専門店化が続いている居酒屋業態だが、最近では昔懐かしく何でも食べられるという形態の店舗が活気を見せ、再び台頭しはじめている。その一つとして挙げられるのが、4月22日、ナチュラルキッチン(本社:沖縄県那覇市、代表取締役・吉崎俊朗氏)が、恵比寿にオープンした「吉崎食堂」だ。街に溶け込み、近所の人々が毎日でも通ってくれる第2のダイニングをコンセプトに、店内は子供連れのファミリー層にも優しい造りになっている。店内には個室が用意され、予約状況によっては子供連れで訪れる客が優先的に使用できるとのことで、今まで小さい子供がいることで、居酒屋を断念していた客にも利用しやすいのがポイントだ。特にこだわっているのが椅子で、高さ・幅ともに座りやすく、家で飲んでいるようにくつろいで座れるので、客からも好評を得ているそうだ。すでに沖縄では当たり前として根付いている“家飲み”居酒屋の雰囲気がここにはある。もともと、ナチュラルキッチンは沖縄料理専門店をやっていた「由ら」のグループ会社である。「由ら」は沖縄料理ブームのリーディングカンパニーとして、代表の吉崎氏が、沖縄料理での出店を考える多くの企業のコンサルティングを手掛けて、成功を収めてきた。 実際に以前あった「沖縄’n」は17坪で840万円(7時間営業)と、2009年まで、常に前年比を超えていた。ナチュラルキッチンが4年前に沖縄の内地(本土)へ居酒屋として出店した「吉崎食堂」が、地元に愛される店に成長したことで、今度は内地から「南の島の居酒屋」として逆上陸を果たす。料理は、沖縄料理が中心ではあるが、あくまでも沖縄料理専門店ではないという。ラインアップは沖縄産の珍しい食材を使ったメニューほか、栃木産の無農薬の有機野菜を用いたメニューなど、産地を問わず美味しい食材を使うことにこだわっている。特に目を引くのが「豆腐よう」(680円)だ。今までの「豆腐よう」のイメージを覆す美味しさで、酒がすすむこと請け合い。これは、金武部の鍾乳洞で一年間寝かせたもので、通常は8カ月待ちの代物だそう。吉崎氏はこの味に衝撃を受け、グランドメニューとして店に採用するために、沖縄に居住権を移して地域の人々と交流を深め、数年通い続けた挙句に、やっと現定数取引が可能になったという。その他、注目の料理としては、一人からでも注文できる「石垣島ラー油鍋」980円で、素材を引きたてる「自家製食べるラー油」も脇役ながら見逃せない。ヒバーチ(石垣島の七味)を筆頭に数十種のスパイスを効かせたラー油は、くせになる美味しさで鍋に良く合う。また、新鮮な魚類はヤンバル北部地域から直送し、古宇利島産の島うに(白ひげうに)については、生は7~8月しか手に入らないものだという。これからの季節にぜひオーダーしてみたい。しかも、価格は沖縄本店と同じ設定というのもうれしいところ。「今後は積極的に出店をすることだけを考えず、良い人材や良い物件と出会えれば出店していきたいですね。それよりも、その土地の人々に“なくてはならない店”として認知してもらえるような、地域密着型の店を目指し、地方の名産の味や文化を伝えていければ」と、吉崎氏は語る。また、同氏は、沖縄の人と触れ合う度に、「ガツガツと店の回転数を気にするのではなく、大切なのはその人たちに合った満足度を提供する」という、ゆっくりだが確実な沖縄流のビジネスを学ぶことができるという。今後は、自分が育ててきたスタッフが力をつけてくれば、一人一店、店を持たせていきたいという、熱い目標もあるそうだ。 後輩を育てていきたいという吉崎氏の想いは、同氏がスロー出店方針を掲げていることに関係なく、常に社員のモチベーションを上げているのだ。「由ら」グループは居酒屋のデフレ時代に肩の力を抜いた経営戦略で、着実に売り上げを伸ばしている。実際に沖縄本店は4年前から連続して前年比120%をキープし、最近になっても99.8%と景気の影響は少ない。 経営方針に煮詰まった際は、一度勇気を出して目の前の問題から離れて俯瞰してみてはどうか。新しいヒントに出会えるかもしれない。
店舗データ
店名 | 吉崎食堂 恵比寿店 |
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住所 | 東京都渋谷区恵比寿南2-3-2 T・ナカムラビルB1 |
アクセス | JR恵比寿駅西口より徒歩3分、地下鉄恵比寿駅より徒歩1分 |
電話 | 03-5704-8867 |
営業時間 | 17:00~24:00(L.O.23:30) |
定休日 | 無休 |
坪数客数 | 45席・17坪 |
客単価 | 3500円 |
運営会社 | 株式会社ナチュラルキッチン |
関連リンク | 由らグループ |