおもしろい」という同氏は食べ方も提案する。わさびではなく、大島産の島唐辛子を輪切りにし、醤油に漬けて食べる「EDOGIN風青唐辛子で食べる刺身」。中川氏に刺身に合う酒を聞くと「青唐辛子の清涼感を生かす、スペイン産ハーブの効いた白ワインがおすすめ」と答えてくれる。また、刺身に赤ワインを合わせたい客には、「醤油に赤ワインを数滴たらして提供する」そうだ。「メニューに合わせてベストな組合せのワインを提案する」と中川氏。ちょっとした味の調整で「お刺身と赤ワインも合うようになる」という。
人気の料理「極上〆鯖(しめさば)」(990円)は仕入れた鯖のコンディションにより、酢、塩の配合を調整。表面を炙り、ポン酢で食す。伝統の味を受け継ぐ「新ばし江戸銀 銀だら西京焼き」(1290円)、「三浦半島松輪鯖酢洗い」(1090円)。築地から各地の新鮮な魚を仕入れ、状態に合わせた柔軟なメニューづくりを心がけている。「カンパチのカルパッチョ」(990円)は年中通して同じ味になるよう、一定ではない野菜の味を調整しつつドレッシングを作る。ビストロ定番メニュー「ラムチョップとフライドガーリック」、「牛フィレとゴルゴンゾーラのマリアージュ」(各1690円)。16年前から不動の人気を誇る「海老クリームコロッケ アメリケーヌソース」(790円)。ぷりぷりのエビに自家製クリームを混ぜてコロッケを作り、えびのみそと頭の殻から作る、甲殻類独特の甘味とコクが堪能できるソースを合わせる。“和”と“フレンチ”という異なるメニューがこの店では自然と融合している。
ビール会社やワイン会社から酒に合うメニューの提案を依頼されることが度々あるという中川氏。提案したメニューは雑誌や企業ホームページに掲載されているそうだ。「たとえば、一般的にワインと卵は合わないと言われているが、スパークリングであれば合う味もある。ワインはどんな料理にも合い、最初から最後まで合わせることが出来るので店でもさまざまな種類を揃えている」と同氏。店には大きなワインセラーが設置されており、ボトルワインは赤・白・泡を40種程度、3000~4000円代を中心に産地にこだわらずシェフがメニューに合うものをセレクト。ヴィンテージワインも20種程度用意。グラスワイン赤・白ともに490円から。その他ドリンクは、ビール、日本酒、焼酎、ウィスキーをはじめ、カクテルの種類も数多く揃える。
また、「簡単にできるおもてなしのお鍋料理」、「卵でできる美味しいお料理とデザート」など、オープン当初から継続し、中川シェフによる料理イベントを月に1回開催。「身近な題材をテーマにしながら、ちょっとした工夫でまったく別の料理ができる」といった、プロならではの調理方法やアイデア満載の内容となっており、ランチに来店するOLや、近隣の主婦に人気。中川シェフは「自分もオーナーも”食文化の普及伝承”をしていきたいと思っている。当店で料理を楽しんでいただくことのほかに、「“食を自ら作りもてなす喜び“をお客様にも共感してもらえたら嬉しい。そして、店を増やしながら若いシェフに当店のメニューを伝えていきたい」と同氏。中川シェフとオーナー鎌田氏の使命感、メーセッジが取材を通して伝わって来た。