鴨頭嘉人氏
日本マクドナルドでの勤務を経て独立。チャンネル登録者数100万人超の人気YouTuberであり、年間200回以上の講演をこなす「炎の講演家」。2021年1月、一般社団法人日本チップ普及協会を立ち上げる。
一般社団法人日本チップ普及協会
https://tip.inc/
マクドナルドのSV時代に気づいた、スタッフのモチベーションの源泉とは?
チップとは、飲食代とは別に素晴らしいサービスを受けた時、そのスタッフ個人に対して支払うお金。金額はサービス内容に応じて払う人の裁量で決まるので、スタッフの大きなモチベーションになります。アメリカなどの海外では一般的な慣習ですが、日本ではまだまだチップ文化は根付いていない。コロナ禍で飲食店がピンチに見舞われている今こそ、日本にチップ文化が必要だと立ち上がりました。
私は現在のようにYouTuberや講演家として活動する以前、日本マクドナルドで働いていたのですが、その時の経験が原点となっています。マクドナルドでは現場からキャリアをスタートし、やがてSVに昇進。様々な店舗を管理するようになりました。その中で気づいたのが、どんな店舗にも必ずホスピタリティ溢れるスタッフがいるということ。多くの店舗がマクドナルドでは、働く人の雰囲気が良い店がある一方で、中には悪い店もある。しかし、たとえどんな悪い店でも、必ず1人か2人は周囲の雰囲気にも影響されず高いホスピタリティを発揮しているスタッフがいるんです。「そんな環境で、なぜ頑張れるんだ?」と疑問に思い、彼ら彼女らにモチベーションは何なのかを尋ねていました。すると、表現は違えど皆共通して「お客様に『ありがとう』と言われることがやがいだから」と答えるんです。私はこれにいたく感動すると同時に、どんな状況でもお客様からの「ありがとう」という声、そしてそれを嬉しく思う気持ちがあればサービス業はよくなると確信しました。
SVとしてスタッフのモチベーションを上げるにはどうすればいいのかを日々考えていましたが、私の出した答えは、会社がスタッフのモチベーションを上げるために何かけしかけるのではなく、お客様がスタッフに「あなたのサービスがよかった」とほめることが何よりも効果的なんだということでした。この理論でいくと、行動を変えるよう促すべきは、会社ではなくお客様。今いるマクドナルドという企業をどうこうするのではなく、世の中にいる「お客様」に働きかけて変えていかなければならない。そう思い、私は会社を退職し、独立しました。
精神的満足でなく収入アップがなければ、モチベーションの向上につながらない!
そうしてまず始めたのが「ハッピーマイレージ」という取り組み。店を利用したときにホスピタリティが素晴らしいと思うスタッフがいても、それをなかなか本人に伝えるのは少しハードルが高い。そこで、「ハッピーマイレージ」というカードをスタッフに渡して「ありがとう」を伝えよう、というものでした。10年前に始めて、現在までに110万枚のカードを発行しました。このカードを通じて多くのサービス業で働くスタッフを褒めることで、スタッフのモチベーションにつなげる。ひいては「この仕事をしていてよかった!」とやりがいを感じてもらい、サービス業で働く人の地位向上になればと考えていました。ただ、これだけでは不十分だったんです。それに気づいたのが、ロサンゼルスで訪れたレストランで、でチップ文化を直に感じた時でした。
講演家としても活動する中、1年半ほど前にアメリカ・ロサンゼルスですし店でスタッフ向けに講演をしてほしいと依頼をいただきました。ロサンゼルス滞在中は、すし店のオーナーのアテンドでロサンゼルスの名店と言われるレストランを何軒も訪問。正直、私はホスピタリティではアメリカより日本の方が優れていると思っていました。しかし、どのレストランでもスタッフは皆、日本の比ではないくらいのホスピタリティで迎えてくれたのです。彼らはお客様を心から楽しませようという気概であふれている。私は不思議に思ってすし店のオーナーに聞いてみると「チップだよ」と教えてくれました。提供する接客によってチップの金額が変わってくる、そりゃスタッフの目の色が変わって当然です。聞けば、多い人では一晩で日本円にして2万円のチップをもらうということで、これは衝撃的な事実でした。
そこで気づいたんです。私自身にお金のメンタルブロックがあったということに。カードを渡して褒めるという「ハッピーマイレージ」は我ながらよい仕組みだと思っていましたが、褒められたスタッフの精神的な満足にはなれどお金にはならない。経済と結びついたエコシステムにしないと文化として定着しませんし、サービス業で働く人の地位向上にもならないと気づきました。
こうした経験から、日本でもチップの文化を作ろうと決意。しばらく構想を温めていましたが、奇しくもコロナ禍で飲食店が大変な今こそ、チップで飲食店に貢献する意義は大きいと思います。しかし、日本ではチップを渡すという習慣がない。お客様からもらったお金をそのまま懐に入れるのは税制上の問題もありますし、何よりはスタッフ自身がチップを受け取ることに強い抵抗があるのが課題です。日本人は無意識に「お金儲け=汚いこと」という刷り込みがある。実際に飲食店のスタッフにチップを渡そうとしても、何だか悪いお金を受け取るように思うのか、断られることすらあります。
チップを渡しやすい・受け取りやすい仕組みを整備
そこで、今回チップを気兼ねなく渡せる仕組みを作りました。このようなカード(下写真)を店のテーブルに設置し、お客様がチップを渡したいスタッフがいれば、そのスタッフの名前とチップの金額を記入してスタッフに渡します。そして会計時にその金額を加算した飲食代を請求。法律で定められた源泉徴収を差し引いて、チップはスタッフの給料に反映されるという仕組みです。
(これらのカードに渡したいスタッフの名前とチップの金額を記入する)
(ステッカーやPOPなど、チップ制度の加盟店であることをアピールするグッズも各種用意)
この仕組みを広めるため、まずはクラウドファンティングを実施します。飲食店は初期費用2万円と月額500円でこの仕組みを活用できる加盟店になれますが、今回のクラウドファンディングで集まった資金を初期費用2万円に充当します。200万円が集まるごとに100店舗が加盟できる仕組みにしますので、飲食店は実質月額500円だけでチップの制度を利用できます。クラウドファンティングは今春にも開始予定。同時に、チップの文化を作るために加盟してくれる飲食店も募集中です。ご興味のある店舗は、ぜひチェックをお願いします!
※クラウドファンティングの実施や加盟店募集については以下のHPで随時告知予定。気になる方はチェックを。
一般社団法人日本チップ普及協会
https://tip.inc/